第13話 固有属性

 俺が城からフィールに戻る道中で、5人の騎士さんと1人の綺麗な女性が楽しげに談話しているのを見かけた。


 なんだろ?

 お偉い女の人なのかな。


 俺は特に気にせず通り過ぎようとした時、その女性はチラッとこちらを見てニコッと微笑んでくれた。


 慌てて、会釈をして通り過ぎた。

 とても可愛い人だなぁ。童顔なのも良い。

 ショートカットの金髪にスタイルが良くて。

 通り過ぎただけだから、しっかりは見てないけど。


 こんなに騎士さんを連れてるってことは、やっぱ俺なんかが関わる人じゃないよね。


 モテる女性とはこういう人を指すんだろうな。


 俺は眼福眼福と心の中で呟き、家まで向かっていったのであった。

 因みに道中を1人で歩けるのは、修業のおかげだ。

 アルフさんからも低級な魔物くらい狩れるだろうとのことで許可されている。


 まぁ、この辺はそもそもいないから遭遇してないけどね。




 フィールに着いて、少し休憩を取るとルーティンワークの木刀素振りをする。

 というのも、様になったと思ってたところにアルフさんとの打ち合いでまだまだって分かったからね。


 驕る気持ちなんてあっちゃいけないと改めて実感したから、こうしてやっているわけだ。


 ちょうど17時くらいになったとき、フィールの出入り口付近でジョギングをしていたらアルフさんが帰ってきた。


「よくやっているな」


「はい。アルフさんと打ち合って、体力もまだまだって教わりましたから」


「そうか。ストイックなのは良いが、無理はするな。体を壊すほどやるのは訓練とは言わない」


「あ、そうですね。確かに疲れすぎたので、今日はこれくらいにしておきます」


「あぁ、飯にしよう」


 俺とアルフさんはフィールの町のすぐ近くに流れる川で水浴びすると家に戻った。



 次の日。


 アルフさんの言うとおり、そろそろ俺の固有属性が分かるとのことで城の内部にある研究所という一室に向かっていた。


「へぇ…謁見の間も凄かったですけど、城の内部ってこんな内装なんですね」


 あまりうろうろしないでいたから、じっくり見なかったんだよね。

 金とか銀の剣やら鎧、装飾品がたくさん飾ってある。


「あぁ、ソル国は鉱石が良く取れる。それを鍛冶屋が加工し、建築担当が作っているからな。建造物や武器などの品質はこの国の強みだろう。属性石や魔石の加工品である魔道具も基本的にソルでしか作られていない」


「なるほどです」


 アルフさんも雑談していると、研究所に着いた。

 見た目は他の部屋と変わらないが、デスクに測量器や書類がたくさん置いてあり、なんだか職員室みたいなイメージだった。


「よう、カケル。元気にしておったか」


「あっ!グレイルさん!お久しぶりです!」


 なんと、グレイルさんがこんなところにいたとは。

 やることあるって1年前に消えてからここで仕事してたのかぁ。


「おうよ。どうだ?そこの無口男と上手くやってるか?」


「はい。良くしてくれてます」


「うむうむ。それならば良いのじゃ。それで今日はどんな用なんじゃ?」


 グレイルさんはアルフさんを見る。


「あぁ。無謀爺、こいつの…いや、レトゥワルの固有属性を見てやってくれ」


「ふむ、属性か。分かった。しかし、既にアルカナイトになっているとはなぁ。前の2人より遅いとはいえ、よくやってるのう」


「あぁ。レトゥワルは3つの役職技術を認められたこともある。前の2人は1つに特化してたからな。時間に差異は出るだろう」


「良きことじゃ。ワシの求めた補佐士になれてるようで嬉しいぞい。これでアルフのお目付役が決まった」


「俺は飼い犬か」


「一匹狼だからのう。仕方ないじゃろ」


 2人がどちらとも軽い感じで話してるのを見て、なんだか置いてけぼりだ。


 あ、でも寂しいとかは無いかな。


「よし、早速始めるか。カケル、これを付けておくれ」


「これは?」


 何だろう。

 ヘッドマッサージャーのような機械だ。


「属性探査機じゃ。本来、鉱山の中にある属性石を見つけるために作られた物。ただ、これを人体に近付けても属性の片鱗が分かるとのことで、人用に再設計されたんじゃ」


「なるほど」


 俺は属性探査機を頭に付けて、椅子に座る。


「よし…お、分かったぞい」


「はやっ!」


 いつぞやの感想が出るほど、速い診断だった。


「カケルの固有属性は『風』じゃ。こちらの世界に来てから1番影響を受けた物が宿ったのだろうな」


 風か。

 確かにフィールの町では心地良い風が吹いてたし、初めに目覚めたときも風を感じてた。


 修業中の息抜きに風を浴びに行ってたし、考えてみれば1番身近だったかも。


 最近でいえば、アルフさんが使ってた吸魔の剣みたいな魔術か。

 結界維持中に一瞬とはいえ、風の魔術を受けたからってのもあるのかな。


「これで魔術師としても修業できるのう。完璧な補佐士になるには、やはり自衛も必要じゃ。そんな時にアルフと肩を並べるには、攻撃魔術や補助魔術も使えねばな。此奴の本業は魔術師というのもあるが」


「そうですね…俺がアルフさんの補佐なら、やはり必要だと思ってました。既にアルフさんには指導いただけるようにお願いしてます」


「おう、そうかそうか。それならばまた頑張ると良い。なに、攻撃魔術とはいえ、カケルのベースには僧侶の魔術があるからな。心配しなくても良いぞ」


「アドバイスありがとうございます!」


 俺はグレイルさんに頭を下げて、お礼を言う。


「よし、用が済んだのなら退出願う。この後、アルカナイト候補の書類選別作業がそれなりにあるからのう。ワシも忙しいのじゃ」


「はい、ありがとうございました!久々に会えて良かったです!」


「おうよ。また落ち着いたら来ると良い。その時にはワシもゆっくりできるはずじゃ」


 グレイルさんはニコッと笑うと、ひらひらと手を振った。




 研究所を出ると、アルフさんと城下町まで出向いていた。


「レトゥワルは風の適正か。風は汎用性に長ける。補佐士としては1番良いかもな」


「へぇ、そうなんですか!」


「あぁ、風を制御できるなら相手の攻撃を気流で逸らしたり、自身に纏わせて空中移動かつ三次元的行動が可能だ。それに伴い空からの偵察も出来るだろう。霧を払えるのも重要だな」


 なるほど。

 戦闘と道中どちらでも扱いやすい属性ってことか。

 それなら確かに良さそうだね。


「よし、明日から魔術師としての修業を始める。今日は休みだ」


「分かりました」


 アルフさんは頷くと、チラッと路地裏に目を向けた。


「噂をすれば何とやらか。レトゥワル。少しここで待っていろ」


「え、どうしたんですか?」


同僚くされえんに呼ばれたからな。無視すると面倒なことになる」


「あ、分かりました」


 俺はアルフさんが路地裏に消えていくのを見送った。


 呼ばれたってどうやってだろう。

 魔道具か何かかな?




 俺は自身の持っているアルカナカードにここで集合との合図が来たため、路地裏へ入る。


 アルカナカードはアルカナイトとしての資格等とは別に、アルカナイト同士での簡易的な通信機器としても使える。


 来い、行け、指定座標位置に集合などの端的な合図程度だが。


 俺は警戒しつつ、短めの金髪をしている童顔な女を見る。


「何だ化け猫しりがる。もう第2期アルカナイト部隊は活動してないぞ」


「うふふ、久しぶりね。潔癖狼どうてい。活動自体どうでも良いのよ。私はあんたに用があって呼んだの」


「俺は無い。仕事じゃ無いなら帰るぞ」


「相変わらずつれないわね」


 周りにいた5人の男連中は、服装を整え、去って行く。

 この女ははだけたままだが。


 俺が来るまでお楽しみしていたのはバレバレだが、隠す気も無いのだろう。


「まぁ良いわぁ。そのつもりにするだけだから」


 その瞬間、化け猫は俺に向かって突っ込んできた。

 5メートルほど離れた距離を一瞬で。



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