第4話 修業的お手伝い

 1ヶ月ほど経って、日常会話を少しだけ出来るようになった俺はアルフさんと会話練習をしていた。


「『えっと、こんにちは、です。きーも、良い天気、ですよ』」


「『外を見れば分かる』」


「『そ、んな風に、言わなくてもええじゃないです、か』」


「『まぁ、癖はあるが聞き取りは出来るな』」


 何とか、意思表示まで出来るようになった…


「流石に詰め込みなんですから容赦してくださいよ」


「そうはいかん。書き言葉も満足に出来ていないのだから文句言うな」


 すぐに日本語に戻した俺をアルフさんはチラッと見るとため息を1つ。


「ズブの素人を育てる気にもなってくれ。俺自身も仕事の時間を割いてるのだからな」


「あ、すみません」


 そうだよな。時折いなくなるアルフさんも生活がある。

 甘えてばかりもいられない。

 夢とはいえ、人様の世話になってるわけだし、頑張ろう。


「そうだな…あまりにも座学だけだとつまらないだろう。荷物持ちでついてこい」


「えっ?」


 ここ一ヶ月まともに家から出ないで、玄関?近くのしかも近くの畑すら駄目と言われてたのに急になんだろう。


 まぁ、ずっと分からない言語を勉強してると頭が変になりそうだからありがたい。


「荷物持ち…やります!!」


「そうか。なら頼む」


 そう言うと、アルフさんは俺に両手で持てる程度の革袋を渡した。


 何を入れるんだろう。


「魔物の皮を取りに行く」





 しばらくフィールの町から歩いて行くと前方に深い森が見えてきた。


 うわー。とても怖そう。


「ここから先は魔物が良く出る」


「そうなんですね…何か心なしか見られてる気がします…」


「かもな」


 アルフに続いて森に足を踏み入れると、北西方向でガサガサと音がした。


「はやっ!」


「待ち伏せだろうな」


 アルフさんはそう呟くと、次の瞬間音が鳴った場所に移動して回し蹴りを放っていた。


「はやっ!」


 2回目のはやっ!はアルフの人外並みのスピードについてだ。


 目で追えないレベルの。


 アルフが放った蹴りは何かに当たったのか、グシャリという肉を引きちぎるような音と一緒に木に激突した音が鳴った。


「猪型の魔物だ」


 俺の言葉に対して、アルフは淡々と告げる。


「脅威じゃ無い」


「えっと、アルフさん。今の動きは…?」


「武闘士の動きで仕留めた」


 いやいや、そうじゃなく。


「何でそんなに早く動けるんですか?」


「身体強化の魔術を使っただけだ。使わないと流石に一蹴りでは殺せないからな。あいつらは無駄に体力がある。それに武器を使うほどではないのもある」


 凄い常識みたいに言ってる。

 俺は今の光景で完全にこの人は敵に回したらヤバいと悟った。



 しばらくアルフさんの達人なみの動きを見ながらバッタバッタと殺戮される猪型の魔物を見て、俺はそいつらの毛皮を革袋に入れて必死について行っていた。


「ぐーー…重いですね、これ…」


「…」


「何キロあるんだよ…」


「…」


 そう、アルフさんは基本話さないのだ。

 無駄なことをしない主義なのか、必要なこと以外話したくないのか分からないけど、基本無言である。


「アルフさん、あとどれくらいやりますか?」


「そうだな。2匹にしよう。流石にそれ以上は持てんだろう」


「はい…正直今も無理です…」


「話せるなら大丈夫だろう」


 堪忍して欲しいです。

 なかなかに匂いもキツいし、とにかく汗かいてしまって、疲れてもうなんだか訓練なんじゃないかと疑うレベル。

 両腕が痙攣し始めてるよ。


「あ、これって訓練も兼ねてますか?」


「あぁ。まずは筋力をつけてもらう。補佐士とはいえ、最低限の自衛をしてもらわないと困る。それに素手である程度戦えると何かと便利だ」


 なるほど。

 アルフさんの狩りを見ても分かるとおり、最短の動きで最高効率の結果を出してるし。


 それが筋力によるものならば納得だ。

 身体強化の魔術というのも、元の力を伸ばすだろうしね。


「そういうことなら…頑張ります」


「あぁ。頼む」


 短く返事をすると、アルフさんは続けて一歩で猪魔獣に近付くと、同じように一蹴りで絶命させた。


 すごいなぁ。

 本当に。


 その後は、アルフさんに言われるがまま重たい革袋を持ってフィールまで戻った。


 恐らく俺が持てるギリギリの重量だ。

 15キロは無いと思うけど、それにしても森の不安定な足場だし、きつかった。


 途中何度も転びかけていたけど、アルフさんはこちらを振り返らなかった。

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