第12章 決闘の結末

 真田を戦意喪失させた飛鳥は、宝条と1対1で決闘の決着を付けようとしていた。宝条は、飛鳥から受けたダメージがまだ残っているもか、少し体がふらついている。しかし、宝条から放たれる殺気は普通の人間なら恐怖で固まってしまうほどのものだ。落ち着いている様子の飛鳥に対して宝条は怒りを向きだしにしている。

「さあ、残るは宝条、あなただけよ」

「調子に乗るなよ。お前よりも俺の方が上だってことを分からせてやる」

 宝条は、残りの魔力を全て使い身体能力を一時的に大幅に挙げることに成功した。体は一回り大きくなり、体の表面には血管が浮き出ていた。

「はあ~~、悪いがここからは・・・俺の理性はほとんど残らない・・・精々死なないようにな」

 そう言い終わると咆哮し、飛鳥に襲いかかってきた。宝条の攻撃を避けて、反撃を入れようとすると、先程とは違う反応速度で2撃目を繰り出した。間一髪で2撃目も避けた飛鳥は一旦距離を取るが、すぐさま宝条が追いかけてくる。攻撃力も上がっていることは分かっている為飛鳥は無理に受け止めようとはせず、避けることに専念していた。

「宝条の奴様子が変わったな。パワーとスピードもさっきとは大違いだ。確か本ではあの状態のことを、『狂戦士化バーサーク』って言うんだったか?」

 大翔の言うように、宝条は狂戦士化状態になっていた。身体能力を大幅に上げる代わりに理性を失い暴れ回る状態になる。その状態を解除するには、本人を気絶させるか、使った魔力が全て無くなるの待つかの2択である。

 宝条の猛攻をかわし続ける飛鳥だったが、少し疲弊の色が見え始めた。

「流石にこのままじゃきついかな。だったら」

 何かを思い付いた飛鳥はもう一度距離を取る。宝条は構わずまた追いかけてくる。飛鳥は、左手を前に出し狙いを定めて

「<<凍結フリーズ>>」

と言い、魔法を放った。

 対象になった宝条は、足から徐々に凍り始め、そして、そのまま氷の中に閉じ込められた。

「終わったのか?」

 ギアード王とアレン王子が体を前に出しながら宝条の方を見る。

「いや、まだだ」

 宝条は閉じ込められた氷を破壊し、今までで1番の咆哮で威嚇をした。飛鳥を見つけると迷わず攻撃しにいった。理性を無くした宝条は、飛鳥の狙いに気付かずに。

 飛鳥が、宝条を凍らせた理由は倒す為では無く動きを一瞬だけでも止めるためのものだった。凍らせることに成功すると、刀を鞘に収めて意識を集中させ始めた。深く息を吸い、そして吐き出す。目を閉じて感覚を研ぎ澄ませ、構えを取る。宝条が氷から抜け出し、向かって来ているのが分かる。

 宝条は、飛鳥に目掛け斧を勢いよく振り降ろそうとしたが、気付けば後ろに回り込まれていた。

「空月流・秋空あきそら・四の型・<<爽籟そうらい>>」

 飛鳥はいつ抜いたのか分からない刀を鞘に収め、音が鳴った瞬間、宝条の体は鎧ごと斬られ、吐血をしそのまま倒れた。

 大翔以外、何が起きたのか分かっておらず理解するのに時間が掛かった。最初に気付いたのはアレン王子で、慌ててギアード王に伝えた。

「父上! 勝負が付いたようです」

「た、直ちに終了の合図を出せ」

 決闘の終わりを告げる銅鑼の音が鳴った。

「念のため、真田殿、宝条殿の意識を確認する。少し待っていて貰いたい」

 騎士達が何人か現れ、真田、宝条それぞれの意識を確認していく。その間に、決闘が終わって力を抜いている飛鳥に近づき声を掛ける大翔。

「お疲れさん」

「はははっ、ちゃんと勝ったよ」

「この目でしっかり見てたよ。最後の攻撃綺麗に決まったな」

「上手く魔法が使えて良かったわ。あれが外れてたら危なかったかも」

「意外と余裕無かったんだな」

「全力でやるって言ったでしょ? 一発でも当たってたら正直どうなってたか分からない」

「全身の骨がグチャグチャに・・・」

「何でわざわざ当たってたかもしれない時のことを考えるのよ!」

「冗談だってば、揺らすなって」

 大翔の一言を聞いて想像してしまった飛鳥は、涙目になりながら大翔の胸ぐらを掴んで前後に大きく揺らしていた。決闘が終わった後の気の抜けたやりとりを2人がしていると騎士達の確認が終わったようだった。

「今、真田殿と宝条殿を確認したところ共に意識を失い戦闘は続行不可能と判断する。よって、この決闘の勝者は勇者空月と世良殿である」

「俺は、何もしてないんだけどね」

「そんなことないわ。見守ってくれてたじゃない」

「それ何もしてないのと変わらないぞ」

「私にとっては凄い心強いことだったのよ・・・」

「何? 聞こえないぞ?」

「や、やっぱり、何でも無い!」

「ええ~、何だよ。気になるじゃ無いか」

「何でも無いってば、ほら、王様達のところに言って直接挨拶してきましょう?」

「いや、別に俺はそれはどうだっていい。それより」

「でも、やっぱり挨拶は大事だから、ねっ」

「分かったよ」

 渋々言うことを聞いて王様のところに向かうことにし、大翔の後ろから飛鳥は付いて行く。さっき小さな声で言ったことを思い出し、顔が赤くなっているのを隠す為に。

 決闘の一部始終を見た、ギアード王とアレン王子は結果を見て未だ少し放心状態になっていた。

「アレンは、この戦いを予想出来たか?」

「まさか、仮に勝敗を予想出来たとしても内容まではとても予想出来ません」

「真田殿も宝条殿もやはり力はかなりのものだった。しかし、空月殿はその上をいった。最後の宝条殿との勝負では何をしたのかさえ分からなかった」

「僕もですよ。気が付けば宝条殿が倒れていましたからね。理解をするまでに一体どれだけ時間が掛かったか」

「ともあれ、空月殿はこの決闘に勝利した。祝福せねばなるまい」

「自分達の為のですか?」

「いや、空月殿自身にだ。きっとこれから多くの困難が待ち受けている筈だ。誠心誠意で私達の出来ることをしていこう」

「そうですね。僕も出来る限りのことをしてみます」

「うむ、頼んだぞ」

「はい」

 王様と王子の話しが終わると大翔と飛鳥が現れた。

「おおー、空月殿。見事な勝利でした」

「ありがとうございます、王様」

「私達が不甲斐ないせいでこのような不利な条件も付いた決闘をさせてしまい、本当に申し訳なかった」

「そんな、気にしないで下さい。それに、あの2人特に宝条には私も腹を立ててたので、今日の決闘で勝ててスッキリしました」

「空月殿の強さには本当に驚いたよ。ここから見ていても戦っている時の気迫が感じられた」

「ちょっと、恥ずかしいですね」

「空月殿、もう一度聞くが本当にこの世界に残って下さるのか? 勇者として世界を救って貰えるだろうか?」

「言った筈ですよ。任せて下さいって」

「本当に何とお礼を言えば良いのやら」

「空月殿の勝利を祝して、パーティーを開こうと思うのだけれどどうかな? 何なら今からすぐにでも用意させよう」

「そんなわざわざそこまでして頂かなくても」

「これは、僕達の気持ちだよ。遠慮しないでくれ」

「えっと、ありがとうございます。ですが、今日はもう疲れたのでゆっくり休もうと思います」

「そうか、ではまた後日にパーティーは開くことにしよう。父上もそれで宜しいですか?」

「空月殿の意思を尊重しているのなら構わないさ」

「それじゃあ、今日はこれで失礼します」

 飛鳥は、お辞儀をして闘技場の外に向かう。大翔も向かおうとするとアレン王子に呼び止められた。

「世良殿、君は今日の結果を予測していたのかい?」

「いいや、してないよ」

「そうか」

「する必要が無かったからな」

「何?」

 アレン王子が聞き返そうとしたが、そこにはもう大翔の姿は無かった。

「世良殿は、この結果が分かっていたのだろうか」

 答えを聞けないままギアード王とアレン王子もその場を後にした。

 大翔が闘技場に入って来た場所に向かってると、飛鳥が壁に寄りかかり大翔を待っていた。

「待ってたのか?」

「帰る場所同じでしょ?」

「他人が聞いたら誤解しそうな台詞だな」

「大翔が自分の住む場所探さないからでしょう」

「全くその通りでございます」

「まあ、別に良いけど。今日はありがとね」

「ん、どういたしまして」

「かなり無茶なお願いだったけど、最後まで約束守ってくれたね」

「本当だよ。何もしないでただ見てるだけとか、俺ぐらいしかやらないぞ。しかも、何回か危ない瞬間もあったしな」

「それは、本当にごめんなさい」

「でも、まあ、この通り傷1つ付いて無いので許してやるよ」

「大翔がいてくれて本当に良かった・・・」

「大袈裟じゃないか。別に俺がいなくても勝てただろ」

「ううん、大翔がいなかったら・・・わた・・し」

 飛鳥の意識が急に途切れて前に倒れてくる。それをしっかりと受け止める大翔。

「お、おい、飛鳥どうした?」

「すーー、すーー」

「いや、寝ただけかよ。紛らわしいことしやがって」

 小さな寝息を立てて寝てしまった飛鳥。緊張の糸が切れたのか、安心した顔で寝ている。

「これ一時起きないよな。はあ~、仕方ない」

 大翔は、飛鳥が起きないと判断し背中に乗せて家まで運ぶことにした。外に出ると日が沈み辺りは暗くなっていた。歩いていると、ジンがまだ残っていた。

「世良殿、今から帰られるのですか?」

「ええ、まあ」

「空月殿は、どうしたのですか?」

 大翔の背中に乗っている飛鳥を見たジンが大翔に質問する。

「どうやら、ずっと気を張っていたのが急に切れたみたいで寝ちゃったんですよね」

「そうだったんですか。馬車か何か借りて来ましょうか?」

 馬車だと揺れで目を覚ましてしまうかもしれないと思い、飛鳥の様子を見る。何処か幸せそうにして寝ている。そんな飛鳥を起こしてしまうの気が引けてしまい

「有り難いですけど、遠慮しておきます。飛鳥が目を覚ますかもしれなので」

「分かりました。それにしても、安心しきった表情をしていますね。空月殿のこんな表情初めて見ました」

「そうなんですか?」

「はい、いつも皆の前では明るく振る舞っていたのですが、何処か無理をしているように見えていたので。きっと世良殿のおかげなのでしょうね」

「俺ですか? 俺は何もしてないと思うんですけど」

「いずれ本人の口から聞けるかもしれませんよ? それじゃあ、私はこれで」

「あっ、ちょっとジンさん。行ってしまった。最後のは一体どういう意味だ?」

 ジンの言っていたことが少し引っかかったが、とりあえず帰ることにした。時折ずれ落ちそうになる飛鳥を上の方に何度か上げながら歩いて行く。帰り道を進む中で飛鳥の小さい寝言が耳元で聞こえてきた。

「大翔・・・ありがとう」

「だから、俺は何もしてないってば」

 寝言でただお礼を言われただけだったが、大翔の顔は少し赤くなっていた。歩いている内に心を落ち着かせていく大翔。上を見上げ、昨日と今日で飛鳥から何を聞いて飛鳥が何をしたのかを思い出す。そして、零れるように呟いた。

「よく頑張ったな、飛鳥」

 大翔の首に回っていた飛鳥の腕に少し力が入ったような気がした大翔だった。

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