第12話 レトゥワル

 俺は、ソル王に今回の試験結果を報告すべく、例の地図と薬草・毒草を渡していた。


「ふむ…地図に関しては魔道具無しでもこの出来なら悪くはないな。独学による努力、ラパペスによる指導のおかげと見た。こちらについては及第点としよう。今後とも地図士として励むように」


「はい。ありがとうございます」


 俺は粛々と頭を下げる。

 さて、まずは第一関門突破か。


「薬草に関してだが。ふむ、治癒効果がある物以外に、毒草も集めるのは良い視点だ。要求したのは効果が高い、多種類だったからな。それに食用を兼ねている物もある。こちらは合格だ。薬士として、いかなる物でも有用に使うのは大切だからな」


「恐縮です」


 ふぅ。

 薬士としての観察眼と見極める知識を問われてたってことだね。

 第二関門突破だ。


「僧侶についてだが。カケルの相手をした騎士によると、強固な上にまだ伸びしろがあるとのことだ。僧侶担当のあやつはいつも『ズル』をしている節があるのだが、それすらも突破出来たのなら上出来だ。治癒魔術に関しては言うまでもないだろう。そもそも、ラパペスが初めに習得させるはずだからな」


 ん?アルフさん読まれてますよ。


「えぇ、結界と治癒の魔術は重点的に」


「なら良い。ラパペスと同行するのに必要な術を持っているならば細かいところは言わんよ」


 ソル王は少し微笑むと俺に再度目を向けた。


「さて、カケルよ。総合的に判断して、今回の試験結果だが」


「はい」


「合格だ。おめでとう。君もこの瞬間からアルカナイトとしての活動を許可される。その印として」


 ソル王から何やら豪華な小箱を渡される。

 なんだろう。


「これはラパペスも城門前で見せていただろう。アルカナカードだ。これがアルカナイトとしての証、国で若干の待遇措置を受けられる物になっている。因みに魔道具だから複製はできん。一点物だから無くさないようにな」


 やった!

 これでやっとアルフさんと肩を並べられる位置に近付いた…!


 あ、でも。

 このマークは…星?


「正直、カケルに託すアルカナは迷っていた。いかんせん、国に従属していた騎士ではないのでな。公的記録として、君がどのような人格かを確認できず…そこで、ラパペスから聞いていた直感力に注目し、渡す。これは『星』のアルカナ。レトゥワルと呼ぶ」


 レトゥワル。

 星とはまた綺麗なものをいただけた。

 そんなキラキラしてる人間じゃないけど、それとはまた別の意味なんだろうね。


「これよりカケルのファミリーネームにこちらを適用…したいのだが、どうする?君は転生者だからこそ、家族はいない。無理に隠す必要はないぞ?あくまでアルカナの名をファミリーネームに置き換えるのは家族を守るためだからな」


「そうですね…でも、せっかくいただけたわけなので、使います」


「ふむ、そうか。ならば、転生者の名の順はこちらと異なるのだ。自由にするが良い」


 日本人だと、苗字が先に来るからね。

 やはり、王様。配慮が素晴らしいです。


 でも、どうもしっくり来ないよなぁ。

 レトゥワル・カケル

 カケル・レトゥワル。

 んー…逆にしてもどうも…


 あっ、それならいっそこっちの世界に適用したようにしよう。


 少し寂しいけど、新たな自分として。


「それならば、今後はレトゥワルとだけ名乗るようにします」


「ほう。アルカナ名だけとな。自分の本当の名は良いのか?」


「はい。俺自身、こちらの世界には知り合いなんていないですし。それこそアルフさんとグレイルさん、ソル様が本名を知ってくれているだけで十分です」


「ふむ。なかなか分からぬ考えだが、分かった。今後はそのようにしよう。『レトゥワル』」


「はい、ありがとうございます」


 よし、これで試験も突破したし、資格みたいなカードをもらえた。

 一件落着というか、案外あっけなく合格したけど良いのかな。


 俺は、ソル王に挨拶すると謁見の間から退出するよう促される。


 何でも、ソル王とアルフさんで話があるとか。

 先に帰ってて良いとのことだったから、そのまま帰宅した。



 さて、当事者も帰った。

 少しお礼を言っておかねばな。


「ソル様。今回の件、ありがとうございます。人手不足な時かつ過去の戦果を持ち出してしまい…」


「よいよい。ラパペスもレトゥワルが戦力になると思い、推薦したのだろう。それに其方の戦力と観察眼を疑う理由は無い。現に結果を出している者のある程度の要望は応えたいからな」


「勿体ないお言葉をありがとうございます」


「ラパペスの希望通り、試験内容を軽くし、甘い採点にした…つもりであったが、入らぬ心配であったかもしれん」


「それはどのような意味で」


「単純にレトゥワルが3つの役職技術を使える状態だからだ。非戦闘員に関しては現場で学ぶことも多いからな。この点に関しては採点を甘くしないでも合格にはできる範囲だ。それに、深い意味ではないがな?ラパペスが最後に『アレ』で開花させようとしたらしいと噂を聞いてな。対応し、開花したなら期待もできよう」


 どこから漏れたのか知らんが、ふむ。

 まぁ、あの騎士しかいないか。


「ご配慮いただき、大変感謝しております」


「よいよい。これをキッカケにまた昔のようにアルカナイト部隊を再編成、引っ張ってくれると助かるのだが。もう第2期アルカナイトはラパペスと問題児ラムールしかいないからな。来週にも第3期アルカナイト候補を募集するつもりだ」


「あいつはそろそろクビにした方が」


「いかんせん騎士達のモチベーション向上になっていてな…悲しいことに…」


 そうか。あの女の毒牙にかかった者がさらに増えたか。


「ともあれ、あやつも線引きはしているはずだ。何かあればその時はそれ相応の対応をする。男食いも程々にして欲しいが」


「えぇ」


 俺は、アルカナイト第1期時代の同期の女を思い出しそうになり、記憶の蓋を閉じた。


 ソル様に再び感謝の意を伝えると、カケルもといレトゥワルの待つ家へ帰宅した。





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