第7章 勇者の帰還

 大翔と飛鳥は国の中央にある城の前に来ていた。門の前には警備隊がいて厳重に守られていた。飛鳥は、大翔の方に振り向き釘を刺す

「もう一度言って置くけど、城に入れなかった時はおとなしくしていること」

「分かってるよ」

「城に入れないからって、怒って、暴れたりしないでよ?」

「お前は俺を何だと思ってるんだ」

 大翔が嫌気を差すほど、飛鳥は注意をしていた。そこに、警備隊の一人が近くにやって来た。

「勇者殿、お疲れ様です。わざわざ、ご足労頂きありがとうございます」

「隊長こそ、他の仕事があるのに厳重に警備して頂きありがとうございます」

 門の警備をしていたのは、先日飛鳥が犯罪者を倒した後、犯罪者達の処理を行った隊長だった。

「こちらの方に人数を割いても大丈夫なんですか? 街の方に何かあったら・・・」

「優秀な部下達を残してあるので心配は要りません。何かあってもきちんと処理が出来るように鍛えていますので」

「そうですか、それなら安心ですね」

「ところで、勇者殿の後ろに居られる方は?」

 隊長が、飛鳥の後ろにいた大翔の存在に気付く。飛鳥は大翔の事を説明する。

「ああ、この人も異世界から来たんですが、この世界に来てまだ日が浅いらしくて慣れるまで私が面倒を見てあげているんです」

「なるほど、それは大変ですね」

「・・・はい、大変です」

 不本意な説明のされ方だったが間違っていないので否定も出来ない大翔だった。隊長は、大翔に近づき手を伸ばし握手を求めてくる。

「初めまして、私は、ジン・ロンドと申します。この国を守る警備隊の隊長を務めています。何か困ったことがあれば言って下さい。助けになれるかもしれません。」

「俺は、世良大翔と言います。本当にこの世界には来たばかりなのでそう言ってもらえるだけでも有り難いです、ロンドさん」

「ジンで構いません」

「俺も大翔で良いですよ」

 ジンが差し出してきた手を握って握手を返す大翔。挨拶が終わったのを確認して飛鳥がジンに話しかける。

「隊長、少し良いですか?」

「何でしょうか?」

「大翔も城内に入る事って出来ますか?」

「大翔殿もですか?」

「はい」

 ジンは、大翔の全体を見て、その後に目をじっと見ると

「どういった事情があるかは分かりませんが、大翔殿なら問題は無さそうです。入ってもらって大丈夫ですよ」

「えっ? 良いんですか?」

「はい、どうぞ通って下さい」

 ジンは、そう言うと部下に門を開けさせ二人を見送った。城の中に入り、王様がいるに向かう大翔と飛鳥。

「まさか、通してくれるなんて思わなかったわ」

「あの人凄いな」

「そうね、国の人達にもいつも優しく接しているわ」

「優しさもだけど、実力もかなりのものだよ」

「どうして分かるの?」

「ジンさんは、俺達と話しながらも周りの警戒を怠っていなかったからな。しかも、警戒していたのは俺達が来るずっと前からだ」

「でも、それが仕事でしょ?」

「だとしても、ずっと気を張り巡らせておくのはかなりの集中力と体力がいる。それが辛いことだっていうのは飛鳥も分かるだろ?」

「確かに、周りのことをずっと集中して警戒しておくのは大変ね。技を練習する時もかなり集中しているけど、その分疲れも凄いし」

「初めてあったけど、あの人が居るのと居ないのじゃ、この国の犯罪率がかなり変わるだろうな」

「私もこの世界に来てから随分とお世話になったけど、今の話しを聞いて改めて凄い人だと感じたわ」

「飛鳥が集中力で勝負したらあっさり負けるかもな」

「私だって集中力には自信があるわよ」

「集中力だけか?」

「それ以外にも――」

「ん? 王様がいる場所ってここか?」

「ちょっと、ちゃんと聞いてよ」

 二人は話している間に、大きな扉の前に着いていた。どうやら、今回集められた場所らしい。身なりを整えて飛鳥が扉をノックする。大きく重い扉がゆっくりと開いていく。扉が開くと床には赤い絨毯が敷かれていて、その先には赤色の座面と背もたれでふちが金色の椅子があった。恐らく王様が座る場所だろう。

 中には、鎧を着た騎士達が一定の間隔を空けて並んでおり、王様の椅子の近くに二人の男がいた。飛鳥は、二人がいる反対側の場所に行った。

「向かい側にいる奴らが飛鳥と同じ勇者か?」

「ええ、そうよ」

「何か見られてるけど、反対側に来て良かったのか?」

「良いの、気にしないで。あの二人の事だけど、ごめん、また後で話すわ」

 説明しようとして止める飛鳥。大翔は飛鳥の視線の先を見ると誰かが入って来るのが見えた。騎士達は頭を下げている。入って来たのは若い男性だった。王様が来ると言っていたので、大翔は随分と若い王様だと思っていると、飛鳥も不思議な表情をしていた。そのまま、部屋の奥に置かれた椅子に座る。

「私がここに居ることに勇者の方々は混乱しているだろう。私は、この国の王子のアレン・フォーリナーだ。我が父であるギアード王は体調が優れないため代わりに私が来た。王家の者ではあるが、君達と歳は近い。あまり固くならずに話して貰えると嬉しい」

 現れたのは王様では無く王子だったらしい。最初は場が緊張してしまうような雰囲気を出していた王子だったが、最後は笑顔で語りかけて来たので飛鳥の緊張も少し解けていた。飛鳥が手を挙げて発言をする。

「すみません、アレン王子。質問よろしいでしょうか?」

「ああ、構わない」

「王様が体調が優れないと言っていましたが、大丈夫なのですか?」

「ああ、大丈夫だ。医者によると軽い風邪だそうだ。2,3日安静にしていれば良くなる」

「そうですか」

 王様の症状が軽かったことを説明すると、次に王子は本題の説明を始めた。

「色々と話すことがあるのだが、まず、魔王討伐に行っていた勇者真田と勇者宝条、我が国の騎士達よ、よくぞ生きて戻って来てくれた」

 勇者二人とその場に居た騎士達が頭を下げる。

「そして、勇者空月よ。この国に残り多くの人々を救ったと聞いた。心より感謝する」

 飛鳥は、少し恥ずかしながら頭を下げた。

「さて、今回は、魔王討伐に向かっている間に起きた出来事について詳しく知る為に集まってもらった。真田殿、話しを聞かせてもらえるか?」

「分かりました」

 真田と呼ばれた勇者の内の一人が一歩前に出て説明をする。

「俺達は、魔王を討伐するためにこの国を出ました。最初は順調に進むことが出来ていて、出て来る敵も難なく倒していたのですが――」

 大翔も何があったのか説明を聞いていると、飛鳥が小声で話しをかけてきた。

「今、話している人がいるでしょ? 彼は、真田さなだ あきら。私達勇者の中で一番魔力が高くて、今回の指揮も彼がやってたわ」

「もう一人は?」

「もう一人は、宝条ほうじょう れん。プライドが高いのか分からないけど、魔力を測った時に自分が一番じゃなかったことに腹を立てていたわね。魔王討伐のメンバーになった時は選ばれなかった私にやけに突っかかってきたわ」

「何で飛鳥が?」

「さあ? 私の魔力が低かったからじゃないかしら」

「自分より上の奴にはケンカを売らずに低い奴には偉そうにするのか、面倒な奴だな」

「何か知りたいことがあってここに来たんでしょ? 紹介してあげようか?」

「はははっ、遠慮しとく」

 笑ってはいたが困らせる気満々の飛鳥の言葉を乾いた笑いで流す大翔。飛鳥から勇者の話しを聞いている間に一通りの説明が終わっていた。真田は、説明が終わると下がって元の位置に戻った。

「今の話しを聞くと、森の中に入り休憩をしていたところを襲われた。しかし、攻撃されるまで気配を感じることはなく、襲われたときも姿は見えなかったと」

「はい、その通りです」

「どんな攻撃をされたのか分かるか?」

「すみません、一瞬だったもので」

「宝条殿はどうだ? 何か気付いたことはないか?」

 王子は、もう一人の勇者にも聞いてみた。宝条は、随分と機嫌が悪いのか眉間にしわが寄っている。王子とは目も合わせずに返事をする。

「真田が一瞬だったって言ったろうが、俺だって知らねぇよ」

「ちょっと、そんな言い方失礼でしょ!」

「うるせー! 俺より弱いくせに口出しすんな!」

 王子への宝条の態度に怒った飛鳥が注意をするが、宝条は逆に怒鳴り返してきた。

「空月殿大丈夫だ、宝条殿もすまなかった」

「チッ」

 衝突しそうになった二人に一言王子は言ってその場を収めた。宝条は、更に機嫌が悪くなったように見え、飛鳥も納得がいかないような表情をしていた。話しを戻す王子だったが、

「しかし、姿も見えず攻撃がどのようなものか分からないとなると、一体どうすれば良いのか」

「とりあえず休ませてくれよ。帰って来たばかりで疲れてんだよ俺は」

「宝条の言い方は悪いですが、俺も休ませて貰えますか? 何か分かったことがあれば後で報告しますので」

「ああ、分かった。無理をさせてすまなかった。ゆっくり、休んでくれ」

「ありがとうございます」

 真田は王子に頭を下げ、宝条は口を尖らせぶつぶつと文句を言いながら出て行った。王子は残っていた飛鳥に目を向け口を開く。

「わざわざ来てもらったのに悪いな、今日の所は空月殿も帰ってもらって大丈夫だ」

「あの少し気になることがあるのですが」

「何か気付いたことでも?」

「いえ、今回勇者の二人や騎士達を襲ったのは誰なのか気になって、可能性としてはやはり魔王の部下が襲って来たのかと」

「ああ、恐らくそうだろう。魔王からすれば勇者は邪魔な存在、消したいと思うのも当然の話だ」

「・・・魔王討伐はもう一度行いますよね?」

「魔王を倒さねば、この国を支配されてしまう。きっと何度でも戦いに向かってもらうことになるだろう」

「なら、次は、私も行きます」

「空月殿が?」

「はい、私も勇者です。きっと力になれます」

 飛鳥は真剣な表情で王子に頼んでいた。王子は飛鳥の言葉を聞いて深く考えている様子だった。そして、王子が口を開こうとした、その時

「止めて置いた方がいい」

「えっ?」

 王子より先に口を開いたのは大翔だった。飛鳥は大翔の言葉に少し困惑し、王子も大翔の方に目を向けていた。

「止めて置いた方がいいって・・・」

「行っても無駄だってことだ」

「私に力が無いって言いたいの?」

 飛鳥は、大翔の言葉を聞いて拳を握り絞めていた。王子からの許可が貰えれば、今度は自分も魔王討伐の力になれると考えていた。断られても仕方ないと考えていたが、止めたのは大翔だった。さっきの宝条とのこともあり、理由もなく止められたことに怒りがこみ上げてきていた。

「私は、確かに魔力が低いと言われたし、大翔との組み手でも負けてしまった。それでも、私にも出来ることはきっとあるわ!」

「落ち着け、別にお前のことは何も言ってないだろ」

「どういうこと?」

 大翔は、怒りで興奮気味の飛鳥に落ち着くように言うと、王子に話しかけた。

「アレン王子、質問をしても?」

「それは構わないが、君は一体?」

「俺の名前は、世良大翔と言います。実は、異世界に来たばかりで、勇者の空月様にお世話になっているんです」

「それは災難だったな」

「はい、それで今日勇者達が集まると聞いて、無理を言ってここまでついて来ました」

「そうであったか、それで質問というのは?」

「はい、単刀直入に言いますと、魔王は本当に存在するのですか?」

 大翔の発言にこの場の空気が凍り付いてしまう。大翔は、言葉を丁寧にして口元も笑っていたが、目つきは真実を知る為、鋭く王子を見ていた。

「どうして、そんな風に思うんだ?」

「ただ、不思議に思っただけです。魔王は、勇者に消えてもらいたい筈なのにどうして生きて帰したのか。しかも、一緒にいた騎士達も死んだ者はいない」

「運が良かったのかもしれない」

「運が良かったですか・・・。魔王がいる場所には、騎士達が先導して進んでいたと聞きました」

「ああ、土地勘が分からない勇者達の力になれればと父が頼んでおいたらしい。それが、どうかしたか?」

「いえ、少し気になっただけです。勇者二人の前にも後ろにも騎士達が居たということは――」

「待って、大翔、それ以上は」

「飛鳥も気付いてたから遠回しに聞いてたんだろ? 俺も知りたいんだよ真実が」

 大翔が言おうとした事を遮る飛鳥。二人の様子を見ていた王子が、椅子からゆっくりと立ち上がると

「空月殿、そして世良殿と言ったね? 私に着いてきて欲しい。場所を変えよう」

 大翔と飛鳥は顔を見合わせ、とりあえず王子について行くことにした。何も話さないまま歩いて行き、王子がとある扉の前で止まった。

「ここだ」

 王子が、扉をノックすると中から声が聞こえてきた。

「誰だ?」

「アレンです。父上が言っていたこの世界を救うと思われる二人をお連れしました」

「分かった、入ってくれ」

 王子は、扉を開け入って行く。

「君達も中に入ってくれ」

 王子に言われ、飛鳥と大翔も中に入る。先程の場所よりは流石に小さいがそれでも十分な広さがある。部屋の奥には、机の上に置いてある書類を処理している少し歳を取った男性がいた。大翔が一体誰なのかと考えていると、

「王様、どうしてここに? 体調が優れなかったのでは?」

 飛鳥の反応を見て、奥にいるのが王様だということが分かった大翔。確かに体調が悪く、その代わりにアレン王子があの場に出ることになったと聞いていた。だが、様子を見る限り少なくとも体調が悪いようには見えない。王様は手を止め、二人の方を見る。

「すまない、私の体調が悪いのは嘘なんだ」

「嘘? 何故そんなことを?」

「失礼な話しだが君達の事を試していたんだ」

「勇者に対して試すことって何なんですか?」

「君は?」

「彼は、世良大翔です。彼も異世界から来た者だそうで、今回の魔王討伐の件について気付いて私に質問して来ました」

「なんと、それは驚いた」

 大翔は、王様とアレン王子の様子を見ながらどういった状況なのか大体理解していた。一方、飛鳥はまだこの状況を上手く理解出来ていない様子だった。飛鳥は、思わず質問をした。

「一体どういうことなんですか? この状況、私にはよく分からないのですが」

「そうだな、君達にはこの世界に本当は何が起きているのか教えた方が良いだろう」

 王様の深刻な面持ちから語られる話が、大翔の運命を大きく動かして行くことになる。


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