第17章 幻影
今にも雨が降り出しそうな空の下で、大翔は影の存在を前にしていた。雰囲気の変わった影だったが、また元に戻っていた。大翔は、警戒はしながら影に質問する。
「お前達、影は一体どういう存在なんだ?」
「どういう存在だと言われてもな、見ての通りだぜ?」
「ただの影にしか見えないぞ」
「あー、また、影って言ったね。影じゃなくて、
「幻影?」
「そうだ、これからはそう呼んでくれよ?」
「それで、幻影は一体何がしたいんだ? この世界の均衡を崩しているのもお前達なのか?」
「さあ、どうかな?」
大翔は、幻影に質問するがふざけてまともな答えが返ってこない。
「それじゃあ、人の体の中に入り暴走させるのは何故だ?」
「俺はただ、負の感情が大きい奴のところに導かれて入ってるだけさ」
「それじゃあ、城の中に入って来たのは」
「そこで死んでいる奴の感情に反応したからだな。かなり黒かったぜ、こいつの心」
「どうしてわざわざ反応した場所に行くんだ」
「求められているからさ」
「何を?」
「力さ。自分が弱いと思った人間は力を求めてくる。もちろん、全てじゃないが負の感情が大きい人間は人を征服したいが為に力を求める。まあ、最終的に死んでしまう奴が多いけどな」
「力を元過ぎた人間の末路か」
「俺からもお前に聞きたいことがある」
「何だ?」
「お前、訪問者だな?」
大翔は、幻影が口にした言葉に驚きを隠せずにいた。自分が訪問者だということは、ユキしか知らない。
「どうしてそんなことが分かる?」
「まず、俺の存在を認識出来ていること、普通の人間は俺のことをまず認識すら出来ない」
「(確かに、城で見た時の幻影はその場の全員認識していたが、俺がこいつを追っている時は誰も気付いていなかった)」
「もう一つは、俺が完全に同化した人間に攻撃を与えられていたことだ」
「だが、それなら最後に俺の知り合いが攻撃を与えていただろう?」
「あの弓矢で攻撃した奴だな、あの魔道具にはお前の魔力が混ざっていたんだ。だから、攻撃が当たったんだよ」
確かにそう言われてみれば、大翔が来る前に攻撃していた飛鳥の斬撃が、宝条に効かなかった事にも納得がいく。
「それで、俺が訪問者だと?」
「そうだ。実は、俺は訪問者に会うのは初めてなんだ。だから、少しわくわくしていてね」
「何にだ?」
「お前と戦えることをだよ!」
幻影は、手の形を変えて鋭い爪で大翔に攻撃を仕掛けてきた。大翔は、意表を突かれたが冷静に動きを呼んで攻撃をかわした。
「おお~~、意表を突いたつもりだったんだけど、流石に避けられるか」
「まだ、話しの途中だと思ったんだけど?」
「悪いな、話しをするのはもう飽きたんだ」
「おしゃべりが好きなんじゃ無かったのかよ」
「ほら、次だ!」
今度は連続で攻撃をしてくるが、全て避ける大翔。幻影の攻撃を呼んで腕を掴んで投げ飛ばそうとする。しかし、掴もうとした瞬間幻影の腕が消えてしまった。大翔がそのことに驚いていることを見逃さず幻影は、大翔に強力な一撃を入れた。大翔も避けようとしたが間に合わずまともに食らってしまう。
「残念、今ので内蔵まで裂けたかと思ったんだけど」
大翔は、確かに幻影の攻撃を食らったが、服だけが裂けていて体の方は無傷だった。
「まさか、無傷とはね。訪問者って実は人間じゃないの?」
「正真正銘の人間だ、馬鹿野郎」
「はははっ、良いね、楽しくなってきたよ」
雨がポツポツと降り出してきた。次第に雨は激しくなり、大翔の全身が濡れるのに時間は掛からなかった。大翔自身は、雨に気付かないほどの集中力で幻影と対峙する。
「雨が降ってきたな。俺は、雨が好きなんだ」
「幻影でも天気を気にするのか」
「もちろん。ああ、でも、雨にも嫌いなところがあるんだよな~」
幻影は、雨を降らしている空を見ながら話しをしている。
「折角流した血をきれいに流してしまうところがな!」
大翔との距離を一瞬で詰める幻影。後ろに下がった大翔だったが、幻影は片方の手に力を込めていた。大翔は、避けられないと感じ、地面を割って壁を作った。幻影は、ため込んだ力を前方に放出した。
「食らえ、<<
幻影が出した攻撃が通った場所は、大翔が作った壁以外跡形も無く消えていた。
「今のは、流石に焦ったな」
大翔は、壁に気を流して硬度を上げて攻撃を防いでいた。後ろを見ると何も残っていない。
「これも、防ぐか~。俺の取っておきだったんだけどな~」
「だったら、もう諦めて大人しくしたらどうだ?」
「諦める? こんなに楽しいことをか? それは、無理な相談だ」
「じゃあ、いつまで続ける気だ?」
「俺が飽きるか、お前を殺すまで」
「つまり、自分の意思で終わらせる気はない訳か」
幻影に攻撃を仕掛けようにも、体を粒子状に分解されてしまい触れることが出来ない。どうすればいいか、悩んでいると
「大翔~! 一体何が起きてるの?」
飛鳥が、近づいて来ているのが分かった。
「う~ん? 何か余計な奴が来たな。別に、あっちに興味はないけど、邪魔されると面倒だし先に殺すか」
「おい、待て! 幻影」
「ちょっとだけ待っててくれよ、訪問者。あのうるさい虫を潰してくるから」
幻影は、大翔から飛鳥のいる方を向いて、飛鳥を殺しにいった。
大翔は、声を出して飛鳥に逃げるように伝えようとしたが、それでは間に合わない。飛鳥が逃げるよりも先に幻影が飛鳥を殺してしまう。
「くそっ、やるしか無いか」
幻影はすでに飛鳥の目の前まで来ていた。1度、止まり飛鳥を見る。飛鳥は、あまりの早さで現れた幻影に驚き一瞬固まってしまう。
「う~ん、やっぱり、お前じゃ楽しめそうにないな。悪いけど、邪魔だ、死ね」
幻影の攻撃に判断が遅れて、避けるのが間に合わない。飛鳥が殺される寸前に大翔が2人の間に現れた。幻影の腕を今度は掴んでいる。
飛鳥は、目の前に現れたのが大翔だと思いながらその姿を疑った。大翔の髪は銀色になっていて肌も白くなっていた。
「何で、俺の腕が捕まえれてるんだ? それに何だ、お前のその姿は」
「少し、自分の属性を変えたのさ」
「属性を変える? 一体何を言ってるんだ?」
「まあ、分からないよな。そういう俺の体質なんだよ」
大翔の声はいつもより静かな声だった。大翔が掴んでいた幻影の腕の場所は凍っていた。
「それで、何で俺に触れるんだよ。さっきまで触れなかったじゃないか」
「俺の今の属性は<<氷>>だからな。お前を掴んだというより、お前の周りの空気を凍らせたんだ。こんな風に」
大翔が力を込めると、一瞬で幻影の顔を以外の部分を凍らせた。
「なっ、う、動けない」
「お前は別に物体を通り抜けるみたいな能力では無いみたいだからな。雨にも普通にぬれてたし」
「だけど、俺は殺せないぜ。幻影には生という概念がないからな」
「分かってる。大抵そういう奴らは封印するって決まってるんだよ」
大翔は、服のポケットからお札を取り出した。そのお札を、幻影を閉じ込めている氷に貼る。すると、幻影の体が徐々に消え始めた。
「どうやら、上手く効果が発動したな」
「これは。はあ~~、俺の負けか~。まさか、こんな形で終わるなんてな~」
「諦めたか?」
「この状態じゃな。だが、まあ中々楽しめたよ」
「本当は、もっと色々と聞き出してからこうするつもりだったんだがな」
「それなら、楽しませてくれたお礼に1つ俺達のことを教えてやる」
「何だって?」
「俺達幻影は、俺を含めて7人いる。何処にいるのかは分からないが、中には人間の社会に上手く溶け込んでいる奴もいるらしい」
「待て、人間の社会に溶け込んでいるって、お前らはこの世界を壊すつもりじゃないのか?」
「少なくとも俺はそのつもりは無いぜ」
「じゃあ、一体誰が・・・」
「なるほど、何でそんなに聞いてくるのかと思えば、訪問者としての役割の話か」
「何か知っているのか?」
「俺達幻影がまずここまで活発に動けていることが問題なんだ。俺達は確かにお前らからしたら影なんだろうが、気を付けろよ、幻影よりも深い影がまだ存在する」
「影は、幻影だけじゃないのか?」
「いずれ知ることになる。この世界が生まれたときに同時に生まれた最初の影の存在を」
その言葉を最後に幻影は、札の中に封印された。封印が終わると同時に大翔の姿も元に戻った。さっきの姿でいるのは体力の消耗が激しく、大翔はその場に腰を下ろした。
「ふう~、疲れた」
「大丈夫? 随分と体力が落ちているみたいだけど」
「ああ、さっきの姿でいるのは結構しんどくてさ、強力ではあるけどその分、体力の消耗も激しいんだ」
疲れている大翔を心配していたが、幻影のことや聞きたいことを我慢出来ず
「ねえ、さっきのは何なの? 影がどうとか言ってたけど」
「そうだな、少し話しが長くなるかもしれないけれど全部話すよ」
大翔は、さっき幻影から聞いたことを飛鳥に話し自分が訪問者であることも話した。
「それじゃあ、大翔が図書館や城の書斎に行って調べ物をしていたのは、訪問者っていう存在が何なのか知る為だったの?」
「まあ、大体そんな感じだ。悪かったな、ずっと黙ってて」
「別に良いよ。大翔の立場になって考えたら何となくそうしたの分かるし」
「飛鳥・・・」
「でも、何か話しを聞けてスッキリしたかも、大翔の行動で不思議に思ったこともあったから」
「俺も話しを聞いて貰えて良かったよ。訪問者って言っても信じて貰えない気がしてたからな」
「正直、幻影とかをこの目で見て無かったら信じられてなかったと思う」
「認識してくれてて助かったよ」
2人は、街の様子を見た。宝条との戦いで壊れた建物、幻影との戦いで消えてしまったものが数多くあった。
「あんなに人がいて綺麗な街だったのに、守れなかった」
「でも、飛鳥のおかげで街の人達は救われた。この国の人達ならきっと前よりも良い街を作れるさ」
「そうだね、私も出来ることをしていかなくちゃ」
変わり果てた街を見ながら2度と同じ事を起こさないと心に誓った飛鳥。大翔は、幻影から聞いたことについて考えていた。
「ひとまず、城の方に戻ろう。皆意識が戻ってるかもしれない」
「うん、そうだね」
激しく降り注いでいた雨は、いつの間にか上がっていて雲の隙間から太陽が顔をのぞかせていた。
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