外伝 女教皇の記録2

両親が死亡してからというものの、俺はさらに自身を追い込み、肉体と精神を鍛え始めた。


今までの鍛錬が嘘に思えるほど、追い込みをかけていた。


魔物に筋力で勝てないなら筋トレで拮抗するまで鍛える。


それでも駄目なら流し・武器を使う。


魔術で勝てないなら工夫する。


既存の魔術式?そんなの知らない。


殺すための術式を思い付いた。


独自術式変更をしたことで、魔力と精神は削りに削れる。


でも、異能のおかげで無限に試せる…いや、試す。


こうして、俺は任務を終えたら修行。


修行を終えたら即任務という生活を繰り返していた。


もちろん、俺も超人じゃない。


復讐にとらわれているとはいえ、疲れもするし病気にもなる。


でも、そんなの関係ない。


治してまたすぐ繰り返す。


そうして、身体を壊して治して壊して治して…を永遠かと思うほど繰り返していた。


『できた。水の固形化と気体化。これで戦略が広がる』


俺は自身の固有属性である水をどうにかして殺傷力・汎用性を上げるために術式変更の実験を繰り返していた。


その結果、生活は乱れるし、交友関係なんて無くなってしまったけど仕方ない。


よし、これで。


俺が死人のような表情と生活を繰り返していたせいか、担当医からは心底心配されていた。


でも、ここで止めるわけにはいかない。


この時既に16歳の俺は少年兵を卒業し、ソル国二番隊魔術隊長としての役職になっていた。


感情が薄くなっていくのは自覚していたけど、部隊からは逃げなかった。


両親の部隊に憧れていたからかもしれない。


二番隊のメンバーを取り仕切り、着々と任務をこなす。


特に任務自体に問題は起きなかったが、俺の年齢が気に障る者もいた。


そのせいで嫌がらせ、嫉妬、命令無視。


人間の裏を見て少しガッカリしたけど、それも些細なことだ。


見返すには実力と結果を出すしかない。


俺は父さんから教えてもらった魔術師としての動きの他に、通常ではありえない前線に立つことを選んだ。


魔術師が近接戦闘を行うなんて自殺行為だとメンバーからは言われていた。


でも、君らが動かないんだから、仕方ないだろ。


母さんからの武術と自身の訓練である程度なら戦える。


本来であれば遠距離攻撃としての役割である魔術を近接戦闘用に応用し、点の攻撃ではなく、面の攻撃で対応した。


こんなあり得ない戦闘を繰り返したせいで、何度も怪我と疲労で入院したが、そのおかげで次は~しよう、次は…と対策を練ることができた。


そして、18歳。


俺は気づけば戦果を元にして、ソル国1番隊魔術隊長になっていた。


この頃にはもう既に部隊では俺の援護をする者はいなかった。


数年前から単騎で前線に飛び込み、魔物を殲滅する危ない者という認識が広がっていたのだろう。


実際、実戦と修行・失敗と怪我を重ねて基本的に自身で一通りの戦闘ができるようになってからは支援の必要性は感じていなかった。


逆に、俺の範囲魔術に人がいる方がやりにくいとまで思っていた。


ただ、これは両親の部隊ではないな。


そう感じていたころにはもう既に20歳だった。


男としても成人し、魔術も武術も鍛え上げられてある程度騎士としては完成している頃だ。


そんなとき、俺はソルに新たに設立される第1期アルカナイト部隊の存在を知った。


国に従属はするものの、今のような大勢のメンバーと共に任務をしなくて良いというところが何故だか妙に惹かれた。


子供の頃の願望とは真逆になったが。


第1期アルカナイト部隊の魔術師として転属届けを出すとすぐに決まった。


上の者も俺のことは早く左遷でもしたかったのか分からないが処理はスムーズで助かった。


ソル王からは冷徹さと非情さを買われ、女教皇のアルカナを授けられた。


どうもアルカナイトとして活動する際には特別な称号とファミリーネームを授けられるらしい。


ファミリーネームから家族を狙われるための対策らしいが、俺にとっては関係ない。


かといって無下にするわけにもいかず、承った。


この頃からグレイルという他世界から来たという奇怪な男と面識を持つことになった。


何でも他の世界の者…転生者を呼び出す術を持っているらしく、ソル王からも頼りにされているとか。


戦力強化のために、俺もその転生者の育成担当に任命された。


正直やる気は無かったが、以前の部隊メンバー全員を管轄するよりはましかと受け入れた。


数ヶ月後には早速アルカナイトとして活動中、ソル国の周辺に大量発生していた魔物を単騎で全滅させた。


しかし、一部を逃してしまう。


城門近くまで来た魔物についてはソル王と配下の騎士達らが対処。


逃がしたつもりはなかったが、単騎だと流石に大軍全てをカバー出来なかった。


一時期に単騎での活動を禁止された。 


他のメンバーの中では、グレイルの呼んだ転生者である戦士と行動を共にしていたが、戦士が転落死するとまたもや単騎での活動になった。


仕方ない。


転生者であっても死ぬときは死ぬ。


育成していたこともあり、多少情のようなものはあったがすぐに切り替えた。


21歳には1年で他のアルカナイトのメンバーがその過酷さと危険さ、戦死などでいなくなっていた。


ただ、俺は変わらず魔物の拠点を殲滅に専念していた。


主要拠点を10日かけて14つ潰したが、ソル王からそれ以上は援軍を呼ばれるとして、活動自粛を余儀なくされた。


そして、またもやグレイルからの推薦で、転生者の武闘士と行動を共にする。


その後の任務で魔物の幻惑魔術の餌食で毒草を食べ、死亡。


即効性のため俺では解毒の対処できず、遺体を城に持ち帰った。


また死んだな。


俺は自身の切り替えの早さに嘲笑しつつも、任務に専念した。


まるで、嫌なことから逃げるように。


今現在、22歳だ。


だんだんと今の俺の記憶とリンクしてきたこともあり、覚醒し始めたか。


最後の転生者として、補佐士と行動を共にしているが、今回は。


今回こそは期待できると感じている。


こんな魔物殺しのみ取り柄の男の側にいてくれる奴だ。


きっと。


きっと、俺は今度こそ転生者を殺させない。


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