第21話 逆十字の騎士団編 業火のアベッリ 3

 レストランの外で、アベッリは待ち受けていた。

 高さ三階のビルの屋上から、アベッリは公孝を見下ろす。


「なんなのだ? 貴様の母親は?」


「ただの飲んだくれだよ」


「茶化すな! 計画が狂った。だが、結果は――変わらん! そのビルごと焼き尽くしてやる! Brucia i peccati, fuoco infernale!」


 レストランの入ったビルごと飲み込むように、巨大な炎の柱が立ち、アベッリは高笑いする。


 しかし、公孝もまた、アベッリが立っているビルごと巻き込んで呪文を唱える。


「Manifestationen av frysning helvetet, ta fiender permanent」


 地面が徐々に凍り付き、アベッリの真下から氷の茨のつるが彼を唱えて、首だけを残して彼は身動きが取れなくなった。


「なん……だと!? 今の貴様は1300万オルゴンしか出せないはず! どうしてわたしが凍る?」


 公孝はたしかに魔術行使に必要な魔導書と杖を持っていない。

 だが、今の彼には悪魔の力の権威を示す、『断罪の原罪宝冠』がある。

 これが彼の頭上で輝く限り、彼は悪魔そのものとして地上に君臨できる。

 ゆっくり回転する公孝の頭上の原罪宝冠を見て、アベッリは敗北を悟った。


「わたしは敗れる。お前に! だが、ただでは死なん! 顕現せよ! わが原罪の十字架!」


 アベッリの背後に黒い十字架が立ち、アベッリは徐々に肉体が膨れ上がり、醜い悪魔そのものとなっていく。


 天使の体、フクロウの頭。その悪魔は黒いケルベロスに乗っていた。


「アンドラスか」


「「ファファ! 一目でわたしの正体を見抜くとは。だが、これならどうか?」」


 アンドラスのエコーのかかった声が響き、彼はわずかに手を挙げて声にもならない高速神言を発する。


 公孝の背後のビルが爆発し、公孝も吹き飛ばされそうになって、すんでのところで正面のビル外壁への激突は免れた。


「「ファファ! これで貴様の母は死んだ! 怒れ! 怒れ! 原罪宝冠を回せ! 悪魔に仲間にお前もなるのだ! ルシファー・ダイン!」


 公孝の頭上の原罪宝冠が明滅し、それは断罪の天意宝冠にかわる。

 公孝の髪が真っ白になり、目は赤く光っている。


「我と我が名で悪魔アンドラスに命ず。即刻処刑、火あぶりのうえにインフェルノへの永久投獄とす!」


 アンドラスを摂氏7700度の炎が焼く。


「「なぜ、『断罪』の天意の権威が! お前は『裁く者』だというのかぁぁぁ……」」


 アンドラスは灼熱の黄金の炎に焼かれ、アベッリは力を失う。彼に憑依していたアンドラスが地獄に押し戻されたからだ。


「アベッリ、お前たちの疑似魔術では俺も母親も殺せん。地獄でベルゼブブに教えを乞うのだな。Issvärd, skjut fienden!」


 公孝からアベッリに氷の剣が投射され、額に突き刺さり彼は死んだ。


「殺すこともないだろうに……」


 公孝の背後から黄金のオーラを纏った琴音が現れる。その髪も黄金であり、目は澄んだ青だった。


「やつらもこれで慎重にならざるを得まい?」


「まあ、それもそうね。中華食べに行きましょう」


 公孝は改めて母親のタフさにはかなわないと、両手をあげてかぶりを振った。

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