第8章 試された理由
大翔と飛鳥の二人は、アレン王子に案内されてある部屋に入った。その部屋には、カイギルスの国王であるギアードがいた。ギアードの発言により、飛鳥は少し戸惑っていたがギアード王に説明を求めた。
「この世界に起きている本当のことって何ですか?」
「実は、この世界のバランスが崩れて来ているんだ」
「バランス?」
「そうだ、本来は温かく過ごしやすい気候である筈の場所が急激に気温が下がってしまったり、危険度の低い場所に魔獣が現れたりするなど、普段ならあり得ないことが起きている」
「確かにあり得ない事なんだろうが、どうしてそれで世界のバランスが崩れているなんて言えるんだ?」
「ちょっと、大翔、敬語使わないと失礼だよ」
「気に入らないんだよ、人のこと勝手に試すような奴。そんな奴に敬語を使う必要無い」
「その事は、大翔は関係無いじゃない」
「いや、良い。悪いのは私達の方だからな、空月殿も好きに話してくれて構わない」
「えっと、分かり・・・ました」
王様に言われて飛鳥も大翔のように話そうか考えたが、抵抗があったようで今まで通り話すことにした。
「アレン王子は? 無理して今の話し方をしているようだけれど?」
「父上?」
「ああ、お前もこの人達の前ではいつも通りで良い。ただし、失礼の無いようにな」
「はい、分かっています。正直、あの話し方は苦手だから助かります」
アレン王子の雰囲気が大分変わったように思える。王様が、話しを戻す。
「さっきの質問だが、もちろん気候変動だけで判断している訳ではない」
「世良殿は、僕に魔王が本当にいるのか、と聞いただろ?」
「ああ、聞いたな」
「魔王は存在するよ。ただし、今は4人の魔王がこの世界には存在しているんだ」
「それはおかしな事なのか?」
「これが、かなりおかしな事なんだ。何故なら、本来魔王は世界に1人しか存在しない筈だからね」
「そして、魔王を倒す為に召喚する勇者もまた本来一人しか召喚することは出来ないのだ」
「えっ? それじゃあ、私達は間違って召喚されたってことですか?」
「すでにおかしくなっていた世界に召喚したから、間違っているとは言い切れないけど・・・」
「魔王は4人存在しているが、勇者は3人しかいない。もう一人、勇者が召喚されているのか、それとも3人の中の1人だけが本当の勇者なのか」
「私達も同じ考えをして、召喚した勇者達を試させてもらったのだ」
「魔王討伐に向かった勇者には、実力を試す為に騎士達を同行させて、不意をついて攻撃させていたってことか?」
「そうだね、その解釈で合っているよ」
「待って下さい。それじゃあ、私は? 私は何を試されていたんですか? 他の勇者と違って何も示せていないと思うのですが」
飛鳥は、少し焦っていた。この世界に来て多くの人を救ったが、実力を何も示すことが出来ていない。自分は何も出来ていないと考えていると
「何をおっしゃる、空月殿は十分に勇者の素質を見せてくれました」
「えっ?」
「空月殿には元々、戦う技術が高いということが最初に分かっていたので、人としてどういう振る舞いをするのか知る為に国に残ってもらっていたのです」
「でも、私、魔力が低いって」
「魔力は確かにこの世界では重要なものだけど、それだけで判断はしないよ」
「でも、私の振るまいはどうやって知ったんですか?」
「たまに街にいる人が話しているのを聞いたことがあったりしたんだけど」
「一番大きいのはやはり警備隊長のジンが教えてくれたことですかね」
「隊長・・・ジンさんが?」
「ええ、空月殿が活躍する度に報告をしてくれていました。おかげで、空月殿が本当に勇者に相応しい方だと知ることが出来ましたよ」
「いえ、私は、そんな大したことは」
飛鳥は、少し泣きそうになっていた。いつも、勇者であろうと頑張っていたが本当に認められているのか不安だった。実力も他の勇者に負ける筈が無いと思っていても実際に手合わせをしたことがないから分からない。それでも、毎日必死に頑張っていたことが今少し報われたような気がしていた。
「良かったな、飛鳥」
「い、いきなり何? 何で褒めるの?」
泣きそうになっている顔をばれないように下を向けていた飛鳥。王様と王子にはばれていなかったが、大翔には気付かれていた。小さな声で話した大翔の言葉は、飛鳥にしっかりと聞こえ飛鳥自身、その言葉で何処か嬉しく思っていた。大翔は、飛鳥の様子も気にしながら
「それで、飛鳥は勇者として認めて貰えたみたいだけど他の二人はどうなんだ?」
「そうだね、正直、今のところ勇者として信用出来る存在では無いね」
「理由を聞いても?」
「騎士達の話しを聞いての判断だけれど、実力、戦闘においてはかなりのものらしい。ただ・・・」
「ただ?」
「性格に問題があるみたいでね。真田殿は、冷静に見えて実は少し臆病みたいなんだ。騎士達が戦っている時も安全だと確信しないと行動出来ないらしい」
「魔力も高いって聞いていたから少しは頼れる存在かと思っていたが、その状態じゃ一緒に戦う人達も不安になってしまうな」
「そして、宝条殿だが――」
「いや、もう一人は何となく想像がつく。さっきも荒れてたしな」
「まあ、一応話すと、嘘ではあったけど魔王討伐で移動している時に魔物に襲われた時は近くに誰がいようが関係無しに攻撃をしていたらしい。実際、騎士達の数名はそれで怪我をしてしまっている」
「随分と酷い勇者がいたものだな」
「本当よ」
気が付くと飛鳥は涙を拭き会話に参加していた。どうやら落ち着いたようだ。
「この世界を救う為に私達が勝手に彼らを呼んだのだから、文句などを言える立場では無いのだが」
「でも、どうするんだ? まだ、勇者を試すつもりなんだろ?」
「彼らもまだこの世界に慣れてない可能性もあるからね、試すべきかもしれないが」
「いや、・・・二人は元の世界に戻って貰おう」
「良いのですか? 父上」
「私達が召喚された時は、魔王を倒すまで帰すことが出来ないと聞いていましたが?」
「勇者全員を帰す為の魔法を使うのに元々膨大な魔力を使うことになるのだが、1人や2人なら一度だけ使えるように魔力を備えてある」
「何で全員はダメなんだ?」
「この世界と君達がいた世界に道を繋げて帰すことになるんだけど、僕達が作る道は狭くてね、大勢を帰すことが出来ないのさ」
「でも、魔王を倒すと帰れるんですよね?」
「魔王を倒すと一時的に大量の魔力が世界に広がるんだ。それを利用すれば道が広がり全員を帰すことが出来る」
「なるほど、そうなんですね」
大翔は、少し気になることもあったが今は飛鳥以外の勇者の処遇についての話しを聞くことにした。
「方法は分かったけど、いきなり元の世界に帰すなんて言ってもあの2人は納得しないんじゃないか?」
「まあ、そうよね」
「特に、宝条殿は怒りで荒れ狂うかもしれないね」
「致し方あるまい。2人から何か条件があれば受け入れた上で元の世界に戻ってもらうことにしよう」
「真田君はともかく、宝条が素直に言うことを聞くとは思えないけど」
「とにかく、この事は僕達に任せて欲しい」
「まあ、俺達が決める事ではないしな」
「そして、空月殿、これからもこの国、この世界の為に勇者として動いて貰えるだろうか?」
「はい、任せて下さい」
「ありがとう」
ギアード王とアレン王子は、飛鳥に深々と頭を下げた。飛鳥も優しい笑顔で応えていた。
「これ、俺呼ばれた意味あったのか?」
「もちろん、君も説明を聞いただけで真実に気付いていたからね。出来れば、君にも協力して欲しいと思っている」
「今日会ったばかりの人間をそれだけで信用しても良いのか?」
「空月殿と一緒にいるということは、少なくとも悪い者では無いと思っている」
「それに、さっき僕に本当のことを聞こうとした時、あれは空月殿の為に――」
「分かった。それ以上は話さなくていい」
「ふふっ、そうかい? 空月殿、彼は中々良い人間だ。これからも仲良くすると良い」
「はあ・・・」
飛鳥は首をかしげながら返事をした。大翔が、飛鳥の為に真実を聞き出そうとしていたことをアレン王子には気付かれており、飛鳥に聞かれる前に話を切った大翔だった。
「2人とも長々と話しを聞かせてすまなかった。今日は、ここまでにしておこう。ゆっくり休んでくれ」
「はい、それじゃあ失礼します」
「ちょっと良いか?」
「ん? どうかしたかね?」
飛鳥が挨拶をして部屋を出ようとした時、大翔が王様に問いかけた。
「実は、この城に来る前に図書館に寄って調べ物をしようとしていたんだが、そこで一冊の絵本を見つけたんだ」
「絵本?」
「題名が『世界と影』っていう絵本があってな、2人は知ってるか?」
「ああ、見たことがあるよ。でも、小さい頃に読んだから記憶は曖昧だけどね」
「ギアード王は?」
「私も知っている。その絵本がどうかしたのか?」
「題名にもある通り、影ていうのが出て来て勇者を倒してしまうらしい。この影っていうのは一体何なんだ?」
「絵本のことだからね、想像上の話しじゃないのかい?」
「・・・・」
「父上? どうかなされましたか?」
大翔が影という言葉を出すとギアード王は、下を向いて何か考えている様子だった。
「大翔、あの絵本の内容は誰かが作った話しじゃないの?」
「それならそれで良いさ。悩み事が1つ減るだけだ」
「・・・影についてか」
「何か知っているのなら教えて欲しい」
「私も詳しくは知らない。それにこの話しが本当のことだという確証もない。それでも良いか?」
「ああ」
ギアード王は立ち上がり、窓の外を見ながら話しを始めた。
「昔、この世界に勇者が現れた。見慣れぬ服装で現れ自分は異世界の人間だと言った。最初は、困惑していたようだが魔王に苦しめられている人々を見て、人々を救う決意をした。そして苦労の末、魔王を無事倒すことが出来た」
「めでたし、めでたし、じゃないんですか?」
「いや、まだ、続きがあるんだろ?」
王は、静かに頷き話しを続ける。
「魔王を倒し、世界を救ったと思った勇者だったがある場所で謎の女性に世界は救われていないと教えられる。どうすれば救うことが出来るのかと聞いても、謎の女性は何も教えてはくれなかった」
「(ここまでは、あの絵本と似たような話だ)」
「唯一知れたことは、世界が影に飲まれてしまい消えてしまうということ。勇者は、影を探し出し対峙したが、やはり倒す事が出来なかった」
「えっ? それじゃあ、世界は影に」
「いや、勇者が危機に陥った時、その場にもう1人勇者が現れた。2人は協力し影を倒し、今度こそ世界を救ってみせたという」
「最後に現れたもう1人の勇者・・・」
「私が話せるのはこれだけだ。何か役に立っただろうか?」
「今のところは、正直分からない。だけど、教えてくれてありがとう」
「何でそんな偉そうなの? 相手はこの国の王様なのに」
「別に俺は、この世界の住人じゃないからな」
「はぁ~、全く。すみません、ギアード王」
「いや、大丈夫だ。それと、この城にも書斎がある。街の図書館で分からないことがあれば使ってくれて構わない」
「ありがとうございます。それでは、今度こそ失礼します」
大翔と飛鳥は、頭を下げ部屋を出て行った。2人が出て行った後、ギアードは椅子に座りアレン王子と大翔について話しをしていた。
「世良殿は、一体何者なのだろうな」
「僕にも分かりません。我々が試していたことに気付き、この世界に来たばかりなのに迷わず行動を取っているように見えます」
「謎なところが多いが不思議と我々の敵になるとは思えない。これから、空月殿と共に仲を深めていければ良いのだが」
「そうですね、実力も相当なもののように感じます。彼が勇者だったら随分と心強かったように思えます」
「勇者・・・いや、彼はもしかしたら訪問者なのかもしれないな」
「父上、今何と?」
「いや、気にするな。アレン、貴様もご苦労だった。今日は、もう休んでくれ」
「分かりました。それでは、失礼します」
アレン王子は、頭を下げて扉に向かい静かに空けて出て行った。
「空月殿は勇者、そして、もし世良殿が訪問者だとすれば、この世界の均衡が無事に修復されるかもしれない」
ギアード王が大翔が訪問者であるか考えていることなど、大翔自身は気付いておらず、それよりも王様や王子に取った態度について飛鳥に怒られていた。
「もう、どうしてあんな態度取るのよ。王様も王子も優しかったから良かったけど」
「流石王族、器がデカいんだな」
「そういうことじゃなくて」
「悪かったよ、今度は気を付ける」
「何か怪しいけど、もういいわ」
大翔に説教することを諦める飛鳥。2人が城の外に出た時には外は日が沈み始めていた。
「思っていたよりも時間が経っていたのね」
「さて、明日からまた調べ物だな」
「私も付き合うわ。王様の話を聞いて少し気になることも出来たし」
「気になること?」
「この世界のバランスが崩れてるって言ってたでしょ? 過去に何か似たようなことがなかったのか調べてみようと思って」
「お互いやることがあるってことか」
「あっ、もちろん、魔力のことを教えるのも忘れてないわよ?」
「そう言えば、そんなこと頼んだな」
「何で頼んだ本人が忘れてるのよ」
「冗談だよ、よろしく頼む」
「厳しくいくから覚悟してね」
「お手柔らかに」
今日、聞いた話しを帰りながら整理する大翔。まだ、訪問者について確かな情報はないがそれでも城に来たことは間違いでは無かったと思った。
そうして今夜も飛鳥の家に泊めてもらうことに大翔が気付くのはもう少し後の事だった。
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