第18章 パーティーで束の間の休息を
宝条の暴走と幻影との戦いから数日が過ぎていた。あの後、城に戻った大翔と飛鳥は、ギアード王とアレン王子に何が起こったのか全てを話した。有り得ない話しもあったため最初は、信じられないようだったが2人が嘘を付いていないと分かると、深く頭を下げて感謝していた。
真田は、宝条がどうなってしまったのか聞きに来たので、本当のことを話すと、複雑そうな顔をしていたが
「教えてくれて、ありがとう」
とだけ言って、2人の前から去っていった。次の日に真田は突如起きた問題で中止になった儀式を受けて、元の世界へと帰って行った。
色んな事が起きた日々が続いたので、大翔と飛鳥はあまり外に出らずに体を休めていた。飛鳥の体の傷は、かなり酷いものもあったが大翔が綺麗に治していた。そんな中、ギアード王から一通の手紙が届いた。これまでの飛鳥の功績を称える為に豪華な宴会を用意するという知らせだった。
「宴会、パーティーか。街の復興もあると思うが、祝ってくれるのはありがたいことだな」
「そうなんだけど」
「何だ? あまり乗り気じゃないみたいだが」
「手紙の最後の方呼んでみて?」
「えっと、『尚、ダンスを踊る場も設けてありますので誰か誘ってみてはいかかがですか?』か、なるほど」
「私ダンスなんて踊れないんだけど」
「まあ、無理に踊る必要も無いんじゃないか? それとも練習してみるか?」
「宴会は、今日の夕方からだから流石に間に合わないと思う」
「結構急な知らせだったんだな」
「大翔は、ダンス踊れる?」
「少しなら」
「えっ? そうなの?」
「じじいに色々と教えられてな、ダンスもその1つだったんだ」
「ちょっと意外だった」
「誰かに教えられるほど上手くは無いけどな。それより、誰かを誘ってみてはって書いてあるけど誰か誘うのか?」
「えっ! いや、その、どうしようかな~」
飛鳥は、顔を赤くしてチラチラと大翔の方を見る。大翔を誘うかどうか考え、どのように誘うのかも考える。飛鳥が何に悩んでいるのか、大翔は知る由もない。
「その宴会は俺も参加しても良いのかな?」
「どうしたの? 急に」
「いや、俺のところには招待状届いてないみたいだからな。う~ん、出来れば城の豪華な料理を味わってみたいんだが」
「それじゃあ、私と一緒に・・・行く?」
「良いのか?」
「ほ、他に誘う人を思い付かなかったから。どうかな? もちろん、大翔が嫌じゃ無ければだけど」
「おお、まじか! サンキュー! 飛鳥」
「うん、どういたしまして」
飛鳥は、大翔に見えないように小さくガッツポーズしていた。
「そうだ、まだ、時間あるよな?」
「えっ? そうね、まだ大丈夫だけど」
「ちょっと出掛けてくる。すぐに戻るから」
「何処に行ったんだろう?」
大翔が何処に行ったのか分からないまま時間が過ぎていき、宴会が始まる前に2人は城に着いていた。
それぞれ城の方から着替えを用意していたらしく、1度違う部屋で準備をさせられた。大翔は、宴会用のスーツに着替えさせられた。
「何だか、息苦しいな。こういうの着たこと無いから勝手が悪いな」
着慣れないスーツに苦しんでいると、飛鳥の方の準備も終わったらしい。部屋から出て来た飛鳥を見て、その綺麗さに思わず2度見してしまった。水色のドレスに身を包んだ飛鳥は何処かの国のお姫様のようだった。
飛鳥は、大翔の方にゆっくりと歩み寄った。
「どうかな? ドレスって初めて着たんだけど、似合うかな?」
「ああ、凄く似合ってると思う」
「あ、ありがとう」
大翔は、思わず凝視してしまわぬように顔を背けながら答える。珍しく心が上手く落ち着けられないようだ。飛鳥も、大翔の素直な感想を聞いて、嬉しいようで、恥ずかしい気持ちになっていた。
「おお、2人とも、その格好よく似合っているよ」
2人が、上手く会話出来ないときに丁度アレン王子が現れた。
「何でお前がここにいるんだ?」
「王子は、もう中に入っている筈じゃ?」
「いや~、恥ずかしい話しだけど、実はダンスを一緒に踊ってくれる人が見つからなくてね」
「意外だな、お前ならすぐに誰か捕まえられそうな気がするけど」
「残念ながらそうでもないんだよ。どうしようか悩んでいると、遠くからでも分かる綺麗な女性を見つけてね。近づいてみたら君達だったってわけさ」
「そうだったんですか」
「そういうわけだから空月殿、僕とペアを組んで頂けませんか」
王子から誘いの手が出される。どうするべきか悩んだが自分の気持ちには嘘を付けなかった。
「アレン王子、そのお気持ちはとても嬉しいことなのですが私は大翔を誘ってここに着ていますから」
「分かってたけど、振られちゃったか。仕方ない、他の人を探すよ」
「切り替え早いな」
「あ、そうだ」
王子は、立ち去る前に大翔と飛鳥の腕を組ませた。
「これで良し、食事やダンスを取る以外では出来るだけその状態でいるように。それでは」
やることはやったという満足気な顔をして去って行った。2人は、突然のことで同時に固まってしまった。
「えっと、これどうする?」
「言われた通りにやるしかないんじゃないかな?」
2人はとりあえず、宴会の部屋の中へと入っていった。周りは貴族の人達が大勢いた。
「うわぁ、俺達がここにいて良いのか不安になってくる」
「だ、大丈夫だよ。ちゃんと、招待状貰ったん出し」
部屋に入ると慣れない場所で緊張していた2人だったが、飛鳥が少し力を入れると、大翔の腕が引っ張られて何か柔らかい感触が当たる。大翔は、あまり意識しないようにしていたがずっと腕をくっつけられていると意識しない方が難しかった。飛鳥自身は、腕を組んでいる状態と場の雰囲気で胸が当たっていることに気付かずないでいる。
大翔は、教えるかどうか悩んでいたが流石に堪えられず飛鳥に伝えた。
「ごめん、飛鳥、やっぱり離れよう」
「えっ? どうかした?」
「いや、その・・・胸が」
「胸?」
飛鳥は、視線を下にしてようやく気付いた。慌てて大翔から離れる。2人とも顔が赤くなり心臓の音が大きくなっている。
「・・・エッチ」
「いや、今のは・・・ごめん」
恥ずかしそうに言う飛鳥の表情に、大翔は動揺してしまい心を落ち着かせる為に後ろを向く。飛鳥は、高鳴る心臓を抑えようとするが大翔のことを意識すると中々抑えることが出来なかった。
大翔も、緊張や恥ずかしさで上がった体温を下げるためにスーツの襟を少し開けて風を通す。
「(やばい、この場所のせいなのか、着慣れない服装しているせいなのか、分からないけど何だか気持ちが落ち着かない。いや、多分・・・)」
大翔は、飛鳥のチラッと見る。飛鳥も大翔に背を向けて気持ちを落ち着かせようとしていた。飛鳥の綺麗なドレス姿を見てまた、体温が上がり出したので目を逸らす。
2人がそれぞれ別の方向を向いて気持ちを落ち着かせているとギアード王が現れた。その後ろにはアレン王子もいる。どうやら、一緒にダンスを踊ってくれる人は見つかったらしくアレン王子の隣に綺麗な女性が立っていた。
「皆、今日はよくぞ集まってくれた。まだ、街の修復は始まったばかりで苦しい状況ではあるが、今日のこの時間だけはどうか楽しんで貰いたい」
王様の挨拶が終わると、今度はアレン王子が前に出て話しを始めた。
「それでは、これより今日の主役でもある。勇者殿に少しだけ話しをして頂こうかと思います。では、勇者空月殿こちらの方へ」
アレン王子の紹介で、周りの人達から拍手を送られる飛鳥。いきなりのことで困惑していがとりあえず前に行くことにした。
「ちょ、ちょっと行ってくるね」
「お、おう。頑張れ」
少しぎこちない感じで見送った大翔だったが、ここでアレン王子からあることを伝えられる。
「あ、もし宜しければ一緒に来ているパートナーが勇者殿をエスコートしてきて下さい」
「なっ」
「えっ?」
また、突然のことに困惑する2人。大翔がアレン王子の方を見ると、2人が困っているのを見て少し楽しんでいるように見えた。いや、2人というよりほとんど大翔に対してだったが。
「(人の困っているとこを見て楽しんでじゃねーよ!)」
心の中でアレン王子への怒りをぶちまけていた。話しを聞いた周りの人達も勇者が一体どんな人とこの場所に来たのか気になりざわつき出した。大翔がどうするか悩んでいると、飛鳥から手が差し伸べられてきた。
「えっと、エスコートして貰えるかな?」
「無理に難しい言葉は使わなくて良いぞ」
「王子が言ってたから使ってみたんだけど。それじゃあ、一緒に来てくれる?」
「ああ、分かった」
大翔は飛鳥の手を取り、もう一度腕を組んで前に進んだ。さっき恥ずかしい思いをしたことはお互い忘れて、笑い合いながら王様と王子のいるところに行った。
「アレンよ、後で世良殿に何をされても私は知らんぞ?」
「はははっ、覚悟はしてますよ。良いじゃ無いですか、今日くらいは彼らにも楽しんで頂かないと」
大翔は、飛鳥を前に連れて来ると1度飛鳥から離れた。飛鳥は、宴会に集まっている人達の方を向いた。大勢の人の前だが緊張はしていない。改めて、飛鳥から挨拶をする。
「皆さんもしかしたらご存知の方もいるかもしれませんが、改めて私の名前を名乗ろうと思います。私の名前は、空月。この国を、いえ、この世界を守る為に勇者として戦う者です」
飛鳥の挨拶に宴会の会場に居る人が歓声を上げた。その様子を見た大翔は
「(名前を名乗っただけで、この反応かよ。凄いな)」
と思っていた。
静かになるのを待って、飛鳥がまた話しを始める。
「私は、この世界に来たばかりの頃は勇者と言われて少し舞い上がっていました。自分なら出来るって、そう思いながら。でも、日々を過ごしていく内に少しずつ不安も大きくなっていきました。私は、本当に勇者としてやれているのか、もしかしたら自分より相応しい人がいるんじゃないかって。そもそもこんな事を考えているなんて勇者らしく無いんじゃないかと」
飛鳥は、少し表情が暗くなり下を向いた。会場にいる人達もその様子を見て心配する。飛鳥は、顔を上げその表情は明るかった。
「でも、ある人が教えてくれたんです。勇者だって人間なんだって。それを聞いたら何だかそれまで抱えてた悩みが綺麗になくなっちゃったんです。これまでの私も誰かの為にと思いながら戦ってきました。そして、これからもその気持ちを絶やさずに国の人々をこの世界を救ってみせます!」
飛鳥の強い意志を聞いた人々は、さっきよりも大きい歓声を上げた。飛鳥の話が終わったのを確認してアレン王子が前に出た。
「それでは、これより宴会を始める。この世界の平和を願い、そして勇者殿の功績を祝う。皆、存分に楽しんでくれ!」
こうして、宴会は始まった。飛鳥は、話しを終えて近くの椅子に座っていた。少し、疲れたようだ。そこに、大翔が冷たい飲み物を持って来た。
「お疲れ」
「あっ、ありがとう」
飲み物を受け取り、そのまま口に持って行く。大翔も横に座って話しをする。
「良かったのか? あんな自分の弱かったことを話して」
「うん、良いの。これでようやく前に進める気がするから」
「そっか」
飛鳥の表情を見て無理をしている様子はない。大翔は、安心して少し笑い自分も飲み物を飲んだ。
「それにしても勇者殿は凄い人気なんだな。あれだけの歓声を浴びるなんてそう無いぜ?」
「私も少し驚いてたよ。表に出さなかっただけで」
「少しだけ?」
「いえ、かなり驚いてました」
「まあ、俺もあれには驚いたよ」
「とても嬉しいことだけどね。そうだ、あっちのテーブルに料理が並んでたわよ」
「何っ! どんなのがあった?」
「詳しくは分からないけど、種類はたくさんあったと思う」
「よし、行くぞ! 飛鳥。この城の料理がどれ程のものなのか確かめないと」
「あっ、待って。そんなに急がなくても料理は逃げないわよ」
大翔は、飛鳥の手を取って料理がある場所に向かった。
飛鳥の言った通り、色んな種類の料理がテーブルに並べられていた。大翔がどれから食べるか悩んでいると、アレン王子がやって来た。
「ここの料理は、どれも美味しいよ? 無くなったらまた作って貰うからたくさん食べてくれ」
「アレン、お前な~」
「おお~、僕の事を王子を付けずに呼び捨てにしたのは君が初めてだよ。それじゃあ、僕も大翔と呼ばせて貰おうかな?」
「絶対に断る」
「おっと、随分と嫌われたようだね。それとも大切な人以外には名前で呼ばれたくないのかな?」
「いや、単純にお前に名前で呼ばれたくないんだよ」
「ようやく友達になれたけど、名前で呼ぶのはまだ先か」
「誰がいつお前と友達になったんだよ」
「やれやれ、どうして僕の事をそんなに嫌うのかな?」
「さっき、自分がしたことを忘れたのか?」
「ん? ああ、実に良い気の使い方だっただろ?」
「何処かだ」
「世良殿が空月殿をしっかりとエスコートしてるところを見れて良かったよ」
「は、恥ずかしいので止めて下さい」
「お前のおかげで俺まで目立ったんだが」
「それが、狙いだからね」
「は?」
「ほらほら、話すのも良いけど料理もしっかり味わってくれよ」
アレン王子は、話しの途中で料理を勧めだした。アレンの対応に腹を立てていた大翔だったが、目の前にあった料理を皿に移して食べてみた。飛鳥も大翔と同じ料理を取って食べてみる。
「この料理美味しいですね!」
「空月殿は、良い反応をしてくれるね。ところで、世良殿はどう? お口に合ったかな?」
「うるさい、料理が不味くなる」
「てことは、気に入って貰えたんだね。良かった、良かった」
「そういえば、王子もパートナーが見つかったんですね」
「ああ、結構ギリギリだったけれどね」
「自分達が開いたパーティーで1人っていうのは悲しいからな」
「いや、全くだよ。まあ、その時はもう一度空月殿を誘うつもりだったけどね」
「ちゃんとお断りしたと思ったんですけど」
「それだけ空月殿が魅力的な女性だってことさ。現に今も周りの人達が見ているだろ?」
確かに、周りの人達の中には飛鳥に好意を向けている人達もいた。
「えっと、それは気付いていませんでした」
「多分、さっきの挨拶の時に世良殿がいなかったら今頃、ダンスのお誘いどころか求婚してくる人達もいたんじゃないかな?」
「そんなことは無いと思いますけど」
「空月殿は、自分の魅力に気付いていないようだね」
「それじゃあ、俺に飛鳥をエスコートさせたのは」
「あははは、空月殿にパートナーがいることが分かれば諦める人も多いと思ったからね。いや~、上手くいったみたいだね」
「・・・・」
「ひ、大翔落ち着いてね」
大翔は、アレンへの怒りを静かに表に出していた。飛鳥がそれに気付き大翔をなだめる。
「それじゃあ、僕は失礼するね。2人とも楽しんで」
「はい、ありがとうございます」
王子は、2人のところを離れると別の人に挨拶をしに行った。王子としての役目を果たしているようだ。
「あいつの相手をすると疲れる」
「ははは、悪気は無いんだろうけどね」
「そうだ、飛鳥ちょっと良いか?」
大翔は、スーツのポケットから小さな袋を取り出して飛鳥に渡す。
「これは?」
「プレゼント」
「プレゼント? どうして?」
「俺がこの世界に来てから色々と迷惑を掛けたからそのお礼に」
「開けても良い?」
「ああ」
大翔から貰った袋を開けて中身を取り出しみる。入っていたのはネックレスだった。
「どんな物が好きか分からなかったから飛鳥に似合いそうな物を選んだつもりだったんだけど、気に入らなかったか?」
「ううん、そんなことない、とっても嬉しい。ありがとう」
飛鳥の満面の笑みを見て、大翔は心臓の鼓動が早くなるのを感じる。それでも、自分が送った物を気に入って貰えたことを嬉しく思い、優しく笑った。
「これ、今付けても良い?」
「別に良いけど・・・」
手を後ろに回して大翔から貰ったネックレスを付ける飛鳥。
「どうかな? 似合ってるかな?」
「ああ、似合ってるよ」
「えへへ、ありがとう」
飛鳥がネックレスを付けたタイミングで音楽が鳴り出した。音楽隊が来て演奏してくれているようだ。少し遠くからアレン王子が皆に声を掛けていた。
「音楽が流れて来たのをお気付きになられましたでしょうか。これより、この音楽に合わせてダンスをご自分のパートナーと一緒に踊ってみて下さい」
「私達どうしようか?」
「折角だし、少しだけ踊ってみるか?」
「教えてくれる?」
「頑張るよ」
「それじゃあ、よろしくお願いします」
大翔と飛鳥は手を取り合ってその場で踊った。その踊りはぎこちないものだったが、それでも本人達は楽しそうに、笑いながら踊っていた。
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