第7話 未熟な補佐士
1週間後。
魔術。確かに聞いたことある。
ファンタジーのイメージは本をパラパラめくって、名称を口に出すと杖とか手から炎が出たりする。
実際、魔術そのものはイメージ通りだった。
ただ、魔術式というのがこれまた面倒くさい。
数学のなんだか分からない式を見てるような錯覚になる。
いやだって、魔道書開いた瞬間数式のようなのが羅列してるし。
とにかく数学の問題のようなものを正解になるまでひたすら解く。
1+1は2。2×2は4。
ここまで楽だ。というのも、単に魔力という力を練る段階だから。
これをするだけで3日かかった。
目に見えない力というだけでこんなにも制御し辛いとは思わなかった。
手で物を掴んで、それを投げる…のを実体無しの状態でやるみたいな。
そこに無いはずの物をあるかのように自己暗示して具現化させる。
これが魔術の基本らしい。
単に自己暗示するだけじゃ駄目だ。
魔力をこめなければ具現化にならないで、ただの妄想になる。
感覚的なもので、体内の血の流れを自覚して呼吸するみたいに自然に右手に見えない力を集結させる。
これが魔力を練るということだ。
この練った魔力を覚えた数式に流し込んだ上で、最速で数式を解く。
でないと、どんどん魔術の精度が落ちてテストの時間切れのように終了とばかりに魔力が四散する。
何とか答えを出せたら、答え合わせだ。
ここで求められた答えを出せれば、見事魔術が発動する。
先人が編み出した魔術だから、同じ答えを出せば、同じ物が発生するとのこと。
まぁ、個人差…つまり、魔力の強さで効能が違うらしいけど。
このような魔術をひたすら訓練した。
数学は苦手な方だけど、ソル語の数字は理解すればほとんど元の世界と同じ原理だから、飲み込みはしやすい。
何度も何度も同じ数式を解くうちに、慣れてきたおかげでほぼノータイムで魔術起動ができるようになった。
「ふー…アルフさん。これでどうでしょう」
俺はそう言うと、何かの本を読んでいたアルフの隣で回復魔術を起動させる。
「治癒の魔術か。この効力なら切り傷を5分かけて治せる」
「うっ…ですよね…」
俺は1週間かけて習得した治癒の魔術がその程度の力しか無いと知って落ち込む。
いやだって、もっとドカンと回復すると思ってたから。
「上出来だ。やはり転生者は伸びやすいな。これをまた繰り返して極めろ。切り傷を即時治せるようになったら、次の段階だ」
アルフさんはそう言うと、またもや家から出て、いつもの道へ歩いて行った。
「よし、やるか」
俺は1人になった家でそう呟いた。
3ヶ月後。
俺はこの期間で僧侶として必要な知識と魔術を叩き込んで、またもや修業に勤しんでいた。
前にアルフさんに言われた切り傷を即時治せるようになったのはもちろんのこと、骨折程度の怪我ならば即時治せるようになった。
その他にも、『結界』の魔術を習得している。
これは分かりやすく言うなら、シールドみたいな魔術だ。
光の障壁で物理・魔術を弾くため、是非習得したいと思っていた。
他にも習得はしたけど、特にこの2つが大切だと言われてから重点的に繰り返しの訓練を行った。
加えて、地図士と薬士の技術も身に付けた。
こちらは戦闘技術ではなく、知識とフィールドワークが重要であるため、アルフさんと森や少し離れた湖まで歩いて覚えた。
高校の地理や生物学は好きな方だから、わりとスッと吸収できたし、何せ見たこと無い景色や野草を手元の書物と照らし合わせてクイズ形式で覚えるのは楽しかった。
そんなこんなである程度フィールの町の周辺を動けるようになった時、アルフさんから城へ同行するように言われた。
「ここ約1年でそれなりになったな」
「はい。アルフさんの指導のおかげです」
前と同じような言葉を投げかけてみる。
「そうか。個人的についてこられないと思っていたが、折れなかったか」
「はい。大変でしたけど、アルフさんが根気強く教えてくれたので」
「そうか」
俺がニコニコとしていると、アルフさんはほんの少しだけ口を緩ませた。
今まで無表情だったのに、多少なりとも打ち解けてくれたんだ。
とても嬉しい。
「1つ1つの役職に必要なことは教えたつもりだが、魔術師に関してはあえて教えてない。僧侶の魔術と異なり、魔術師の魔術には固有属性がある。お前の固有属性が判明しない限りは教えるにも教えられないからな」
「固有属性ですか?」
「あぁ」
アルフはこの世界に固有属性という、人それぞれに宿るものについて教えてくれた。
何でも4大元素それぞれらしく、火・水・風・土とのこと。
固有属性以外の魔術は使えるには使えるが、体に負担が大きく、魔力を大幅に減らしてしまうことから割に合わないらしい。
「あくまでお前は補佐士だ。魔術師として戦うのではなく、補佐士として戦って欲しいというのもあるがな。出来て損はないが」
「なら、判明次第覚えたいです」
「そうか」
アルフさんの補佐ならば、魔術師としても肩を並べるくらいになりたい。
それに背中を預けられる程になるには、格闘戦以外にも出来た方が良いと思って言ってみたけど。
とりあえず、頑張ろう。
俺は魔術師として修業するための決意を新たに、城へ向かうのであった。
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