第26話 逆十字の騎士団編 鋼鉄のサベージ

 エナとの会食を済ませた公孝は自宅に戻った。

 が、すぐには部屋に入らず、一度入りかけたドアから手をゆっくりと離し、懐から手りゅう弾を取り出して、居間の中央に向かってわずかにドアを開けて転がした。

 轟――という爆音が夜のロンドンに響き渡る。

 公孝は拳銃を取り出して、中を伺う。

「かなりの手練れだな。ミスター。俺は逆十字騎士団副長、サベージ・ザナルカンド。人呼んで鋼鉄のサベージ」

 爆風を身に浴びながら、男の衣服に一切の乱れがないことを確認した公孝は拳銃を二発、眉間に向けて撃った。

 が、男は微動だにせずに、鈍い、ゴン、ゴン、という音を立てて銃弾は男の眉間を打ち抜けず、床に転がった。

「なるほど。さすがは『表向き良い子ちゃんクラブ』の刺客。今度は防御に振り切った奴を送ってきたか」

「良い子ちゃんクラブではない。フェイゲンバウム教は絶対に正しいのだ。死人の復活などありえん! ペテロ・フェイゲンバウム様こそ真のメシアなのだ!」

「そのわりには、いともあっさりと、マグダラのマリアに刺されて死んだではないか?」

 公孝は知らないことだが、この『マグダラのマリア』の正体こそが、サタンの娘リュミエールだった。

「絶対の正義である。まあよいわ。この鋼鉄のサベージの術に耐えられるかな? Zeit zum Zurückspulen, jenseits der Ewigkeit.」

 そうサベージは唱えると素早く公孝の手を取った。

 途端に公孝は強力な重力を感じ、周囲の光景も闇に溶けた。

「まさか! 時間遡航か!?」

「そのとおり。これでわれわれ逆十字騎士団の勝ちだ! わっはっは!」

 高笑いするサベージから腕を振りほどこうともがく公孝。

 しかしサベージの膂力はものすごく、振りほどけない。

 しばらくすると、今度は白い光に包まれ、周囲の景色が見えだした。

 あたりはなにもない荒野であり、砂漠と岩以外にはなにもなかった。

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