第24話 逆十字の騎士団編 旋風のベアトリクス 3

 その日のライブは大盛況に終わった。

 観客は新たなギター・ヒーロー神衣公孝に熱狂し、叫び、歌った。

 そしてその夜、ライブ終了から一時間後。

 手荷物をまとめ、コンサートホールを後にする公孝、モルドレット両名に声をかけるシスターが居た。


「わたしはベアトリクス・ド・ブルボン。人呼んで『旋風のベアトリクス』。ローマ公国第13騎士団、逆十字騎士団所属。わたしは神衣公孝にだけ用事がある。イギリスとの交戦は認められていないの。モルドレット・ファラグリフォン。そこらで傍観してくださると、よいのだけど」


「だ、そうだ。モルドレット。モテる男は辛いぜ?」


「勝手にやってく。俺はホテルに先に戻る」


 そう言うと、モルドレットは呼んでいたタクシーに乗ってそこを去った。

 その去り際、激しい落雷が背後で聞こえる。


「始まったか……。ここで止めてくれ、運転手」

「はい。天気予報じゃ雨が降るなんて言ってなかったんですがね?」


 魔導士ではないタクシーの運転手に見えるのは、ベアトリクスの繰り出す雷撃に伴う雨と、落雷だけだ。

 公孝はギターケースからエレキギターを取り出して、そのトラスロッドの先端をベアトリクスに向けてワンフレーズ弾いた。

 するとエレキギターのネックに仕込まれている魔弾掃射装置が起動し、ベアトリクスに向けて魔弾が掃射される。

 周囲を魔弾に包囲されたベアトリクスだが、奥歯を噛むような仕草を見せるとその速度は倍加し、なんなく公孝の魔弾掃射を躱した。


「なるほど。旋風のベアトリクスと名乗っておいて実は風系ではなく時間操作系、つまりは地系統の魔術師か。対リュミエール戦の演習と行くか!」


 公孝は左腕を無造作に横に出し、一言唱える。


「来たれ! 我が断罪の牙!」


 すると虚空に穴が開き、その穴に公孝が左腕を突っ込むと、まばゆい閃光とともに公孝の剣、『ブラッディ―・レイン』の黒光りする刀身が現れた。

 ブラッディー・レインの刀身には絶えず鍔のところから水がしたたり落ちている。


「仕掛けても構わないのかい? レイディー」


「どうぞ」


「それじゃあ、おさらばこれにて解散! 破天落竜雷牙!」


 公孝は十メートルほど跳躍し、その跳躍の頂点で高く剣を掲げる。

 すると同時に大きな雷鳴と共にそのサーベルに巨大な落雷が落ちる。

 ベアトリクスは攻撃の起点とみて自己時間を加速させる。

 分身したようにも見えるベアトリクスのトリッキーな動きの先を読んで、公孝は重力操作でベアトリクス本人を重力の拠点と世界の法を書き換える。

 ベアトリクスの動きが鈍り、彼女は舌打ちした。

 そこに襲い来る、上空からの斬撃。

 落竜雷我の速度は軽くマッハを超える。

 周囲の建物のガラスがソニックブームで割れ、ベアトリクスの利き腕である右手を、一瞬の斬撃で公孝は切り落とした。

 その場に膝をつくベアトリクス。


「殺せ! カムイ!」


 ベアトリクスは敗北を認めてそう叫ぶ。


「女を殺すのは後味が悪い。し、ベリンガーには一つ借りがある。さっさと帰ってヨハネ教公にこう言っておけ。『ローマ本国の誰にも、ルシファー・ダインを討ち取れるものなし』と」


「覚えておくぞ! この屈辱!」


 ベアトリクスは落ちている自分の右腕を拾うと、閃光と共に消えた。


「流石は旋風のベアトリクス。逃げ足も速い」


 公孝はそういうと、また現れた空間の穴にブラッディ―・レインをしまい込み、モルドレットの乗るタクシーへと向かった。

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