第25話 逆十字の騎士団編 鋼鉄のサベージ 1

 1995年、イギリス。

 ウィーンの音大を出たエナ・ファラグリフォンは帰国し、ロイヤルアカデミー所属の女性聖歌歌手になった。

 今日は久しぶりのオフを、エナと公孝は満喫していた。

 と言っても二人とも大概の観光地には行ったのだ。従ってオフだからどこかに行こうということもなく、公孝は適当なパブを選んで二人で飲んでいた。


「エナ、ロイヤルアカデミー入団、おめでとう」


 そう言うと同時に、公孝はプレゼントの袋をエナに渡した。


「ありがとう公孝。開けていい?」


「もちろんだ」


 エナは受け取ったプレゼントの袋を開けた。

 それはエナガ好きなラスティ―キャットのネコのぬいぐるみだった。

 エナはそのプレゼントのチョイスに落胆した。


「まったく。公孝ってホント、女心がわからないのね?」


「どういう意味だ? ラスティ―キャット、好きだろ? 中学の時に一緒に東京ラスティーランドに行って、その縫いぐるみ、欲しがってたじゃないか?」


「いつの話をしてるのよ。公孝? わたしがラスティ―キャット好きだってことは、大概の欲しいラスティ―キャラのグッズは持ってるってことよ。どうせならマグカップをペアで買うとか……考えなかった?」


「そういうことか。でもなぜマグカップ?」


「毎日使えるからでしょ? まあいいわ。これはもらっとく。ありがとう、公孝」


 そう言うとエナはラスティ―キャットの縫いぐるみを袋に戻した。


「でね? 呼び出したのは用事があるから。あなたとの仕事を考えてるの」


「俺と仕事? ツアーか?」


「レコーディング。ファーストアルバムの話が上がってるんだけど、そこのプロデューサーがあなたを知ってて、でね? 一曲、讃美歌を書いてくれない?」


「ロックならすぐにでも書けるが、俺は讃美歌の作曲もコード理論もわからん」


「難しく考えないで? 理論よりハートよ。だからあなたゆいくんとは喧嘩ばかりで……」


「唯は理論知らないからな。いまさらアイツの肩持つのか? あいつのコード進行はむちゃくちゃだぞ? 鼻歌で吹き込んでくるからな唯は。なんのためにギターがあるんだよ」


「でもゆいくんの曲で盛り上がる時だってあるでしょ? だから、今回はギターも理論もさておいて、神への賛美、人間賛歌。締め切りは任せるわ。たのんだわよ。『超音速の貴公子』さん」


 エナはいたずらな笑みを浮かべて、ビールを一口飲みこんだ。

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