3.電車内の事件
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1985年2月20日
あれから
・食事は何でも食べるけど、箸の使い方はあまりうまくない。
・漢字の読み書きは苦手。「富田直利」という名前を書けるように練習してる。
・TVで昔のドラマやアニメの再放送があるとずっと見入ってる。
でも、直利さんの身元の手がかりは全くなし。本当に、どこの誰なんだろう……。
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あれから数日が過ぎた。警察からの連絡もなく、直利は
今日は『リッチ』の定休日なので、定子は直利の着替えを買いに出かけようと約束していた。やちよは塾のため、二人で出かけることとなった。
「直利さんがどこから来たか分からないけど、電車に乗ったら何か思い出すかもしれないし、気分転換にもなると思うの」
定子はすっかりデート気分で盛り上がっている。
「このお金は直利さんのアルバイト代だよ。定子に渡しとくからなくさないように」
直利は一礼する。
「ありがとうございます」
定子はお金の入った封筒を自分のバッグに入れた。
デパートのある
「お前、こいつの
直利は戸惑ったような、恥ずかしいような顔をしたが、すぐに元の冷静さを取り戻した。
「とにかく、この
「ちょっと黙ってな」
スリの男は直利を押さえつけようとしたが、直利は男の腕を掴んで軽くねじり上げた。その時、定子が叫んだ。
「危ない!」
直利の背後から男が体当たりしてきた。スリは二人組だったのだ。間一髪でよけた直利だったが、運の悪いことに電車はカーブにさしかかっていた。バランスを失った直利は、そのままドアの横の手すりに頭をぶつけてしまい、定子にもたれかかった。定子が必死に直利を支えようとしているうちに電車は駅に到着し、男たちは慌てて降りていった。
「大丈夫? 怪我してません?」
直利は前髪をかき分けた。額が少し赤みを帯びている。
「たぶん、大丈夫」
「次が降りる駅だから、降りたら少し休みましょう」
定子の言葉通り、車内放送が流れてきた。
『次は、新流川。新流川でございます』
駅のベンチに二人は座っていた。定子がハンカチを水で濡らして差し出す。
「これで冷やしてください」
「ありがとうございます」
ハンカチを額に当てた直利はそのまま30秒ほど固まった。定子は慌てて呼びかけるが反応しない。
「直利さん、やっぱり、病院に行った方が」
その時、我に返った直利が話しかけた。
「今、子どもの僕が川の水面に映っているのが見えました」
「それって、記憶が戻ったって事?」
「いえ、それ以外は何も分かりません。早く買い物をして帰りましょう」
直利は立ち上がった。
着替えを買い、帰宅した直利は早々に布団に入ったが、眠ることができなかった。昼間の打撲のせいか、頭にかかっていたもやのようなものが次第に薄れていくような気がしていた。そのもやが消えたとき、何か恐ろしいものが見えるような気がする。だがあと一押しが足りない。そんな気がしてならなかった。
直利は枕元のエプロンのポケットをまさぐり、緑色の石を取り出すと額に当てた。その瞬間、緑色の光が直利の額から発せられ、口から言葉が流れ出た。
「
そのまま直利は布団に倒れ込んだ。
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