第9章 予想通りの

 大翔が異世界に来てから一週間が過ぎようとしていた。朝は、飛鳥から魔力・魔法について教えて貰い、昼からは図書館に行き訪問者のことや世界に起こった出来事などについて調べる。そんな日々を過ごす中、魔力の方はほとんど理解することが出来ていた。今日も朝の鍛錬が終わり、体を休めていた。

「大翔って、飲み込みが早いのね。教えて間もないのに魔力のことを理解するなんて驚いたわ」

「基礎だけだけどな」

「それでも凄いわ。私が教える必要無かったんじゃないの?」

「いや、飛鳥には感謝してるよ。図書館に魔力についての本があったけど正直よく分からなかったからな。やっぱり、誰かに直接教わった方が理解しやすい」

「そっか、役に立てたのなら良かったわ」

「これで魔力の操作が出来るようになるかな。飛鳥ちょっと良いか?」

「何?」

「俺と初めて会った時、魔法を使って俺を見つけただろ?」

「ええ、魔力感知のことかしら」

「それだ、目の前にいる俺の魔力も調べられるか?」

「もちろん出来るけど」

「今、俺にその魔法使ってみてくれないか?」

「別に良いけど・・・」

 飛鳥は、どうしてそんなことをさせるのか不思議に思っていたが、大翔に言われた通り魔力感知を行うことにした。飛鳥は、集中して魔力感知の魔法を使った。しかし、大翔の魔力が感知出来ないでいた。

「あれ?」

 飛鳥はもう一度意識を集中させ、大翔の魔力を探した。遠くにいる人や空を飛んでいる鳥の魔力を感じることが出来るが、やはり大翔の魔力だけ見つからない。

「どうだ? 感知出来たか?」

「どうしよう、大翔の魔力が見つからない」

「それで良いんだよ」

「大翔、もしかして死ん――」

「いや、死んでないからな」

「それじゃあ、どうして大翔の魔力が感知出来なくなったの?」

「自分の中の魔力を消したんだよ」

「消した?」

「正確には限りなく小さくしただな。そうすることで飛鳥の魔力感知で俺を見つけることが出来なかったんだ」

「そんなこと出来るの?」

「別に難しいことじゃない。魔法を使うと魔力の量が減るだろう? 魔力は、体に一点に集中するものらしいからな、それを体の全体に流すことで魔力を小さくすることが出来る」

「う~ん、よく分からないわ」

「まあ、実際にやってみないと分からないかもな」

 頭を悩ましている飛鳥に大翔が助言をする。

「イメージしてみろ。体の中心に魔力があるとしてそれを徐々に広げていく。胸、肩、腕、足、指の先まで広げるイメージだ」

 飛鳥は目をつむり集中する。大翔に教えてもらった通りイメージする。すると、実際に魔力が広がり小さくなっているように感じ始めた。何とか全体に広げようとしたが途中で集中力が切れてしまった。

「ふぅ~、何となく分かったけど。私には難しいみたい」

「練習すれば出来るようになるさ、これが出来るようになれば誰かが近づいても何処に居るのか気付かれないですむ」

「大翔が魔力のこと知りたかったのって」

「飛鳥みたいに魔力感知が出来る奴はいるはずだと思ったからな。どうしても習得しておきたかったんだ」

「それじゃあ、魔力の目標は達成出来たってこと?」

「まあ、折角だから魔法も覚えてみようとは思うが、とりあえず達成ということで良いかな」

「後は、調べ物ね。図書館の本はほとんど読み終わったのよね?」

「歴史や魔力のことに関してはな」

 大翔は、この一週間で図書館の本をかなり読んでいた。気になるものは全て読んだが、大翔の知りたいことが書かれているものは無かった。

「城の書斎に行ってみる? 王様が使っても良いって言ってたでしょ?」

「そういえばそうだったな。それじゃあ、城に行ってみるか。ん? でも、いきなり行っても大丈夫なのか?」

「多分、大丈夫だと思うけれど。一応、城に着いたら誰かに聞いて確認してみましょう」

 今日の計画を立て、何をするか決まると大翔のお腹から空腹の音が聞こえて来た。

「相変わらずね、大翔のお腹は」

「いや、これは、その・・・すみません」

「ふふふっ、仕方ないわね。朝ご飯を食べてから城に向かうことにしましょうか」

 大翔は、空腹で鳴る腹の音を必死に抑えながら、飛鳥と一緒に家に入っていった。朝食を食べ終わった後、予定通り城に向かった。城門の前まで来るとそこには国の騎士達が居て警備していた。

「おはようございます。今日は、騎士の方々が警備をしているんですね」

「勇者殿、おはようございます。本来この仕事は我々がするものですからね。少しの間でしたが、代わりをしてもらっていた警備隊には感謝しています。ところで、今日はどういったご用件で?」

「城にある書斎に用事があって来たんですけど、入っても大丈夫ですか?」

「その件ならギアード王から伺っております。どうぞお入り下さい」

「ありがとうございます」

 門を開けて貰い、城の中に入って行く。城の中を歩きながら書斎を探す2人。

「書斎の場所は何処だろう?」

「そういや場所は聞いてなかったな」

「誰か居ないのかな。あっ、すみません」

 飛鳥が偶然近くにいたメイドに気付き声を掛ける。

「空月様、おはようございます。どうなされたのですか?」

「実は、書斎に行きたいんですけど場所が分からなくて」

「そうでしたか。宜しければご案内いたしましょうか?」

「本当ですか? お願いします」

 メイドは、大翔と飛鳥を書斎にまで案内した。書斎に着くまであまり時間は掛からなかったが案内して貰っていなければ見つけられていなかっただろう。

「こちらのお部屋が書斎になります」

「忙しいところにすみませんでした。おかげで助かりました」

「いえ、この位大したことではありません。今日は、他の勇者の方々も来られるようなのですがご存知ですか?」

「そうなんですか? 私は聞いてませんけど」

「すみません。王様が、招集を掛けていらっしゃったようなので空月様も呼ばれているものかと思っていました」

「そうだったんですか、教えて頂いてありがとございます」

「それでは私はこれで失礼します」

 メイドはお辞儀をしてその場から離れていった。

「あの2人何かしたのかしら?」

「この間、王様が言っていただろう? 飛鳥以外の勇者には元の世界に帰って貰うことを伝えるんじゃないのか?」

「2人が話しを聞いて素直に言うことを聞いてくれると良いけれど」

「さあ、どうだろうな」

 他の勇者が来ると聞いて前にギアード王が言っていたことを思い出す。飛鳥は、真田と宝条が話しを聞いた後に何かしないか少し不安に思うところもあったが、大翔はそんな2人のことは気にせず部屋の中に入って行った。飛鳥も大翔の後に続いて入って行く。

「あまり多くは無いみたいだな」

「それ先に図書館を見てるから感覚狂ってるんじゃない? 十分広いし、本の数も多いわよ」

「とりあえず何か気になるものがないか探してみるか」

 大翔と飛鳥は二手に分かれて書斎にある本を読んで行った。飛鳥の言った通り、城の中にある部屋なだけあってそれなりの広さがあった。大翔は、題名を見て気になるものがあれば中身を全て読んでいったがこれといった情報は見つからなかった。次の本に手を掛けようとした時、飛鳥が呼んでいることに気づいた。声がした方に移動すると飛鳥が本棚の前で立ちながら1冊の本を手に持ち読んでいた。

「飛鳥?」

「あっ、大翔」

「何か見つかったのか?」

「うん、この本なんだけど」

 飛鳥は本を閉じ、題名を大翔に見せる。

「『世界の不思議な病』?」

「過去にあった、症状が特殊な病気を載せたものらしいんだけど、このページ見て」

 飛鳥は、もう一度本を開きあるページを大翔に見せた。そこには病名とその症状が書かれていた。

「世界で最も危険だと言われる病、それは『黒影病こくえいびょう』」

「この病は、掛かると性格が変わり人を襲ってしまうこともある。そして、体の周りから黒い影のようなものが出て来るという症状が出て来る。治し方は分かっておらず、黒影病に掛かった人間を調べようとしたところ急に苦しみ出し、死んでしまった」

「図書館にあった絵本やギアード王の話しに出て来た影と同じものか?」

「分からない。私も病名を見て『影』という文字があったから読んでみたけど、この本事態かなり昔に書かれたものみたいだし」

「だが、全く関連が無いとも言えない。この本は何処に?」

「この本棚の上から2番目の列にあったわ」

 飛鳥は、目の前の本棚に触れ本が置いてあった場所を指さした。大翔もその本棚を見ていく。どうやらこの世界の医療に関する本が集まってるようだ。

「もう少し、この本棚にあるものを調べてみる?」

「そうだな・・・」

 大翔は、このまま医療の本を全て読むか、別の場所を探すか考えていると。部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。誰が来たのか、開けてみるとそこには先程案内をしてもらったメイドが立っていた。メイドは、急いで来たのか少し息が乱れていた。その様子を見た飛鳥が不思議に思い何があったのか聞いてみる。

「どうかしたんですか? 随分と慌てているようですけど」

「申し訳ありません。すぐに王の間へ来ては貰えませんか?」

「それは、構いませんが・・・」

「良かった、事情は移動しながら説明します」

 メイドは走り出し、飛鳥と大翔はその後を追う。息を切らしながらメイドは説明を始めた。

「実は先程、真田様と宝条様がお越しになられ王様から話しを聞いていらっしゃったのですが・・・」

 大翔と飛鳥は何となく予想が付いていた。宝条が話しの内容を聞いて暴れ出したのではないかと

「最初は静かに話しを聞いていたのですが、全て話し終わると宝条殿が怒り出したのです。なんとか落ち着かせようとしているのですが、私達ではどうしようもなくて」

「確かもう1人勇者がいただろ、そいつは何してるんだ?」

「真田殿ですね。それが、真田殿は何も言わず宝条殿のことも見ているだけで」

「ホント何で召喚されたんだろうなあいつら。どうする? 飛鳥」

「話しを聞いた以上放っては置けないわ。急ぎましょう」

 急いでギアード王のいる場所に向かう3人。部屋に近づいてくると怒声が聞こえてきた。部屋に入ると王様に近づこうとする宝条を騎士達が必死に止めているところだった。

「何してるのよ、宝条!」

「空月、てめえどうしてここにいる?」

「そんなことは貴方には関係無いでしょ。それより、王様から早く離れなさい」

「チッ、面倒だな。いや、ちょうど良い。空月からもこの王様に言ってやってくれ、私なんかよりも宝条さんの方が素晴らしい勇者ですってな」

 飛鳥は、宝条の奥にいる王様を見た。かなりギリギリだったようで、飛鳥達が来なかったらどうなっていたか分からない。宝条の方に視線を戻し、少し威圧するように飛鳥は言葉を発した。

「悪いけど、それは出来ないわ。自分が勇者として正しい存在なのかは分からないけど、少なくともあなたに劣っているとは思わないわ」

「何だと~~!!」

 飛鳥の発言に宝条の怒りは更に高まり、あまりの怒りに体が小刻みに震えていた。

「おい! 真田! お前はどうなんだ?」

「俺か?」

「いきなり元の世界に帰れと言われ、しかも空月よりも劣っていると言われたんだぞ。おかしいと思わないのか?」

「それは、思わない訳じゃないが・・・」

「だったらどうする?」

「・・・俺達が上だということを証明する?」

 真田の発言を聞いて、宝条は歪んだ笑いを頬に一瞬浮かべ、ギアード王の方に顔を向けて

「確か、俺達は何か条件を言っても良かったよな?」

「ああ、元の世界に帰す為の条件だが」

「だったら、俺達は勇者空月に決闘を申し込む。そして、俺達が勝ったら空月が元の世界に帰るんだ」

「なっ!? そんな条件は――」

「王様、私は構いません」

「しかし・・・」

「はっはっは、流石国に認められた勇者だ。その度胸だけは褒めてやるよ」

「良いのか? 飛鳥」

「ええ、それに私に負ければもう何も言えないでしょ?」

「随分と強きじゃないか。まあ、実際に戦えば泣き言に変わるだろうがな」

「私が勝ったら大人しく元の世界に帰るのよ?」

「お前が勝てば、な?」

 宝条は飛鳥に負けるなんて微塵も思っていない態度で、更に挑発も仕掛けている。しかし、飛鳥は少しも気にしている様子は無かった。

「それでは、決闘は明日行う。細かいルールは、決闘の前に説明しよう。空月殿は真田殿、宝条殿とそれぞれ1対1の勝負を――」

「おいおい、待てよ。それじゃあ、時間が掛かるだろう? 真田と俺は2人で空月に挑ませてもらう」

「それでは空月殿の方がかなり不利になってしまう。それは、認められない」

「俺は、空月のことを思って言ってやってるんだ。2試合やるより1試合にした方が体力も気にしないで良いだろう?」

「だが、やはり空月殿1人では」

「別に誰か助っ人で呼んでも構わないぜ? 俺達、勇者に立ち向かうような奴がいればの話しだけどな」

 宝条は、高圧な態度で自分の有利な展開に持って行くように話しをしていく。挑発も続けているが、飛鳥は涼しい顔でそれを流していく。飛鳥は、宝条の出す条件に困っている王様を見て

「王様、誰かを助っ人に呼ぶ件は一度考えさせて下さい。もし、誰も連れて来なかった時は私1人で2人を相手にします」

「・・・分かった。空月殿がそう望まれるのなら、では明日の夕刻より決闘を始める。場所は、国の闘技場で行う事とする」

「精々最後の異世界の夜を楽しんどけよ? 空月」

 こうして、勇者同士の決闘がここに決まった。飛鳥は明日誰かと一緒に戦うのか、それとも本当に1人で決闘に挑むのか。見たことも無い決闘に誰もが結果を予測出来ないでいた。ただ1人を除いて――。


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