第22話 第3期アルカナイト部隊 前編

アルフさんとキャンタルさんが16番討伐作戦のためにソル国から離れて数日。


俺は久々にグレイルさんと城下町で会っていた。


「カケル。元気にやってるかのう」


「んー、まぁまぁですかね。つい最近アルカナ持ちの半魔人ハーフと会ったりしましたし」


「がはは!そりゃええのう!まさに補佐士として成長したってことだ!」


「どうなんですかね…まだまだですよ」


この人は楽観的というかなんというか。


「その心意気があれば十分。今後とも精進せい。お、そういえば今日から第3期アルカナイト部隊の顔合わせがあるようじゃ。くせ者が多いのは当然じゃが、カケルなら大丈夫じゃろ。あの無口男、お喋り女といるんじゃし」


「アルフさんとキャンタルさんは別に変わってない…」


いや、変わってるか。


「じゃろうな。覗き見しなくても分かるわい」


あ、グレイルさんは心を読めるんだっけか。


「うむ、そうじゃ。まぁ良い。ワシの仕事は一段落したし、今度は第3期アルカナイト部隊の管理者としてやるつもりじゃ。まともにカケルと仕事するのは初めてになるのう」


「グレイルさんとは何だかんだすれ違いが多かったですからね。この機会に転生者とか元の世界の事とか教えてください」


「そうじゃな。仕事の合間に話そう」


そうして、俺とグレイルさんは顔合わせ会場である城の訓練場に向かった。



「この人達が…」


「おう、そうじゃ。新たな第3期アルカナイト部隊のメンバー。レトゥワルはお初だからワシが紹介していこう」


「この白髪の男が『皇帝』のアルカナを託された『ドミネイト・ランプラー』じゃ」


グレイルさんが片手で指すと、ドミネイトという男性はこちらに近寄ってくる。


「ふん。君がレトゥワルか。話は聞いてる。私達の合同訓練に参加せず、あのアルフの元で修行したとね。悪いことは言わない。あいつと行動するのはやめた方が良い。仲間を見捨てるからな」


冷たい声音で少し顔をしかめるとドミネイトさんは続いてニヤリと笑う。


なんだ…?


「まぁ、この際は良い。君が隊長に相応しいかどうかは直接試合をすれば分かる。なるべくすぐ終わらせてあげるさ」


「えっ?どういうことです?」


「どういうことじゃない。ソル様から任命されたとはいえ、隊長の実力が無いなら私が皆を導くしかないだろう?だからこそ、今この場でハッキリさせたい」


あ、グレイルさん…くせ者でした。


「そうじゃろそうじゃろ。この部隊に来る者は何かしらな。よし、他の2人もレトゥワルの実力を見たいそうだし、ここも訓練場だからのう。許可しよう」


え!グレイルさんは止める立場だろ!


「ありがたきお言葉を。グレイルさんの許可もある。ほら、剣を抜け」


すると、ドミネイトさんは鉄剣を抜き、騎士の構えでこちらを流し見する。


くぅ。顔合わせだけだと思ってたのに。


仕方ない。こういうのも修行になる。


相手は軽鎧装備に、鉄剣一本。

予備の鉄剣もあるか。


俺は鎧装備とか無いし、アルフさんの教えで動きやすい騎士服を着ている。


ソル国で武闘士の人が着るような、防御よりも回避を優先してる物だ。


固有属性が風で、三次元的動きをするなら鎧は邪魔になるだろうとのことでね。


腰の鉄剣を抜き、同じく騎士の構えでドミネイトさんを見つめる。


「準備は出来てます」


「ほう。君も騎士流の構えか。良いだろう。先手は譲る。いつでも来たまえ」 


それならば、お言葉に甘えて。


俺は一息つくと、身体強化をかけて低い体勢で駆ける。


アルフさんの武闘士の踏み込みを思い出しつつ。


「っ!」


ドミネイトさんが少し目を開いたのが分かる。


「ふっ!」


俺は下から上に斬り上げる。


すると、ドミネイトさんは左手の盾でそれを防ぐ。


キン!と鉄と鉄がぶつかる音と火花が散るが、衝撃を防ぎれないのか30センチほど後ろに後退させた。


「やるじゃないか!見事!」


「そっちも!」


恐らく相手も身体強化を使ってる。


ノックバックはさせられたけど、火力が足りないか。


それなら!


俺は左手で風魔術を起動し、ドミネイトさんの横っ腹に突風を吹かせる。


「ぐっ!風か!」


ほんの少し体勢を崩した隙を突くように、打ち付けていた鉄剣から手を放し、サイドステップ。


「剣を捨てるのか!」


「俺は騎士ではないので!」


すぐさまステゴロで懐に潜り込み、盾の防御範囲外である右脇腹に左ストレートを打ち込む。


身体強化で腕力が向上しているおかげで、インパクト音が鳴り響く。


「っ!武闘士の動き!?」


手応えはあったけど、ドミネイトさんはすぐさま体勢を整え、こちらに盾を構える。


「(鎧で防御されてるからか内部へのダメージは少ない。ただ、動きは見切れるしイレギュラーな立ち回りに慣れてないようだ)」


俺はこういうとき、アルフさんならどうするかと思考する。


恐らく俺の最大限の身体強化でも届かない可能性がある。


よし、ならば防御を超えるほどの攻撃力を出せば良い。


身体強化と風。それに未来予測を使えば押せる可能性ありだ。


「なかなかのイレギュラーな戦い方だね、君。流石あの男の弟子だ。ただ、正統派の俺にはまだ届かないようだ。こちらもお披露目といこう」


すると、ドミネイトさんの周りの地面が隆起して槍のような物に変化した。


土の魔術か。


「お互い固有属性を出したわけだ。これで正々堂々やれるな。いくぞ」


ドミネイトさんは土の槍をこちらに伸ばしつつ、自身も突撃してくる。


未来予測発動。


7秒後に土魔術で槍が左右から発生するか。


それならば逆にそれを利用する。


「ふっ!」


ドミネイトさんの土槍をサイドステップで回避し、追撃とばかりに来る本人の斬撃を風魔術による逆風で押しとどめる。


「ドミネイトさんは騎士の役職だけに、打たれ強いですね!」


「当たり前だ!私は部隊の盾!この程度で倒れると思うな!」


逆風でも身体強化を使って突進してきてる!


凄まじい筋力と身体強化だな!


徐々に俺が押されてきたところで、未来が現実になる。


来た。ここだ!


「っ!」


魔術起動と魔力の反応を感じた俺は、そこで足元に風魔術を起動。


アルフさんとの試験のように不格好ではなく、綺麗に垂直跳びをする。


「なっ!まさか予知していたのか!」


「どうですかね!」


俺は真下で突き刺すように交錯している土槍を見るとそちらに向かうように背中へ突風を起動。


推進力で一気に土槍に近付くと、そこを足場にして踏ん張る。


と同時にそこを思い切り蹴り、一直線にドミネイトさんへ低空飛行で向かう。


もちろん、背中に突風をぶつけて。


足場を蹴ったことによる加速に風魔術の突風で神速と化した俺は辛うじて目を開く。


落ちていた鉄剣にも風をまとわせて、ドミネイトさんへ投擲しながら突っ込む。


「なんだその力技は!」


ドミネイトさんは右手からの飛んでくる鉄剣と正面からの俺を見て戸惑うが、地に足を着けて防御の構えを取る。


これは、騎士の流しだな。


だけど、流しには弱点もある。


それは技よりも力が上になったとき、受け流せない!


「うぉぉぉ!」


俺は叫びながら渾身の右ストレートをドミネイトさんの盾へぶち込む直前に、身体強化を重ねがけする。


拳と盾がぶつかったインパクトで、ドミネイトさんは3メートル吹き飛ぶがすぐに着地した。


ただ、盾が粉々に壊れるとドミネイトさんの左腕もだらりと力が抜けたようになった。


恐らく捻ったか、酷ければ骨折かも。


それを見逃さないように投擲された鉄剣もドミネイトさんへ向かっている。


風操作で意のままにドミネイトさんへ向かっていたが、それは土槍で防がれる。


「やる、な…まさか私が単純な力で押されるとは…しかも左腕を取られるとは」


「そちらこそ…俺の本気の一撃を受けても倒れてないなんて…」


そう、今の俺の本気の一撃でもこの人は倒れてない。


吹き飛びはしたものの、しっかりと着地をしてまだ右手で鉄剣を握って体幹もしっかりしてる。


頑丈だな…


次同じような攻撃を仕掛けるならどうするか。


俺が思考しようとしたら、ドミネイトさんは力を抜いて剣を収めた。


「レトゥワル。俺の負けだ。騎士は盾を失うと戦力が落ちる。認めよう。君は隊長としての力はあったようだな」


「認めてもらえて良かったです。俺なんかまだガキのようなものですし」


ドミネイトさんは苦笑しながらこちらに寄ってくる。


「すまないな。アルフと関連があると聞いて躍起になっていた。あいつとは馬が合わなくてな。ただ、君とはそこまで相性が悪くなさそうで良かった」


んー?それはどうなんだろ。


まだ知り合って1日経ってないし。


「そうなんですね…えーと、これから部隊としてやってく仲間ですし、なるべく協力していきましょう」


「あぁ、そのつもりだ。俺が認めたレトゥワルの指揮ならそうしよう。基本俺は支配する側だが、たまにはされる側も知っておかないとな」


どういうことだ?

もしかして、ドミネイトさんは他の部隊では偉かったとか?


「む?疑問か?あぁ、俺は元騎士部隊隊長でな。それと事務管理もしていた。人を下につけることばかりしていたから癖もあるかもしれん」


「な、なるほど」


「なに、性格と今までの事に関しては任務に支障は出ないようにするさ。これでも現場の経験は長い。アルフと比べると少ないかもしれないが」


何か自分で言って自分で苛ついてる。


「とりあえず、レトゥワルの実力は分かったからな。俺は治療しに行く」


そう言い残すと、ドミネイトさんは訓練場を去った。


「ほらの、レトゥワル。くせ者じゃ」


「ですね」





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万能補佐士 モルン @morun58

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