第15話 2つの修業
次の日。
俺はアルフさんに言われ、魔術師として必要な知識を詰め込んでいた。
魔術師としての修業は、うん。いけそうだ。
グレイルさんの言ってたとおり、僧侶の修業中に魔術の基礎を学んだおかげで分かりやすい。
「よし。今日は4大元素の属性について、それなりに理解できた。それぞれ攻撃魔術と防御魔術があるのかぁ」
例えば、火なら火炎の魔術と相反する火炎防御の魔術があるそう。
基本的に攻撃と防御は対になってるから、固有属性の魔術に関してはどちらも取得しないといけない。
じゃないと、対応が難しい。
魔術というのは、数式であるから正解を出さないときっちり防御が出来ないんだ。
攻撃の正解式が12ダメージ与える、ならば防御を12にして最終的に0にしないといけない。
これが防御10とか少なくなると、足りないダメージ分を受けてしまう。
ただ、厄介なのが17みたいに防御の値を大きくしてしまった場合だ。
魔術式が正解から遠くなればなるほど魔力の消費が激しくなるから長期戦に不利になる。
だから、基本的にはプラマイ0にすることが魔術戦の基本である。
らしいんだけど、あくまでこれは基本魔術を規定通りに使った場合なんだよね。
魔力を規定よりも込めて威力を上げたり、魔道具を使用しての魔術なんかはこの公式に当てはまらないことがほとんどだ。
つまりまぁ、魔術の攻防にはこういう基礎公式がありますという知るためなんだよね。
アルフさんいわく、実際の魔術戦は攻撃される魔術ダメージが分からないからとりあえず避ける。
それで地面とかにあったダメージを目視で予測するか、自身の70%くらいの力で魔術をぶつけて大体のダメージ量を把握するらしい。
そういうことが出来るのは経験者だけだろうから、まず俺は基本を忠実にやろうと思う。
しばらく自習をして、一息ついてるとインターホンじゃなく変わりの鈴がチリンチリンと鳴らされる。
ドアの近くに付いていて、家の人を呼び出すときに使うんだ。
フィールは閑静な小さな町だから、けっこう分かりやすい音に聞こえる。
「なんだろ?」
俺の家、というよりアルフさんの家に来る人なんて今まで無かったけどなぁ。
これを聞くと交流を持ってないように聞こえるけど、まさにその通り。
アルフさんは町の人と関わりを持ってない。
日常生活で必要だとは思うから、今度掛け合ってみよう。
「あ、あなたは…レトゥワルさん?でしたっけ?」
「はい、レトゥワルと言います。すみません、ただいまうちのラパペスは外出しておりまして…夕方頃には戻ってきますけど、ご用件は何でしょうか?」
「ええと、あぁ…いらっしゃらないのですね。改めますので大丈夫です」
茶髪で素朴だけど綺麗な女性は少し落ち込んだように去って行った。
何だろう?アルフさんに用事って。
俺が唸ってまた自習をしようと椅子に座ると、ガチャリとドアが開く。
「今日は早く終わった。すまん、昼飯を用意してくれると助かる」
「あ、お帰りなさい。分かりました。用意しますね。あ、そうそう。今先ほどアルフさんに茶髪の女性が訪ねて来ましたよ」
「あぁ。あの人か」
「思い当たりでも?」
「無くは無い…が…」
「ん?何か歯切れ悪いですね。珍しい」
アルフさんはけっこう物事をハッキリしたり、言ったりするから微妙な表情で濁すのはレアだ。
「そうだな。結論から言うと、あの人から好意を持たれているらしい」
「えっ!?」
「俺も驚いている。こんな魔物殺し程度しか取り柄のない男に魅力を感じてくれているわけだからな」
「いえいえ、驚いたのはそっちではなく!アルフさんの魅力を分かる人がいたんだなぁっていう方です!」
「?」
分かってないのかこの人…
イケメンで細マッチョで国の精鋭部隊所属でクールイケメンだよ?
イケメン2回言うほど。
そりゃ誰かしら来るだろって。
今まで来なかったのがおかしかったんだよ。
「俺は嬉しいですよ…やっとアルフさんに春が来たって!」
「春か。うむ…ただ、今は色恋沙汰に構ってる暇は無いんだ。申し訳ないが、もし交際を申し込まれても断りを入れる」
「綺麗な女性でしたし、お似合いだと思うんですけどねぇ。まぁでも、アルフさんの言うとおりかもです。正直いつ魔物が攻めてくるかも分からない状態ですしね」
ソル国は魔物の拠点が少なくなっているらしいけど、それでもまだ残党はいるとのことだし。
それに、まだ知らない大陸の国からも来るかもしれないから油断なんて出来ない。
「あぁ。この無駄な戦いが終わるまで待っててくれると助かるのだが…経験上そうはいかんな」
「あれ?以前にもこんなことが?」
「そうだ。待っててくれと伝えたが、全員に振られてしまったな」
だろうよ…
魔物殲滅するまでお付き合いすらしないってなら待つ人なんていないよね。
遠回しに貴女とは付き合う気はありませんって言ってるようなものだし。
まぁ、アルフさんは事実しか言ってないから終わったら本当にお付き合いするつもりなんだろうけどさ。
「そうだったんですね…あ、長話すみません。お昼にしますね」
「ありがとな」
俺はここ1年近く専業主夫をしていたせいか、手際も良くなってきてる。
物入れからパンを出して、火石で暖める。
水石を削って中にある水をコップに入れて、風石でデスク周りの埃を吹き飛ばず。
土石で簡易的なお皿とフォークを作って、その中にトマトスープとナス、ブロッコリーを入れる。
因みにこの属性石はアルフさんが持ってきたもので、魔道具に似たようなものだ。
日常生活に使えそうな簡易魔術を起動出来るため、魔術師見習いの俺のトレーニングにもなっている。
魔道具だから固有属性以外使っても負担少ないのもありがたい。
「良い使い方だ。その調子で頑張ってくれ」
「はい、頑張ります」
俺とアルフさんはそのまま黙々と食事を終えると窓から入ってくる心地良い風を感じてくぼーっとする。
こんな感じにアルフさんとまったりするのは久々だなぁ。
「レトゥワル」
「はい?何ですか?」
「今日はこの後仕事が無い。修業するなら手伝ってやるぞ」
「えっ!良いんですか!」
「第3期アルカナイト部隊の事務仕事があってなかなか見てやれんからな」
そう言うと、アルフさんはこちらへ来いと外を指差す。
「異能の修業だ」
俺とアルフさんはフィールの町から少し離れた川辺にやってきた。
ここなら修業するにも他の人の邪魔にならないしね。
「以前、未来予測は限定的に発動出来ていると言ってたな。それを意識すればいつでも、というように鍛える」
「以前のアルフさんとの戦闘時みたいにってことですね」
そう、あの時のように集中すれば再現ができるはずだ。
「とりあえずやってみろ」
アルフさんはそう言うと、俺から少し離れて地面に座る。
ふぅ、と俺は息をつくと以前の感覚を呼び覚ますために集中し、目をつむる。
前のことを考えると、俺の異能は絶体絶命の時に出来るかもしれない。
でも、こういう平時の時に意識していつでも使えるようにしないと対処出来ないこともあるだろう。
それこそ、ハーフと会ったときなんかにね。
有用な異能は適切に使わなきゃ意味が無い。
集中し、全身の感覚が敏感になるように、意識を異能以外に向かないように。
すると、前みたいに綺麗な映像とまでいかないものの、俺の視界にノイズかかった映像が映し出される。
俺とその周りを監視カメラで俯瞰したような映像だ。
しかし、この映像と音声はいつまで続くのだろう。
前は焦っていたこともあって検証できなかったけど、今回は余裕がある。
その映像を注視するとアルフさんは今のまま座っているが、数秒後に俺に向かって突然革袋を投げつけてくる。
映像では、予備動作も無く投げられた革袋を受けて後ろに倒れる間抜けな少年が映し出されている。
大体7秒後くらいかな。
少し数えていたら、そのくらいだった。
俺がじっとその映像を見ていると、唐突に元のクリアな視界に戻る。
念のため時間を測ってみよう。
1、2…
7!ここか!
俺は映像通りにならないよう、7秒経った瞬間に横に反復横跳びよろしく移動する。
それと同時にアルフさんは俺に向かって革袋を投げつけていた。
「ほう。使えたのか。確実に気付かれないと思ったが」
「はい!何とか!」
良かった。
前の感覚を思い出して、集中に集中をして集中すれば出来ることが分かったからね。
上手く言えないけど、心は平穏に頭はクリアにして異能だけ考える。
体の感覚は敏感に。
これを何回も何回も繰り返せば、他の技能みたいに習得出来るはず。
「そうか。きっかけをつくれたなら何よりだ。それならば次は、俺との模擬戦でもやるか」
「…はい、お願いします」
俺は気を引き締めると、アルフさんと向き合って本格的に戦闘訓練を始めた。
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