第16章 怒りと証明

 大翔は、宝条が戻ってこないうちに飛鳥の傷を治すことにした。

「酷い傷だな、今治してやる」

「大丈夫、私に余計な力を使わないであいつに集中して」

「いいから、じっとしてろ。どうせ全身痛くてまともに動けないんだから」

 大翔の言う通り、飛鳥の体はほとんど動けていない状態だった。大翔は、飛鳥を仰向けに寝かせて手当を始めた。

「少しくすぐったいかもしれないけど、我慢してくれ」

「えっ? 大翔そこは・・・」

 大翔は、飛鳥のお腹の辺りに手を置き、異世界で初めて使った力で飛鳥の傷を治していった。飛鳥の傷は、少しずつ消えていき体の痛みもかなり良くなった。

「悪いけど、今はこれで我慢してくれ。終わったら全快させるから」

「う、うん」

「どうした? 一応体の痛みは無くなったと思うが」

「大翔は、もうちょっと女の子の扱いを気を付けた方が良いよ」

「何だよ、急に」

 体の傷を治すためだと理解はしていたが、いきなりお腹を触られたことはやはり恥ずかしかったらしい。飛鳥が少し怒っているような気がしたが、大きな魔力が近づいてくるのを感じた。

「戻って来たか」

「不意打ちとは卑怯なことするじゃねぇか」

 隠しているが、大翔から受けた攻撃がかなり効いているようだ。

「気付かなかったのは、そっちのミスだろ」

「真田もいるんだろ? あいつは何処だ?」

「今頃、城でゆっくりしてるんじゃないか?」

「嘘を付くな、さっきの矢は明らかにあいつの魔法だ。今も何処からか狙っているんだろ?」

「魔法の矢っていうのはこれのことか?」

 宝条の顔すれすれに魔法の矢が通り過ぎていった。速度も速かったが、反応出来なかったのは予想外の人物がその魔法を使っていたからだ。大翔の腕に付けられている魔道具を指しながら

「その、魔道具は」

「真田から貰ったんだよ。初めて使ったけど上手く出来て良かったよ」

「どうして、真田がお前に」

「知るかよ、とにかくここにはあいつは居ないぜ? 弓矢で攻撃していたのは俺だったからな」

「くくく・・・、そうか、だったらもう周りを警戒する必要は無いな。流石に弓矢で狙われながら戦うのは俺も辛かったんだが、いないと分かればお前だけを狙えば良いわけだ」

「本当に俺だけで良いの?」

「ふん、空月の攻撃は俺には効かない。2人で協力して戦おうなんてことは考えない方が身のためだぞ」

「ご忠告どうも。じゃあ、この弓矢の効果を実感して貰うか」

 大翔は、魔道具に魔力を流し弓矢を作り、宝条に向けて矢を放つ。宝条は、斧で守りを固める。

「ははは、そんなもの何処から来るかさえ分かれば簡単に防げるんだよ」

「それじゃあ、もう少し試させて貰うか」

「無駄だって言ってるだろ? まあ、俺はお前の魔力を確実に減らせる訳だが」

 宝条は、斧を体の前に置き大翔の魔力が尽きて矢が打てなくなったところを狙うつもりでいた。一定の間隔で打たれていた矢が来なくなった。

「ふん、終わったか」

 宝条が、矢を打って来なくなったと思い、攻撃に移ろうとした瞬間、一本の矢が宝条を貫いていた。

「な・・・に!?」

 宝条は、もし矢が放たれても良いように斧は体の前から動かしていなかった。何が起こったのか分からず、斧をみると穴が空いていた。

「まさか、ずっと・・・同じ場所を?」

「どうした? 顔色が悪いぞ、何か良くない事でもあったか」

 遠くから大翔の狙い通りに決まったという表情を見て、宝条の怒りが爆発した。

「もう許さねぇ! ズタボロにしてやる!」

 近づいて来る宝条に弓矢で牽制を入れるが、先程とは違い全て薙ぎ払っている。大翔は、宝条の足元に狙いを定めて矢を放つ。宝条は、後ろに下がって矢を避けるが、大翔の狙いは土煙を起こして目くらましをすることだった。

「そう、何度も同じ手を食らうかよ!」

 大翔が起こした土埃を斧を振って風を起こして吹き飛ばす宝条。土埃が晴れると大翔は宝条と距離を取るために遠くに走っていた。

「逃がすか!」

 大翔の姿を捉え後を追いかける。逃げ回る大翔に魔法を放つがどれもかわされてしまう。しかし、逃げていた大翔も逃げ道を間違え、行き止まりの道に入ってしまう。

「ようやく、追い詰めたぜ。ちょこまかと逃げ回りやがって」

「そんなに息を切らしてどうしたんだ? もしかして今ので疲れたのか? だらしないな」

「自分がどういう状況か分かってんのか? 人のことを馬鹿にしたやつが一体どうなるのか、教えてやる」

「へぇ~、それは興味深いな。是非教えてくれよ」

「ああ、たっぷり教えてやるよ。お前の体にな!」

 宝条は、狭い道でも関係なく斧を振り回して攻撃してきた。大翔は、それを紙一重で全てかわしていく。大振りをして宝条に隙が出来ても飛び込まずに距離を取った。わざと宝条が隙を作っていると気付いていたからだ。

「どうした? 怖じ気づいたのか? 少しは攻撃してきたらどうなんだ?」

「こっちにも考えがあるのさ」

「何が考えだ、ただ逃げ回ってるだけだろうが!」

 痺れを切らした宝条が、地面に向かって勢いよく斧を叩き付ける。その衝撃で地面が割れ近くにあった建物も崩壊し始めた。体制を崩した、大翔に向かってもう一度全力で斧を振り下ろす。斧は完全に大翔を捉えた。

「は、ははは、ははははははは! どうだ、分かったか! お前も空月と同じで俺より下だってことが! あんな才能の欠片もない奴を守ったところで何の意味も無いんだよ! あいつに勇者なんかは出来やしない!」

「・・・もういい、お前黙れよ」

「なっ!?」

 斧は完全に大翔を捉えていた。しかし、その斧を大翔は片手で止めていた。そして、宝条は今まで感じたことの無い殺気をその身に感じ、心臓を直接握られているような感覚だった。

 大翔の目は、飛鳥を馬鹿にした宝条への怒りで染まり、鬼のような目をしていた。

「お前のようなクズ、本当は俺の手で殺してやりたがったんだが。お前との決着をきちんと付けなきゃ行けない奴が他にいるんでな」

 大翔は、宝条の斧を粉々にした。大翔の殺気でまだ体が固まっている宝条の顔を踏み台にして崩れてくる瓦礫も利用しながら、空の方に移動した。

 我に返った宝条は、大翔を追いかける為に足に力を入れ高く飛んだ。大翔との距離は徐々に縮まり捉えるその一手が足りなかった。本来なら宝条でも追いつけていたが、この時大翔は空を飛んでいた。

「確かお前さっき、飛鳥の攻撃は効かないって言ってたよな?」

 落ちていく宝条に、言葉を掛ける。宝条は、落ちながら自分が誰かに狙われていることに気付く。

「試してみるか? 本当に効かないのか?」

 遠くの方に、宝条を狙う飛鳥がいた。飛鳥の腕には弓矢を作る魔道具が付けられていた。大翔の腕を見た、宝条は魔道具が無いことに気付く。大翔が飛鳥に魔道具を渡したのは、土埃を立たせた時だった。あれは、大翔自身への目くらましでは無く飛鳥に魔道具を渡したことがバレないようにするためのものだった。

 飛鳥は、魔道具に魔力を流し弓矢を作り、宝条に狙いを定める。

「終わりよ、宝条」

「ちくしょう~~~!!!!」

 飛鳥の放った矢は、見事に命中し、宝条の体を射貫いた。そのまま宝条は、地面に落ちていった。

 飛鳥は、大翔に回復してもらってはいたがあくまで応急処置だったため、体力がほとんど残っていなかった。それでも、どうなったのかを確認するために大翔の元へと向かった。

 大翔は、下に降りてくると宝条が死んでいることを確認した。そして、もう1つ確認することがあった。

「もういいだろう。表に出て来いよ」

 大翔がそう言うと、宝条の体に入っていた影が人に似たような形をして出て来た。

「いや~、バレてたか」

「あんたが黒い影の正体か」

「ああ~、のこと、見た目で判断してるなー。まあ、影っていうのはあってるけど」

「おい、待て。お前の他にもまだ影がいるのか?」

「おっと、口が滑っちゃった。まあ、良いか」

「お前からは聞き出さないといけないことが山ほどありそうだ」

「おしゃべりは、こう見えて好きだぜ~。でも、まあ、ただで教えてやるつもりはない」

「じゃあ、どうするんだ?」

「ふふふ、ははは、簡単さ。俺と一緒に遊ぼうぜ」

 影の雰囲気が変わり、場に緊張感が生まれる。大翔も得体のしれない存在に十分に警戒をした。宝条が死ぬと表に出て来た影。その正体は一体何なのか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る