第22話 逆十字の騎士団編 旋風のベアトリクス 1

 1993年、6月。公孝とモルドレットのバンドは世界ツアーに出ていた。

 スウェーデンを皮切りに、イギリス、ドイツ、アメリカ、日本、そして、ローマ公国。


「絶対、正気じゃないぜ、キミタカ。なんでわざわざローマ公国に? 喧嘩売るってレベルじゃねーよ!」


 ヴォーカルのモルドレットは公孝の正気を疑った。


「正気でデビルバスターができるかよ。向こうが切り札、『穢れた十字架』を出せば、こちらは切り札として『断罪の天意宝冠』が精神汚染最小限で使えるのがわかった。つまり連中は、正々堂々と真っ向勝負で俺と魔術戦をしなければならんわけだ。そんなことよりこいつを見てくれ」


 公孝はまだ真新しいギターケースから、エレキギターを取り出した。


「またギター買ったのか?」


「いや、こいつは魔術兵装だ。マジックロッドの一種だよ。ネックもボディーも、魔術洗礼とちょっとしたギミックを搭載してある」


「普通のストラトにしか見えんがな」


「これ、いくらしたと思う?」


「マジックロッドの相場から言って、3千万くらいか?」


「惜しいな、1億4500万だよ。元のエレキギター、ストラトが58年のストラトキャスターで、1000万。それをベースにマジックロッドにして、4500万。ロンドン時計塔の魔術工作アカデミーに一年放り込んで、魔術兵装にして1億4500万。オマエの親父がこいつの監修。実際の製作は世界的錬金術師、アビゲイル・カミュが作った。こいつはすげーぞ? ギターとしても、マジックアイテムとしても。だからさ。試運転というか、実戦でテストしたいだろ?」


「えらく金をかけたな」


「魔導士とギタリスト、両方に耐えうる道具として作ったからな? こいつはオマエの親父の杖にヒントを得てる」


「ああ、例のライフルか……」


 魔導士はとにかく金がかかる。魔術の触媒、魔術の行使に必要なマジックアイテム、公孝が来ている黒のスーツの上下はおろか、下着にいたるまで魔術兵装なのだ。推定3億を公孝はファラグリフォンに借りて、魔導士としての一張羅をこしらえている。


 道具が良くなったおかげで、公孝の現、最大魔力は1億3000万から1億7千万にはねあがり、ローマ公国のミヒャエル・ベリンガーの1億5千万を抜いて第四位のS級魔導士になった。

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