第19話 ターワー

金髪はそう言った瞬間、身体強化をかけて俺の視界から消える。


そうか、半魔人ハーフは元の能力が高い。

身体強化無しでも今まで動けてたか。


「遅いよ。こっちからやら…」


金髪が俺の背後を取った時、気配が消える。


と同時に青い魔法陣が現れ、散弾銃の如く、水の弾丸が四方から発射。


大地に数ミリほどの穴を20個弱あけるが、金髪には当たらない。


術式展開するとバレるのは当たり前だが、対応が早いな。


俺は続けざまに視認できない金髪を狙い、水魔術を展開。


水を圧縮し、複数の弾丸を精製し、僅かな魔力の反応を頼りに発射。


「くっ!」


ヒット。


俺は南西位置で着弾を確認すると、貫通した弾丸を引き戻し、魔力反応を遠隔で確認。


行動予測はできた。


後は詰める。


「お前の魔力反応は掴んだ。もう外さん。人間には視認できないほどの早さゆえに油断したか?俺が魔術師だから接近すれば良いと?だとしたら間違いだ。俺は近接魔術と遠距離魔術どちらも扱える似非魔術師でな。イレギュラーと言われても仕方ない者ではある」


俺は前方で血を流している金髪に告げる。


こうして話してるのは単純に次の術式準備をするための時間稼ぎではあるが、半魔人ハーフだから話が通じるというのもある。


「あー!そうさ!少しな!少しだけ!くそっ!…凄い威力だ…一発もらっただけこのダメージかよ…」


金髪は左腕をだらんと下げてこちらを睨む。


「そうか。だとしたらお前は三流以下だ。相手の力を下に見過ぎるのは下策の下策」


俺は慎重に金髪を警戒しながら右手を構える。


「仕留めさせてもらう」


俺は金髪に向けて水魔術起動。


狙撃弾並みに鋭い弾丸を精製して、発射。


一直線に脳天まで飛んだ弾丸は…


『額に当たる直前に霧散した』


「…」


術式破壊?いや、違う。

防御結界?違うな。

これは。


「そう!これが僕の魔術!『崩壊魔術』!あらゆる事象や魔術の崩壊現象を起こすものだ!どう?自慢の魔術が壊される気分は!?あはは!楽しいなぁ!こうやって人間の作った物を壊すの!」


「なるほどな。崩壊魔術か。適性がないと自身の魔力すら壊してしまう危険なものと聞いていたが。使いこなせるのが半魔人ハーフなら納得だな」


「そんな分析してて良いのか!これを!」


金髪はまたもや瞬間移動をすると俺の左手に移動し、崩壊魔術を放つ。


「…」


魔力反応を確認し、吸魔の土剣で土壁を4枚発生させる。


しかし、無色透明の魔術に当たった壁は何の防御もすることなくあっさり崩れてしまう。


「(初めて見るが、なるほど。強力だな)」


俺は回避に専念するため、身体強化をさらに重ねがけし、後ろに飛び退く。


すると、俺の今まさにいた地は抉れたように消失しており、威力の高さを示していた。


「こっちだ!」


またもや背後に来た金髪を魔力反応で確認した俺は、吸魔の風剣を使用して自身に突風をぶつけて回避。


続けざまに崩壊魔術を放ってくるのを身体強化を使用したステップもしくは風を操作して強引に回避する。


「(これがアルカナ持ち半魔人ハーフの力か。厄介だな。今のところは回避できるが、こちらからの魔術は崩壊現象で通らない。接近戦では、俺だと分が悪い。恐らくこいつは格闘タイプだしな)」


何度も接近されることでの予測だが、攻撃魔術を使用しないあたり、そうだとしか言えない状況だが。


「どうした!?さっきまでの威勢は!君の攻撃魔術はこちらに届かない!へっ!魔術師は魔術が無いとどうにもならないからな!」


「…」


それはそうだな。


俺は完璧でも天才でもない。


元々非凡な状態なのを努力だけで何とかしてるだけだしな。


ただ、それでも俺は魔物を全て殲滅するまで死ぬわけにはいかない。


勝つためならあらゆる手段を使う。


俺は回避を続けて、初めの立ち位置まで戻ると再び水魔術で狙撃を行う。


それを崩壊魔術で全て無効化しながら、金髪はこちらに接近する。


「もう、おわ…」


そこで金髪はつっかえたように前のめりになる。


金髪は無言で足元の結界を確認すると、破壊するため踏み潰そうとする。


が、触れると体をシャボン玉で包み込むように結界で覆われた。


「よくやったレトゥワル。隙があるなら」


俺が魔力を練り上げ始めると、金髪は結界を崩壊させてなおこちらに接近する。


が、同じように足を踏み出す度につっかえてしまい、上手く進めない。


「(なんだこれ!!簡単に壊せるくせして、僕の踏み出すところに必ずありやがる!なんだよ!行動を予測でもされてるのか!)」


俺は口角を多少上げて、術式変更し最大火力を出すためさらに魔力を込める。


「お前はあいつを戦力として数えるべきだったな。確かに主戦力にはならんかもしれんが、立派な補佐士だぞ」


チラッと斜め後ろを見るとレトゥワルは両手で連続魔術行使をし、どこか別の風景を見てるような雰囲気で佇んでいた。


サポート助かるぞ、レトゥワル。


俺は完全に準備が整い、魔術を起動させた。



俺はずっと異次元並みに高速戦闘をしている二人を見ていた。


未来予測と身体強化を平行使用して、辛うじて行動予測と罠を張って。


アルフさんがひたすら攻撃しても金髪が何かの魔術で無効化してることも。


これの原理は分からないけど、アルフさんが初めの穴がある場所に移動した後、把握した。


恐らく、隙を作れと。


そこで俺は能動的に極度の集中をして、金髪が移動する地を未来予測し、結界起動。


7秒後にいたるまでの地形位置でここを踏むだろうという場所に全て結界を張った。


魔力がガンガン減るし、常時未来予測を発動してるせいで見てるのが未来なのか今ここの風景なのか曖昧になりつつだけど。


そのおかげで1秒にも満たない時間ではあるけど、金髪の歩みを阻害することができた。


あいつが俺に注意を向けるとアルフさんが牽制してくれるおかげで集中できたしね。


何とか魔力切れを起こす前に、アルフさんが何かの魔術を起動させた。


周囲の温度が変わったと錯覚するほど目の前は『氷』の大地一帯になっていた。


アルフさんを中心に、完全に凍結した丘はもちろん金髪も含まれていて。


無効化する魔術を使ってなんとか上半身は無事のようだけど、下半身は完全に凍り付いていた。


アルフさん…これがアルフさんの本気か。


魔術書を見たときに基本4属性以外の属性系統は無いと思ってたけど、中にはこうしてオリジナル魔術を使う人もいるんだ。


「さて。ターワーと言ったか。分析したおかげで分かったことがある。お前の崩壊魔術は強力だが、弱点がある。それはこのような全域同時攻撃。魔術も万能ではない。指向性を決めないとそれは使えないんだろう。だからそれを補うためにお前は接近戦を主に使い、相手が魔術師ならば魔術を使われる前に殺し、そもそもそれ以外の役職なら接近戦で殺す。こんなところか。複数のアルカナイトを相手にするときは人質でも取っていたんだな?」


「…ぐっ…てめぇ…水魔術だけじゃないのか…よ…それにこれ…」


「あぁ。凍結して終わりじゃない。溶かすか俺の操作範囲から離れない限り、付着している対象をひたすら切り裂く。いくら半魔人ハーフの再生力といえ、ダメージを受け続けている状態だと回復が間に合わないはずだ。それに少しでも変な真似をしてみろ。躊躇無くお前の上半身も凍らせて粉々に砕く」


「…へっ、僕を殺したら情報が出せないぞ…情報抜いてから殺すんじゃないのか…?」


「あぁ。それはあくまで利口にしていた後の処理だ。俺じゃなく、ほかの奴でな。ただ、あいにく俺は他のアルカナイトと違い、見た目が人間でも魔物なら殺す。情報?そんなもの建前に決まってるだろ。こう言わないと上に叱られるからな。情報を出そうとしたら抵抗されたから殺した…という体裁を保つためだ。言わないならそれで良い。多少楽に殺されるか、雑に殺されるかの二択だ。選べ」


「君…まさか、『猟犬』か…?前々から知性がある魔物達では噂になってる…?僕らの拠点を単騎で潰して回っていたっていう…」


「知らん。お前たちの事情に興味無い。質問するということはまだ利口になるということだな。なら、ひとまず殺さずに持ち帰りだ」


「まだ何も…」


アルフさんの脅しを少し後ろで聞いてた俺はこうして魔物を捕まえて情報をまとめてることに少しビックリしていた。


少し気を抜いていたけど、俺は念のためフラフラになっている頭で未来予測を発動させておく。


むっ?

これは…まさか…!


俺は魔力切れを起こしつつ、アルフさんの背後に結界起動させる。


それに気付いたアルフさんもその場から飛び退くと吸魔の火剣を取り出す。


ちょうど7秒後に、アルフさんが立っていた場所の大地の一部が抉れてごっそり『消えた』。


とそれに代わるように茶髪の男が現れる。


「よーよー、ターワー。あら、やられてるねー。珍しいってか、君はうちでもかなり強いのに」


「っせ!油断しただけだ!早く逃げるぞ!こいつ猟犬だ!『チャリト』じゃ負ける!」


「…へいへい、オイラにお任せー」


「させるか」


アルフさんは何かしようとしたもう1人の茶髪に火炎を放つ。


えっ?


放たれた炎はどこかへ消えてしまう。


また無効化の魔術か?


「まーまー、急ぐなよ。オイラたちも今回は悪かったって。また会おう。猟犬」


アルフさんが連続で水の弾丸狙撃をするが、全てまた消えてしまう。


するとその場から二人は虚空に消えてしまった。


「…取り逃したか。レトゥワル、助かった」


「いえ…それにしても何でアルフさんの攻撃が?」


「恐らく『転移魔術』だな。それで俺の魔術をどこかに移動させられた。空間系統の魔術は取得するのに時間がかかるのに加えて短距離移動するだけで魔力が尽きるはずだが」


「何でもありですね…」


本当に…半魔人ハーフってのは反則並みの魔術を使う。


「仕方ない。魔王城直属の半魔人ハーフを2人視認できただけ良しとするか」


「ええ、そうですね…というか、あの金髪。アルフさんでも苦戦するってことは…」


「あぁ、2番目の実力というのは事実かもしれんな。それにしてもレトゥワル。今回の初陣はとても良かったな。言わずとしても俺のサポートを完璧にこなしていた。正直レトゥワルのサポートが無ければ金髪を押せていなかった。ありがとう」


「いえいえそんな!俺なんか必死に待ち伏せしてただけですし!ってかアルフさん隠してる魔術あったんですね!水魔術!」


「あぁ。見せる機会は無い方が良かったが。使わねば勝てないと思ってな」


凄い…本来の得意な魔術だもんね。


「氷魔術も使えるのなんて…本当に強いです」


「一応な。水魔術の幅を広げるために個人的に水の気体化と固体化が出来るようにしてある。術式変更でな」


「ははは…次元が違う…」


俺らは今回の戦闘の振り返りをしながら、ソル様に報告するため、城に戻った。





ある建物内。


フィール近辺拠点から、僕とチャリトは戻ってきていた。


「くそっ!何だあの男は!魔力切れも起こさねーし、変な魔術と変なサポート野郎も使いやがって!」


「ご乱心だねぇ。ターワー負けなしだったのにこれで一敗かー」


「うっせ!うっせ!今回は偶々だ!僕の崩壊魔術に勝てるやつなんていねぇ!」


「攻略されてるけどね」


「…今度こそ殺す。最初から本気でやれば良いだけだ」


「まっ、頑張ってよ。オイラは仕事あっから。運び屋も大変なんだぞー。迅速に正確に皆を移動させなきゃいけないし」


「わーってる。仲間の危機にいつも来てくれるお前だけには感謝してる。今回は初めてだけど!」


「はいはい。またあれば呼んで。連絡魔石砕けば分かるし」


「おう」


そうして、チャリトは虚空に消えた。


今度こそ、あの猟犬を狩ってやる。

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