第11章 2対1+1の決闘

 昨夜大翔と話しをした後、体をしっかり休めた飛鳥は、刀の手入れなどをして入念な準備をしていた。準備が終わると決闘が始まるまで大翔は城の書斎で調べ物をすると聞いて飛鳥もついて行くことにした。

「別に付き合う必要無いぞ。時間までには闘技場に向かうから」

「大翔が場所分かってないといけないと思って」

「昨日話しを聞いたから大丈夫だ。・・・多分」

「不安になってるみたいだけど」

「な、何とかなるさ。決闘に向けて何かすることがあるんじゃないのか?」

「準備ならしっかりしたわ。それに、私がこうした方が良いって思ったの。ダメかしら?」

「・・・分かった」

 飛鳥は、下からのぞき込むように大翔の顔を見た。その仕草に少し動揺してしまったが、表には出さないように隠した。諦めて飛鳥も一緒に書斎に行くことを了承し、城に向かった。

 書斎で調べ物をしている間に時間は刻々と過ぎていき、城を後にして闘技場へと2人は向かった。闘技場に着くと入り口の前に警備隊隊長のジンがいた。ジンは、2人に気付き近づいて来た。

「ジン隊長、もしかして闘技場の警備ですか?」

「はい、勇者同士の決闘だと聞きました。そして、どうして決闘をすることになったのかも・・・」

「恥ずかしい話しです」

「すみません、こんなことは間違っても言ってはいけないことなのですが・・・勇者空月、私は貴方に勝って頂きたい」

 ジンの発言に大翔も飛鳥も少し驚いていたが、飛鳥は素直に言葉を返した。

「ありがとうございます。全力は出すつもりです」

「ご武運を」

「はい」

 ジンが頭を下げて、飛鳥は闘技場の中へと入っていった。大翔も後を付いて行こうとすると

「世良殿、どうかあの方を助けて下さい。我々には何も・・・」

「残念ですが、俺に出来ることはありませんよ。1つあるとすれば、最後まであいつのこと信じてやることくらいですかね」

 闘技場に入っていく大翔の背中を見て、ジンはもう一度頭を下げた。飛鳥の力になれない自分の分も大翔に願いを込めて。

「何か話してた?」

「ん? 飛鳥の悪口」

「えっ? 本当に?」

「いや、嘘」

「どうしてそういう嘘付くのよ。しかも、こんな時に」

「緊張をほぐしてやろうかと思って」

「今更そんなことしなくても大丈夫よ。誰かさんが昨日の夜、励ましてくれたし」

「さて、何のことかな」

 昨日の話を持ってきた飛鳥に、とぼけて返す大翔。進んで行くと騎士が1人待っていた。どうやら案内人のようだ。案内人の騎士に付いて行き、進んでいると通路の奥から外の光が見えた。通路を抜けるとそこには観客席に囲まれた空間があったが、観客席には誰もいない。

「流石に勇者同士の戦いなんて、国の人達に見せる訳にはいかないよな」

「見て欲しいとも思わないしね」

 どの位の広さなのか見回して、調べていると2人の反対側に真田と宝条がいるのが分かった。あちらも2人がいることに気付き、宝条が挑発をしてくる。

「よう、怖くて逃げ出したのかと思ってたぜ、空月」

「あなたこそ、私に叩きのめされる覚悟は出来てるの?」

「中々面白い冗談だな。それで? 誰か助っ人は連れて来たのか?」

「ええ、とっても頼りになる助っ人をね」

「もしかして、今お前の後ろにいる奴か? 随分と弱そうな奴を連れて来たな、大怪我しないうちに早く帰らせた方が良いんじゃないか?」

「随分と安い挑発だな」

「怒って言い返すのかと思った。意外と大人なのね」

「意外ってなんだよ。まあ、挑発に乗ってやっても良いんだけど、とても頼りになる勇者様が代わりにあいつを叩きのめしてくれるからな」

「何だか、急に持ち上げられると恥ずかしいんだけど」

「俺にも同じ事言ってただろうが」

 お互いが持ち上げて2人とも少々恥ずかしい気持ちになっていたがすぐに気持ちを切り替えた。

 銅鑼の音が聞こえ上の方を見ると、ギアード王が現れた。観客席とは違う王族用の観覧席から声を出す。

「これより、勇者同士による決闘を行う。武器の使用や魔法の使用を認め、先に相手の戦意を喪失させた者の勝利とする。負けた方は、元の世界に帰ってもらうことになるが異論は無いな?」

「ありません」

「ああ、無いぜ」

「・・・無いです」

 飛鳥・宝条・真田が内容を確認しそれぞれ返事をする。

「確認だが、空月殿は誰か一緒に戦う者はいらっしゃるのか?」

「はい、私はここに居る、世良大翔を助っ人として来て貰いました」

「世良殿は、問題無いか?」

「ああ、問題無いよ」

「承知した。それでは、これより勇者空月と世良殿対勇者真田・勇者宝条の決闘を行う。始め!!」

 大きな銅鑼の音が闘技場中に響き渡る。先に仕掛けてきたのは宝条達だった。決闘開始の合図と共に動き出し、真田は魔法の弓矢で牽制し、宝条は直接飛鳥を狙いに来ていた。

「大翔」

「分かってる。頑張れよ」

「うん」

 大翔は、後ろに下がり、飛鳥は弓矢を上手く避けながら宝条に向かって行く。宝条は、背中にあった大きな斧を手に取り飛鳥に振り降ろす。

「おらぁ!」

 飛鳥は、冷静に見極めて受けることはせずに宝条の攻撃を躱す。決闘が始まってすぐにアレン王子も駆けつけた。

「父上」

「アレンか」

「始まったのですね」

「ああ、この決闘で世界の運命も変わるだろう」

「一体どちらが勝つのでしょうか?」

「分からない。しかし私達は、最後まで見届けねばならない」

 状況は、飛鳥が相手の攻撃を全てかわし続けている状態で宝条達は、交互に攻撃を仕掛けている。

「どうした? 攻撃してこないのか? それじゃあ、勝つことなんて出来ないぜ!」

 宝条の力を込めた一撃が飛鳥を狙うが、その攻撃も綺麗に躱していく飛鳥。真田も次々と矢を放つが避けられるか、刀で切り落とされている。

「ど、どうする? 宝条。俺達の攻撃が全然当たらないぞ」

「うるせえな。そんなのは分かってんだよ。くそっ、ちょこまかと逃げやがって」

「どうしたの? 随分と息が上がってるみたいだけど」

「黙れ!」

 大振りをした宝条の攻撃を避けて、隙が出来たことを見逃さずに一撃を入れた。鎧を着ていたため大きなダメージを与えることは出来なかったが、攻撃の流れを止めることが出来た。

「クソ~~、どうして俺より弱いお前が俺に攻撃を当ててんだよ」

「さあ、どうしてかしら。でも、あなたの言うとおり今のは当てただけよ。次は、本気でいくわ」

「おい! 真田! こいつの連れてきたパートナーを攻撃しろ!」

「えっ? でも」

「いいからやれ! ここまで動いていないってことは何も出来ない雑魚なんだよ。そいつを攻撃すればどうせ空月のことだ、守りに戻って隙を晒すことになる」

「わ、分かった」

「(俺にまで聞こえてるんだよな~。丸聞こえの作戦だから別に無視しても良いんだけど・・・)」

 真田は、宝条の言う通りに大翔に狙いを変えて矢を放った。矢は真っ直ぐに大翔に飛んでいき完全に当たったと思った。しかし、飛鳥が戻り矢を切り落とす。その瞬間を狙っていた宝条が距離を詰めて来ていた。

「馬鹿が! 終わりだ!」

 両手で振り上げた斧を飛鳥に全力で振り降ろし、確かな手応えを感じた宝条。しかし、

「なっ、何!?」

「悪いけど、大翔には指一本触れさせないわ」

「(まあ、飛鳥なら戻ってくるよな)」

 今まで避けていた宝条の攻撃を飛鳥は刀で完璧に受け止めていた。そのまま斧をはね除けて、斬撃を放ち宝条を吹っ飛ばした。宝条は倒れたが意識はまだ残っている。

「な、なんであの距離から戻って来れたんだよ。俺の矢だって当たっていたはずなのに」

「何度でも戻るわよ。私が大翔を助っ人に呼んだのは、自分の覚悟を見せるためだから」

「覚悟?」

「誰かを守る為に戦う、勇者としての覚悟よ。だから、あなた達が何をしてきても全て切り伏せてみせるわ」

 真田は、飛鳥の覚悟した目を見て思わず腰を引かせてしまう。真田自身すでに戦意を喪失しかけていたが

「まだだ、まだ終わってねぇ」

「もう、ダメだ宝条。諦めよう」

「真田あの魔法は使えるよな?」

「あ、ああ、出来るけど」

「よし、じゃあ使え」

「だけど、あの魔法は」

「いいからやれ! このまま負けてたまるか!」

「わ、分かった」

 宝条に強制的に魔法を使わされる真田。飛鳥は、何が来ても良いように注意していた。真田は、魔力を集中させ魔法を発動させた。

「<<迷いの森ロスト・フォレスト>>」

 地面が急に揺れ始めると地面から木が生え始め、闘技場の空間をあっという間に木々で覆い尽くしてしまった。

「はっはっは、これで俺達がどこに居るのか分からないだろ。そして」

 いきなり現れた木々に驚いている飛鳥の足元に真田の矢が飛んできた。

「真田からは、空月お前が何処に居るのか魔力を探して分かるんだよ。精々苦しむことだ」

「どうしてあいつが偉そうに話してるんだろうか。俺には分からないな」

「でも、おかげでこの魔法がただの目くらましだって分かったわ。相手も魔力を探して攻撃しているみたいだし」

 飛鳥は、大翔の方を振り返り何かを確認するような目線を送る。そのことに気付いた大翔は

「分かってるよ」

「ありがとう。いってくる」

「おう、いってらっしゃい」

 飛鳥は、大翔から離れ真田を探しに森の中へと入っていった。走って行く飛鳥を見送った後、大翔は壁に寄りかかり決着が付くのを待った。

「さてと、一体どうなるかな」

 この森を魔法で出現させた真田本人はというと

「くそっ、宝条の奴勝手なことばかり言いやがって、この魔法は魔力の消耗が激しいから出来るだけ使いたくなかったのに。しかも、自分は倒れたままじゃないのか? 一度矢を放ったけど、それだけでもう体がふらつく。早く仕留めないと」

 真田は、あまりの魔力の消費で最初のように何度も矢を放つことが出来なくなっていた。森を出現させた後に矢を放ったのは、相手を怯ませ魔力を少しでも回復するように時間を稼ぐものだった。

「あれ? 今近くに魔力の反応があったような」

 真田は、集中して魔力を探る。弱っている宝条の魔力と決闘が始まってから動きの無い大翔の魔力。しかし、飛鳥の魔力が何処にも感じることが出来ない。

「どういうことだ? どうして感知出来ないんだよ」

 何度も魔力を探すが何処にも見当たらない。魔力感知においては飛鳥よりも真田の方が上だった。真田は、異世界に来てから常に周囲を魔力で確認して暮らしていた。誰にでも魔力がある世界で魔力感知を使っていれば自分に降りかかる危険を減らせると判断していたからだ。しかし、ここに来てそれまでの行動が仇になってしまう。

 魔力感知に頼ってきた真田は、飛鳥を探すことが出来ない今、いつ何処から来るか分からない相手に怯え混乱していた。心拍数はどんどん上がり焦りから胸を締め付けられている感覚が真田を襲う。せめて、見晴らしの良いところで相手を探るために木の上に登る。

「はあ、はあ、一体何なんだよ。この世界じゃ、誰もが魔力持ってんだろう? 検査でも魔力の数値が出されていたじゃないか。なのに、どうして空月の魔力が感知出来ないんだよ」

 恐怖に支配された真田はまともに考えることが出来ないでいた。誰かが近づいて来ているのが分かる。だが、何処にも人影は見当たらない。無駄だと分かっていながら魔力探知をするがやはり見つからない。

「ど、何処だ? 近くにいるのか? 姿を見せろよ」

 弓矢を構え、周囲を警戒していた真田だったが、あることを思い付く。

「そうだ、もう1人の魔力は感じる事が出来る。だったら、そいつだけでも仕留めてやる」

 大翔に狙いを変え木々を渡りながら急いで移動する。大翔に十分近づいたと思った真田は、木々から飛び出して空から狙いを定めた。

「よし、捉えた」

 真田が弓を引き矢を放とうとした瞬間、森から飛鳥が飛び出し真田を切った。

「く、くそっ、でも、矢はもう放った。これで・・・」

 真田の放った矢はかなりの早さで大翔に向かっていた。矢は大翔に当たるかと思ったが顔の左を通り過ぎて壁に刺さった。当たる可能性も十分にあり得ていたはずだが、大翔の表情は少しも変わっていなかった。

「そんな・・・」

 矢が外れたのを見た後、真田は地面に落ちた。真田は、ギリギリ意識を保った状態で大翔に聞いた。

「何で、避けようとしなかったんだよ。当たってたかもしれない、死んでいたかもしれないんだぞ?」

「避ける必要が無かったからな」

「何故? 怖く無かったのか」

「あいつが言ってたからな。指一本触れさせないって」

「そんな確証なんてないものを・・・」

「確証は無いけど、確信はしていたからな。だから、最初から動く気なんてなかったよ」

「そ、そんな」

 真田は、力尽きて意識を失った。飛鳥空から無事に地面に着地し、真田が意識を失っていることを確認する。大翔は、飛鳥に声を掛ける。

「魔力消せたみたいだな」

「正直、無我夢中だったけどね。上手くいって良かった」

「出来ればもう少し早く倒して欲しかったけどな」

「えっ?」

 大翔が、真田が放った矢で穴が空いた壁を指差す。大翔の顔の丁度真横に穴が空いている。少しでもずれていたら大翔を矢が貫いていたかもしれない。

「ご、ごめんなさい」

「まあ、良いさ。それより、あと1人早く片付けて来いよ」

「うん。そうね」

 飛鳥は、後ろを振り返る。真田の意識が失われた事で魔法で現れた森が消えていった。森が完全に消えると強烈な殺気を放っている宝条がいた。怒りで随分と興奮している。

「そ・ら・つ・き~~!!!」

「宝条、そろそろ決着を付けましょう。手加減はしないから」

 飛鳥は、刀の切っ先を宝条に向けて鋭い目で威嚇した。宝条は、その姿を見て更に怒りが増す。

 宝条が元の世界に帰る条件として決められた決闘だったが、勇者同士の戦いも遂に終わりを迎える。

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