第18話 初任務

俺がアルフさんに一応認められてはや2ヶ月。


城では第3期アルカナイトのメンバーが決まり、各種手配と訓練が始まっているとか。


もうしばらくすると、第3期アルカナイト部隊が正式に決まって俺もそこに配属することになる。


「(とのことで、俺は今いつものルーティンをやりながら戦術書を読んで勉強してるの)」


鉄剣の素振り、身体の柔軟をしながら武具の手入れ、反復横飛びと目隠ししながらの逆立ち、魔術式展開練習、結界同時起動・薬草と毒草の調合かつ戦闘用の毒瓶作成など。


前よりも修行を増やしてるのは何もアルフさんに届かないからではなく、今後必要だろうということでしてる。


いやね、実際魔物と戦うときに必要になるかなって。


手数を増やすのはアルフさんを見習ってるけど、出来ることが増えると戦術も広がるしね。


そんないつもの日々を続けていたある日。


アルフさんからお誘いがあった。


「レトゥワル、任務だ。第3期アルカナイト部隊として、ソル様からのな」


「え、まだ正式に部隊が発表されてないのでは?」


「問題ない。俺とラムール、そしてお前がいれば事足りる」


「あ、あー…そうなんですね?」


「あぁ」


何だろう。この微妙に噛み合わない会話。


アルフさんとしては元々単独で動く人だからそもそも部隊には興味無いのかな。


「それに本来俺は単騎で動きたいのだが、ソル様にレトゥワルと組むことで行動許可されているからな。役職が揃っているなら動かない理由はない」


部隊が決まらずともソル様からの要請だしなと続けるアルフさん。


「分かりました。それで、任務とは?」


半魔人ハーフの駆除及び魔物の拠点制圧だな。前者に対しては俺とレトゥワルで担当し、後者についてはラムールにやらせる。初任務だが、基本俺が前衛になる。レトゥワルはあくまでサポートとしていてくれると助かる。修行したとしてもまだ実戦はしていないからな」


半魔人ハーフですか…あの魔物と人の」


たしかとても強くて、人と見た目が変わらない魔物だよな。


「あぁ。あいつらは基本的に魔物に育てられてるせいか、人に対しての憎悪や敵対心が強い。人の生活圏を奪うことしか考えて無いのだろうな」


「なるほど。では、足を引っ張らないように頑張ります」


「頼む…が、無理はするな。俺が指示したらすぐに逃げろ。そうでなくても自己判断で逃げろ。とにかく危険だと感じたなら逃げろ。レトゥワルには未来予測の異能もあるからな。それを使って状況判断してくれ」


俺は頷いてアルフさんに頭を下げる。


「よし。では、今からここのフィールから南西位置にある16番の巣に向かう。あいつらもアルカナをモチーフにしてるのか知らんが、魔王城所属の半魔人ハーフには名前があるらしい。どうせ殺すから覚える気もないが」


アルフさんは興味なさげに話してるが、口調はどうも刺々しさがある。


やっぱり魔物に対して思うところあるんだろうな。


「16番ってことはそこの拠点はそこまで強い魔物はいないんですか?」


「数字は強さにあまり関係ないな。単純に拠点に記されているからそう呼称してる。たしかそこに滞在している半魔人ハーフは魔王城の中で2番目の実力らしいぞ」


えっ。2…?


「本当ですか!そんないきなり強い…」


「驚くことはない。近々フィールに攻めてくる情報があったらしいからな。それに元々俺達は魔物を殲滅する部隊だ。このようなことはよくある。我慢してくれ。初陣がこれなのは正直同情するが」


確かに…嘆いていても仕方ないか。


ここまで2年近く修行してるんだ。

気張れ、俺。


「そうですね…弱気になるのは負けてからにします」


「そうだな。始まる前から弱気だと死ぬ。自信を持て」


アルフさんの言葉を受け入れて、俺はそのまま師匠の後を付いていった。


16番の巣。


そこは見晴らしの良い丘のような場所であった。

周りに木々が無くて、視界には草原が広がるだけみたいな。


そんな何もない場所に場違いなキャンプが遠くにいくつか、俺達の前方にレンガ作りの小さな建造物があった。


「アルフさん。あれが巣ですか?想像してたよりも人が住めるような…」


「あぁ。あれだな。まぁ、拠点は場所によりけりだ。魔物は身を隠すために拠点を作ることが多いからな。今回の半魔人ハーフは体裁を気にしないのだろう。現にレポートでは気まぐれな魔物とある。それ以外の記録は実力があるとしかないが」


ということは、情報を持ち帰れるほどの人がいないってことだよね…


「レトゥワル。ここにいろ。あそこまでここから約40メートル。俺が遠距離で牽制する。未来予測でいつでも自分の身を守れるようにしとけ」


「はい」


アルフさんは俺の返事を聞くとそのままレンガの建物に10メートルほど近づき、吸魔の土剣を片手剣に変化させ横に振るった。


するとレンガ作りの建物の下から巨大な土の剣が生えて、建物自体を粉砕させた。


凄まじい破壊音と共にあっけなく建物は崩れて土剣も魔力を失ってその場でただの土に戻って崩れる。


「…」


その様子を見ていたアルフさんはほんの少し立ち位置を変えると、吸魔の土剣を騎士の構えで警戒しだした。


「(何が…?)」


俺が疑問に思ったと同時に瞬きするとアルフさんの目の前に金色で長髪の男が現れた。


「いいねぇ!なになにそれ!僕のお家粉々!おもしろ!そろそろフィール潰そうと思ってたら来てくれたのね!流石ソル~~!魔物の研究に余念が」


アルフさんが吸魔の土剣に魔力を込めると金髪の立っている大地から唐突に土剣が垂直に伸びる。


一瞬、一瞬にて金髪の左腕、右わき腹に穴ができた。


鮮血が吹き出し、それを避けるようにアルフさんは一歩右に進んで警戒を続ける。


「御託は良い」


アルフさんは無感情の声で再び土剣を発生させて金髪を追撃する。


「よっ!とっ!」


金髪は嬉しそうに血を流してバックステップをしながら回避。


完全に回避し切れないのか頬に切り傷を負いながらなおも笑っている。


「いいねぇ!いいねぇ!久々にやりがいのある人間だ!僕に傷を負わせたやつはあんまりいないんだよ!光栄だね、君!」


アルフさんは無視をしながら土剣を大地から発生させ、金髪を攻撃する。


「(アルフさんの攻撃は当たりそうで当たらない…あいつの回避も馬鹿げてるな)」


俺は遠目で二人を観察しながらサポート手段を考える。


「(大地、陥没…そうか!アルフさんはあえて大地を破壊して穴をあけてる!そこに俺が結界をはって落とし穴みたいにすれば…)」


作戦の打ち合わせなんかしていないし、合ってるかも分からない。


ただ、結界に少しでも触れたならそこを起点として俺の魔力で円形に変化、捕縛できる。


少しでも時間を稼げるなら御の字。


無理でもあいつの気を引かせられるなら。


俺は身体強化をかけ、未来予測を使い、息を整えるとアルフさんがあけた穴に1つずつ結界を張り始めた。




「ん?なんだいなんだい?人間の気配はあったけど、弱すぎて無視してたけど?何かしてんの?」


「…」


レトゥワルが感づいて恐らく結界で仕掛けてくれている。


頼みの綱としては少々物足りないが、これで少しはマシになるだろう。


「ま、いっか。それよりさ…君、もっと本気出してくれないと僕を殺せないよ?」


金髪はヘラヘラ笑いながら俺から距離を取る。


「さっきの傷はもう治ってるし。なーんか単調でつまんないの!もっとさ!あるっしょ!」


そうか。確かにレトゥワルの初陣としてあいつにも活躍させたかったが、こいつは曲がりなりにも実力はある。


上手くいかんな。


魔導具だけで処理できるそこらの半魔人ハーフではないってことは本当のようだ。


「…」


俺は魔導具あいぼうをしまうと、素手にて魔力を込める。


久々に使うな。


「…へぇ」


金髪はヘラヘラとした表情から無表情に変わり、目に殺気が現れる。


「凄い魔力だね。僕も本気にならないと駄目か」


金髪も右手に魔力を込めて、構えを取る。


「一応自己紹介をしておくよ。僕は魔王城所属の半魔人ハーフ、16番の『ターワー』。あちこち壊して回ってるから変人扱いされててね。ま、仕方ないさ。そういう性格だし。あとあと、16番ってのは人間の世情でいう『塔』のアルカナ?になるそうだね。魔物ってほら、娯楽が無いから…敵対してる強い人間がアルカナモチーフで名前あるなら真似ようってなったのさ」


「…」


「君は恐らくその、強い人間のアルカナ持ちってやつかい?噂で聞いてたけどさ。ソルの他のアルカナ持ちはほんと弱くて。あ、ごめん。君もその人らの知り合いだったら申し訳ないことをした。でもさ、仕方ないよね?僕ってば何でも壊したくなるから」


金髪がペラペラと話している間に術式展開・魔力精製・行動予測を終えた。


ずいぶんと余裕がある半魔人ハーフだな。


「どうせこの後死ぬことになるお前の情報なんていらん。だが、ある程度情報を持っているようだな。死ぬ前に魔王城、他の半魔人ハーフの情報を抜いてから殺してやる」


「そう。君の最後の言葉はそれでいいのかい?人それぞれだから別にいいけどさ」


金髪は全身から魔力を溢れ出し、術式展開をし始める。


「さて、やるかね。No.2の実力見せてあげるよ」


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