外伝 女教皇の記録

レトゥワルが新たな転生者としてこちらへ来てもう二年近い。


つい最近では半魔人ハーフとの戦闘で俺をサポートできるまでに成長している。


前の2人よりも成長が遅いとなどグレイルに伝えていたが、自身がそのようなことを言える立場でもないことを思い出した。


就寝した際、レトゥワルとの修行のせいか、遠い日の記憶が薄く蘇る。


アルフ・ラパペス。


この名はアルカナイトとしての俺の仮名だ。


家族を失う前までは『アルフ・スムター』としてソル国で騎士隊の兵を目指していた。


段々と今の俺の意識は当時の俺になっていく。


『アルフ。お前は本当に騎士になるつもりか?』


『うん。俺は父さんみたいに魔術師として悪い奴を倒したいんだ。それで、いつか父さんの部隊に入って、一緒に働きたい』


『…まだ10歳のお前に勧めたくはないがなぁ』


『何で?魔術師になれば悪い魔物もやっつけられるよね?』


『そうだな…強くなればな…』


ちょうど父さんの帰還後ってのあり、俺は騎士についてたくさん質問していた。


『アルフ。こういうのもなんだが、お前は戦いに向いていない性格だ。俺のように頭も悪くないし、ある程度の進路はあるはずだ。魔術に興味があるなら学者なんてどうだ?勉強自体は嫌いじゃないだろう?』


『確かに戦いとかは向いてないかもしれないけどさ…父さんも母さんも皆のために戦ってるし、俺も直接力になりたいというか…!でもそっか…魔術師になるにも勉強は必要だよね』


『諦めが悪いのは俺に似たか…?』


父さんは苦笑しながら俺の頭を撫でる。


『近頃は魔物も活発になってきているし、自衛はできても損ではないか。よし、アルフがそこまで気があるなら俺も教えよう。途中で根を上げるなよ?』


『うん!!』


俺はこの日から父さんに毎日魔術と戦闘術、魔物の特徴やこの大陸の歴史と現状について教えられ、勉強していた。


2年後のある日。


俺は12歳で念願の騎士隊に入隊した。


『やったなアルフ。ついに目標達成だ。俺としてはたった二年でよくここまでなったと驚いているぞ』


『そうね。私も武術を教えたかいがあったわ』


『父さん、母さん。ありがとう!これで少年兵だし、少しはお金ももらえるよ!』


『えぇ、本当に凄いわ…アルフ』


母さんは微笑みながら、俺の手を握ってくれる。


『あなたは私達の子ですもの。優しくて賢い男の子。この調子で頑張れば、本当に私達の部隊に入れると思うわ。私も父さんもアルフに抜かれないよう気をつけなきゃね?』


『ぐっ…確かに母さんの言うとおりだな…俺たちも精進せねば』


母さんはニコニコと父さんはほんの少し焦りながら、俺の入隊を祝ってくれた。


そうして、俺はソルの少年兵として気弱な魔物を討伐・城周辺の建造物の手伝いなどをして時を過ごした。


実戦と修行。


父さんからは魔術と知識を学び、母さんからは武術と精神・心について学んだ。


こうして、二人の指導もあり、俺は少しずつではあるけど実力を伸ばしていった。


元々そんなに才能は無かったけど、二人からの『基本を忠実に』を忘れず、基礎を固める修行と勉強をしていた。


そんな充実した毎日を送っていたし、この先も二人の部隊を目指していけると思っていた。


ただ、そんな優しい未来は無かった。


時は経ち、俺が14歳になるころ。


少年兵の部隊長になり、忙しく任務をこなしていたある日のことだった。


『はっ…?両親の死亡…?』


『あぁ。アルフの両親は近接型の魔物に殺害された。他の騎士を守るために二人は最後まで戦っていたそうだ。遺体は何とか持ち帰ることができた。幸いにも傷を見るに即死だ。せめてもの…』


『…』


俺は頭が真っ白で騎士隊の偉い人が読み上げるペラペラな紙の内容をあまり聴いてなかった。


二人が死んだ?


大好きで憧れの二人が?


『すまん。君は少年隊の隊長までに上り詰めたことで忘れていたが、まだ子供であったな。しばらく任務はしなくて良い。休養を…』


『いえ。やります。そんなの二人は望まないので』


俺は悲しみを飲み込み、今までの明るい気持ちや希望、未来について考えることを放棄した。


だって、あまりにも現実離れしている。


両親が殺されたのは魔物のせいだろ?


ならそいつらを全部殺すまでこの悲しみは外に出さない。


そんなの、魔物に負けたことになる。


『…?そうか、精神的に難しいと思っていたのだが…』


『とにかく、その魔物は近接型なんですよね?』


『あ、あぁ。そうだが…』


『それならば母さんのメモと俺の独自訓練で対応するか』


『??』


『いえ、何でもないです。明日からまた討伐任務ですよね。任せて下さい。魔物は俺が全部殺します』


『アルフ…お前…』


上官にあたる男性が何か言っていたが、聞こえない。


俺は、魔物を、殺し終えるまで、泣かない。







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