第2部
第21章 地図にはない場所
朝日が昇り始め空の色が明るくなってきた頃、国の門の前に大翔と飛鳥は立っていた。人々に見られる前に国を出ようと考えての行動だった。
「随分と早く出発するのね。起きる時間はいつもと変わらないから別に問題は無いけど」
「勇者が国を出るってなったら多くの人が騒ぐかもしれないからな、それを避けるためだ」
朝が早いからか周りを見ても外には人がいない。そんな中1人の男性が2人に近づいてきた。警備隊長のジンだった。門の警備を任されているらしく、出国するにはギアード王の許可よりもジンの許可が必要ということだった。
「ジン隊長、すみません、こんなに朝早くから」
「いえ、構いませんよ。お二人がこの国を出てしまわれる前に挨拶が出来て良かったです。手続きはすでに終わっていますのでいつ出国されても大丈夫ですよ」
「ありがとう、ジンさん。それじゃあ、行くか」
「うん。ジン隊長、それじゃあ、行ってきます」
「お気を付けて」
ジンとの挨拶を終えて2人は門を通って国の外に出た。魔王討伐、そして飛鳥以外の勇者を探す旅が始まった。
国を出て歩き出してからいくらか時間が経ち、空はすっかり明るくなっていた。2人が歩いている場所は、見晴らしの良い草原だった。
「当たり前のことだけど、国の外に出ると世界が変わったように思えるわ」
「この世界に来てからずっとカイギルスの中にいたんだっけか?」
「うん、だから何だかワクワクしちゃって。大翔は、カイギルスの外から来たわよね?」
「まあ、来たというか、落とされたというか。とにかく、実際にこうやって歩いてこの世界の景色を見るのは俺も初めてだな」
「この世界を守る為に気を引き締めていかないとね」
カイギルスを出る前に貰った地図を頼りに前へと進んで行く。問題も無く進んでいたのだが、道の途中で森を見つけた。
「森があるけど、ここを通って行くのか?」
「変ね、森なんて地図には書かれていないけれど」
飛鳥が見ている地図を大翔も見せて貰う。
「確かに書かれていないな。じゃあ、この森は一体何なんだ?」
「気になるけど、元々ここを通る必要は無いし、先へ行きましょう」
地図に書かれていない森ではあったが、魔王がいる城に向かうのに森を通る必要は無い。飛鳥は、地図に示された道を進もうとしていたが、大翔は森に対して違和感を感じていた。
「いや、この森に入ってみよう」
「えっ? ちょっと待って」
大翔は、違和感の正体を知る為に森の中に入って行き、飛鳥もその後を追った。入ってはみたが、おかしなところは見当たらない。
「どうしたの? 何か不思議なところでもあったの?」
「飛鳥は、この森に入って何か違和感を感じないか?」
「特に感じないけれど、周囲の魔力も調べて見たけれど何の反応も・・・」
飛鳥も大翔の言う違和感に気付いた。
「気付いたか? この森には生き物がいない」
「魔力が小さいだけとか?」
「いや、そうだとしても少しも反応しないのはおかしい。これだけ広い森なんだ、生き物がいれば数もかなり居るはずだ。それが、全部反応しないのは変だ」
「じゃあ、本当にこの森には生き物が・・・」
「・・・いや、いない訳じゃないみたいだ」
大翔は、何かが近づいて来ているのを感じた。飛鳥もその事に気付き、茂みの方に目を向ける。茂みからゆっくりと現れたのは、魔獣だった。見た目は虎のようで、毛は全体的に白く、爪は鋭く尖っている。
「虎みたいな魔獣ね。私が相手をするから大翔は少し下がってて」
「待て、飛鳥。まず、様子を見させてくれないか?」
「でも、襲ってくるかもしれないわよ?」
「大丈夫」
そう言って、大翔は魔獣に近づき話しかけた。
「ここはお前が住み処にしている場所なのか? だったら、勝手に入って悪かったな。この森のことが気になって入ってしまったんだ」
魔獣は、警戒をしてはいるが襲ってくる様子はない。大翔はもう少し近づいてみようとした瞬間、声が聞こえてきた。
「早くこの場から立ち去れ」
「嘘っ、しゃべった」
「しゃべる魔獣がいても別に驚きはしないが・・・、ここはどういう場所なんだ?」
「答えるつもりはない。さあ、早く立ち去れ今なら見逃してやる」
「俺の質問に答えてくれるならすぐに出て行くよ」
「答えるつもりはないと言った筈だ。これ以上何かを聞いてくるつもりなら容赦はしない」
魔獣の言葉を聞いて、飛鳥はいつでも刀を抜けるように構えるがその行動を目で合図して止めさせる大翔。少しためらった飛鳥だが大翔を信じて刀から手を放した。
「容赦をしないっていうのは俺達に襲いかかってくるってことか?」
「そうだ。最後のチャンスをやる。ここからすぐに立ち去れ、さもなければ貴様らの命は無いぞ」
「言ってることは怖いけど、目の前にいる魔獣からは別に殺気とかは感じないぞ?」
「私を馬鹿にするのか?」
「その私っていうのは一体誰のことだ? 魔獣のことか? それとも魔獣の後ろの方から声を飛ばしている人のことかな?」
大翔が言い終わると同時に魔獣の後ろから何かが出て来て一瞬にして大翔との距離を詰めた。飛鳥にはその姿が目で追えて居らず気が付いたときには、フードを被った何者かが大翔にナイフを突きつけていた。
ナイフを首に突きつけられていた大翔だったが、微動だにせず魔獣のいる方に向いていた。
「何故避けなかった?」
「そっちこそ容赦しないんじゃなかったのか?」
「・・・シロが全然警戒していなかった。だから、少なくとも危険な奴らではないと思った。少し驚かせばこの森から出ていってくれると思った」
「シロっていうのは、そこにいる魔獣のことか?」
「そう。次は、私の質問に答えて、何故避けなかった? 死んでいたかもしれないのに」
「言葉では色々と言っていたけど、俺らを殺そうというよりとにかくこの場所から遠ざけようとしているのを感じたからかな。避ける必要がないと思ったんだよ」
「・・・それはただの直感では?」
「そうかもな。でも、現に今生きてる」
「・・・ふっ、君は中々変わっているね」
「いきなりナイフを突きつけてくる奴に言われてもな」
フードを被った人物は、ナイフを降ろして大翔から少し離れた。それを見て飛鳥は大翔に駆け寄った。
「大翔、大丈夫?」
「おう、問題無い」
「良かった。あんまり心配させないでよね?」
「悪かったよ」
心配と少し怒っているようにも見える飛鳥の表情を見て、大翔は素直に謝った。
「それで、あなたは一体何者なの?」
「・・・・・」
「答えられないか?」
「・・・いや、君達には話しても良いかもしれない」
そういうと、フードを外してその顔を見せた。フードの下に隠されていたのは金色の髪の毛と緑色の瞳をした綺麗な少女だった。特に印象的だったのは彼女の耳で、その耳は普通の人よりも大きく少し尖っていた。
「・・・私の名前は、クローム、クローム・エルダンテ。エルフよ」
「エルフ・・・初めて見た」
「俺も」
「君達は怖くないの?」
「何が?」
「エルフは昔、人の国を1つ滅ぼしている。そのことは今も語り継がれている筈だ」
「ああ~、すみません、私達異世界から来たからその話し知らないです」
「異世界から・・・だが、この見た目は怖いのでは無いか? この耳を見て逃げ出す者もいた」
「逃げ出すなんて不思議な奴らだな。こんなに綺麗なのに」
「綺・・・麗?」
大翔の言葉を聞いて、大翔の腹に肘を入れる飛鳥。お腹にもろに入り苦しむ大翔。
「お、お前、いきなり何を」
「・・・別に」
「綺麗か、そんなことを言われたのは初めてだ。同じエルフにも言われたことは無かった」
「ところで、どうしてここから私達を追い出そうとしていたの?」
「それは・・・」
少し話すか悩んでいるクロームのところにシロがすり寄って来た。クロームは、シロに笑い掛けて頭を撫でた。
「そうだな。彼らには失礼なことをしたからな、ちゃんと話さなくてはいけない。少し長くなってしまうかもしれないが――」
「別に構わないよ。聞いたのはこっちの方だから」
「分かった。私に付いてきて欲しい、移動しながら話しをしよう」
クロームは、シロと共に森の奥へと進み出した。大翔と飛鳥は、言われたとおりクロームの後を付いていった。
地図には載っていない森の真実を知る為に森の奥へと進んでいく大翔と飛鳥。この先に2人を待ち受けるものとは一体――。
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