第20章 0から1

 清志から話しを聞いた次の日、大翔と飛鳥はギアード王に会いに城に来ていた。昨日聞いたことをギアード王に話し意見を聞くために。

「なるほど、そのような事が・・・その老人は一体何者なのだろうな」

 2人は、清志の事は出来るだけ話さないでおくことにした。異世界と連絡を取れる手段が出来たことや過去に勇者としてこの世界に来ていた人物と話していたことを言えば混乱してしまう可能性があるからと判断した。

「さあ、私達にも詳しくは分かりません。しかし、嘘を言っているようにも思えませんでした」

「他に勇者を召喚したり、勇者がいる国は何処か知らないか?」

「申し訳ないが私には分からない。そもそも、勇者が複数人いることを知らなかった訳だからな」

「他の国との連絡とか来てないのか?」

「来ていない。この世界では、あまり他の国と交流することは無いからな」

「なら、こっちの情報も何処かに知られてはいないってことか?」

「ああ、恐らく」

「これじゃあ、他の勇者を見つけるのはかなり難しいわね」

「まあ、そんな幸先の良いスタートが切れるとは思って無かったさ。それより、ギアード王この国から出たら2度と入れないとか無いよな?」

「もちろん、何か理由があって追い出されていない限り何度でも入国可能だ。何故、今そのことを?」

「魔王討伐の為にこの国を出ようと思ってな、あまり悠長に構えている暇も無いだろう」

「ならば、尚更入れぬ筈が無い。世界の為に戦ってもらっているのだから」

「それで、ギアード王、魔王が何処に居るのかは分かっているのですか? 確か、魔王は4人いる筈ですが」

「全ては、知ることが出来ていないが、今分かっているのは2人だ。魔王カースと魔王レオンだ」

「その2人は何処に?」

「魔王カースは、この国を出て西に進んだ城に住んでいる。魔王レオンは、北に進んだ場所にダンジョンを造りその奥にいる」

「西の城と北のダンジョンて、結構曖昧な情報な気がするんだが」

「確かにその場所を見つけられるかどうか・・・」

「いや、どちらも場所が近くなると辺りが暗くなり空気の魔力濃度が高くなっているらしい。2人なら見つけられる筈だ」

「運要素がかなり必要な気がするんだが」

「でも、魔力濃度が高いなら何か感じとれるかも」

「まあ、行ってみるしかないか。どっちがこの国から近いか分かるか?」

「それなら、魔王カースがいる西の城の方だ」

「それじゃあ、先にその魔王カースのところに行ってみましょうか」

「そうだな。じゃあ、善は急げってことで今から行くか」

「えっ? 今から? 流石にもう少し準備した方が良くない?」

「その通りだ世良殿、相手は魔王なのだ。もっと、慎重になるべきだ。それに、道中出て来る魔獣にも気を付けなければならない」

 大翔の発言に驚くギアード王。大翔の実力は、宝条が幻影に取り憑かれた時の一件で聞いてはいたが自分自身の目で見ていなかった為、信じ切れていなかった。大翔も自分の力のことは出来るだけ知られたくないと考えていたので、あくまで自分は飛鳥のサポートに回っていたと伝えていた。飛鳥は、この事について不満があったようだが大翔の事情も知っている為、何も言わずにいた。

「せめて、明日にしてくれない? それなら色々と準備も出来るわ」

「分かった。それじゃあ、明日の朝にこの国を出て魔王のいる場所に向かうとするか」

「明日・・・それでも早い気はするが、君達が決めたのならこれ以上は何も言わないでおこう。何か必要な物があれば言って欲しい。君達が出発するまでには揃えておこう」

「お気持ちは嬉しいのですが、私達よりも国の人達の為に何かしてあげて下さい。国を出たら私は人々を守ることが出来ませんから」

「しかし・・・」

「ここにいる勇者様は自分の事より他人の方が大事だからな、言うとおりにしといた方が良いと思うぞ」

「何だか嫌な言い方」

「そんなことは無いさ」

「・・・分かった。何も出来ないのは少し心苦しいが、その分無事に帰って来ることを願っておこう」

「ありがとうございます」

「そうだ、王様、城の書斎にある本て持ち出したりしても大丈夫か?」

「・・・大翔、今何も要らないって言ったばかりじゃない」

 飛鳥が呆れた表情で大翔の方を見る。大翔は、飛鳥の方を見ないようにしながら話しを続ける。

「飛鳥は、そう言ったけど俺自身は言ってないからな」

「あのね・・・」

「それでどうなんだ? 国にとっても大切な物が多いとは思うが」

「確かに書斎にある本は、古くから城に置いてある物が多いがあまり読まれてはいない。あの場所にずっと置かれているよりも誰かに読まれる方が良いだろう」

「それじゃあ、持ち出しても大丈夫なんだな」

「ああ、そのまま世良殿の本にしても構わない。ただ、何を持って行くのかだけは教えていて欲しい。こちらも把握しておきたい」

「分かった。それじゃあ、後で書斎の本を選んで持っていかせて貰うぜ」

「他に必要な物はあるか?」

「いや、大丈夫だ」

「そうか。・・・空月殿、世良殿、2人のご武運をこの国から祈っている」

「はい、頑張ります」

 ギアード王は、頭を下げて2人の無事を祈った。飛鳥は、その気持ちに応えられるように返事をし決意を新たにしていた。

 その日の夜は、大翔も飛鳥も早めに就寝していた。

 寝たはずの大翔だったが、急に意識がはっきりして目を開けるとあの場所にいた。そう、リンネのいる場所に。

「まさか、動き出そうとした時にこの場所に来ることになるとは思わなかったな」

「迷惑だった?」

 後ろから声が聞こえてきた。大翔は声の方を向くと、そこにはリンネが立っていた。リンネの表情は少し暗く、悲しそうな目で大翔を見ていた。さっきの大翔の発言を聞いて不安になったらしい。大翔は、そんなリンネを見て優しく微笑んだ。

「大丈夫、迷惑じゃないよ。いきなりだったから少し驚いただけ」

「本当に?」

「もちろん、リンネの方こそ俺が来て迷惑じゃなかったか?」

 リンネは、思いっきり首を横に振った。

「そんなことない! 大翔にまた会えて凄く嬉しい!」

「そうだな、また会えたなリンネ」

「うん!」

 リンネは笑い、先程の悲しい表情は消えていた。リンネが笑顔になったことに安心する大翔。

「それで、今日は何をして遊ぶ?」

「その、大翔と遊びたいんだけど、その前に聞かせて?」

「何を?」

「この場所に来るまでにあったこと。きっと、何か危険な事が起きたんだよね?」

「分かるのか?」

「何となく、少しだけどこの場所にも情報が入ってきてるから」

「少し、話しが長くなるけど良いか?」

「うん、聞かせて欲しい」

 大翔は、リンネに何があったのか出来るだけ分かりやすく話した。影についての出来事、清志が異世界から連絡してきたこと、そしてこれから何をしようとしていたのかを。リンネは、全ての話しを聞き漏らさないように真剣に聞いていた。

「これで全部話せたと思う」

「ありがとう。・・・ごめんね」

「どうして謝るんだ?」

「そんな大変な目にあっていたのに、私は何も出来なかったから」

「仕方ないさ、俺自身は大して怪我もしていないし大丈夫だよ」

「でも、大翔がいた国の人達は」

「勇者のおかげで皆生きてる。今、頑張って壊れた街を修復させているよ」

「・・・私は」

 下を向き、何も出来なかった自分を責めるリンネ。悲しくてまた気持ちを沈ませていると頭を大翔に優しく撫でられていた。

「リンネは、誰かと話すことが出来たのは俺が初めてだったんだろう? 本当なら誰かに何かを伝えることも出来ない筈だったんだ。それでも、何か自分に出来ることがないか考えて行動しようとしただけでも俺は十分だと思うよ」

「だけど・・・」

「大体、この世界はリンネがいないと存在出来ないんだから、顔を上げてもっと堂々としていろよ」

「・・・うん、分かった」

 大翔に言われ顔を上げたリンネの表情は、少し泣きそうだったのをこらえて笑っていた。

「へへへ、大翔には励まされてばっかりだな」

「そうだっけ?」

「うん、その、頭を撫でて貰えるのも嬉しいし」

「あっ、わ、悪い」

 大翔は無意識でやっていたことに気付いて、リンネの頭から慌てて手をどかした。

「大翔は本当に優しいね」

「い、いや、そうでもないさ」

 恥ずかしそうにしている大翔を見て笑うリンネ。そして、少し真剣な表情で大翔に言った。

「・・・大翔、無茶しないでね」

「気を付けてはおくよ」

「約束だよ?」

「・・・今日は、あまり遊べなかったからまた今度だな」

「うん、そうだね。また今度」

 リンネと話していた大翔だったが、気付けば夢から覚めてベッドの上にいることが分かった。リンネとの最後に話したことを思い出す。

「無茶しないでか・・・」

 目を覚ましたが、まだいつも起きている時間ではないと思った大翔はもう一度寝ることにした。夢を見ることはなく、しっかり体を休めた大翔だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る