第16話 慣れ

アルフさんに言われてから、川辺で模擬戦をやることになったのは良い。


ただ、結論として。

ついて行けない!


いくら先読みが出来るとしても、1度、2度、3度と怒濤の攻撃を回避するのが難し過ぎる。


頭では右に避けようとしても、数秒遅れて叩かれ、その遅れを取り戻そうとしたら未来予測するための集中力が足りなくて異能自体が不発。


なんてことが何度も何度も繰り返された。


「ふむ。異能は強力でもそれに合わせるのが難しいということか」


「えぇ…はぁはぁ…その、通り、です」


俺はぜぇぜぇと息を吐きながら汗を拭う。


「よし、今日はここまでにしよう。慣れれば多少は変わるはずだ」


「はい…」


俺は若干うなだれてアルフさんと家に戻った。



2週間後。


さて、どうしたもんか。

異能自体はそれなりに慣れてきたし、集中にかかる時間も減った。

まだ体は完全にはついて行けないけどね。


それと併用するように、魔術の特訓も継続していて。

自身の風属性魔術の知識を入れて、起動練習もしていた。

魔術式自体は理解してるけど、これをどうすれば攻撃と防御に展開するのかっていう感覚を掴めてない状態だ。


後は、例の身体強化魔術だ。

アルフさんいわく、生身で魔物と戦うのは自殺行為らしいし、魔術師じゃなくても習得する人が大半とのこと。


体のどこを強化して、どれくらい魔力を込めて、どれくらいの引き上げになるのかを調整しながら特訓をしている。

今のところは微調整が難しいから、生身よりはマシって程度しか強化出来てない。


具体的には、生身で20キロ持てるなら強化有りで27キロ持てるみたいなイメージ。


2つの修業を同時にやるのはキツイけど、着実に自分の戦力になってるって言い聞かせて行う。


異能と魔術。

今までの修業時と違って成長は緩やかだけど、めげないさ。


俺は気分転換にでもフィール内を散歩する。

もう既にここに来てから1年以上経ってるけど、あんまりうろついてないんだよね。


修業は家の中か、町の外の森か川辺だし。


アルフさんは今日も城での仕事だ。

何をやってるか聞いても雑務だとしか教えてくれないけど、大変なんだろうね。


それこそ、そろそろ第3期アルカナイト募集らしいし。


俺にも関係あるけど、採用側ではないしね。

お声掛けあるまで待機だ。


お、町中にバッタがいる。

懐かしい。


しばらく町の中をうろうろして、元の世界の感傷に浸っているとアルフさんが帰ってきた。


最近は城での内勤が多いらしく、昼休みにこうしてフィールまで戻ってきてくれる。

俺の修業に対してアドバイスや指摘をするために。


後は城でのランチより慣れ親しんだ我が家でのご飯が良いとか。

元より人との付き合いで食事!みたいなのは嫌いっぽいし分かる気がするけど。


「レトゥワル。昼飯を頼む」


「あ、はい。後は軽く準備するだけなので待っててください」


俺とアルフさんは我が家に入ると、それぞれの準備をする。


俺はあらかじめ下準備をしていたほうれん草のお浸しを食器に並べて、その隣にササミの赤シソ和えを置く。

続けて火石で発生する熱でオニオンスープを沸騰直前まで煮立たせると、同じく食器に入れる。

最後に土鍋の中の白飯をかき混ぜて、空気を入れてやり、その後にお椀によそう。


テキパキとルーティンワークをこなしている間に、アルフさんはテーブルを拭いて床やドアを掃除していた。


これが俺らなりの分担である。


アルフさんは俺のためにも稼いできてくれるし、やらなくても良いって言ってるけど何もしないのは気が引けるとのことで家の中と外の掃除をやってくれてる。


こっちが感謝するべきなんだけどね。

居候だし。


「では、いただこう」


アルフさんは静かに手を合わせていただきますと呟く。

俺も習って。いただきます。


すると、時期に食器が空になる。

うん、美味しかった。


「なかなか腕が上がってきたな」


「恐縮です」


俺は大げさにははぁと頭を下げて微笑む。


アルフさんはクールだけど、褒めるときには褒めてくれるのだ。


評価をしっかりするのは本当に凄いと思う。

プライドとか天の邪鬼心が邪魔して、才能に嫉妬する人もいるしね。


「さて、引き続きだが。レトゥワルの修業を行う」


「はい。お願いいたします」


俺はエネルギー満タンになった体を少しひねって、この後に備えるのであった。




3ヶ月後。


俺はアルフさんといつぞやの川辺で対峙していた。


やっと実戦形式でのテストだ。

ここ数ヶ月で異能と魔術。


2つの難関な技術を鍛えたおかげで、魔術にも異能にも慣れた。

それにそれを使うための体作りを継続していたおかげで、身体強化の魔術に振り回されるなんてことも無くなった。


僧侶・地図士・薬士の技術を使えることで補佐士として認められ、戦士・騎士・武闘士・魔術師として鍛えることで自衛もできるようになった。


やっとだ…

やっと、この状態にまでなった。


これでアルフさんの隣に立つまでのスタートラインに行けたはず。


後はアルフさんと同行して役に立つ…いや、邪魔にならないくらいの能力かどうかを見てもらうだけだ。


そのためにこうして、最終試験のような形で模擬戦をしてもらうことになった。


「こちらの世界に来てから約1年半。正直期待はしていなかった。だが、レトゥワル。お前は見事に補佐士になり、アルカナ持ちになった。それに俺の修業についてきたな。そこについては及第点をやろう」


「ありがとうございます」


「前の2人ほどの才能は無いが、それでも努力の継続時間と辛抱強さは勝っていると感じている」


「…」


「しかし。いくら能力や技術を身に付けても発揮できなければ使い物にならん。そこで、俺が試す。いいな?」


「はい、お願いします。アルフさんに認められなきゃ、ソル王に認められても意味ないですし」


「言うようになったな。俺よりもあの方の評価の方が信憑性高いぞ」


「俺は四六時中現場にいる方の評価を得たいので」


うふふと冗談混じりに笑うと、アルフさんも頬を緩める。

よく微笑むようになったなぁ。


「よし。では、最後の修業を始める。これで俺に傷を付けたら合格だ。かすり傷でも致命傷でも構わん。とにかく殺すつもりで来い。そうでないと近付けんぞ」


「分かりました。いきます」


俺はアルフさんとの立ち位置を確認して、腰に付けてある『鉄剣』を抜刀した。

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