第20話 逆十字騎士団編 業火のアベッリ
公孝の部屋の掃除が終わってから、結局街をぶらぶらしようという話になって、公孝は時計塔とビックブリッジに行ったが、琴音は特に喜ぶでもなく、公孝も特に話すでもなく、夕方になって外食をしようという話になって、琴音がハンバーグが食べたいといい、適当なレストランに入ったのだが、やっぱり大して美味いでもない店だった。
「本場の洋食なのに美味しくないねぇ……」
「またか! そもそもハンバーグはハンブルクから来てるんだから本場はドイツなんじゃねーの?」
「ドイツはビールとソーセージでしょ?」
「だから俺は言ったんだよ。行きつけのフレンチにしようぜって」
「フランス料理なんてあんなちっぽけな料理。それに何が出てくるのかわかりゃしない。中華の店、ないのかい? 華僑ってどこにでもあるんだろう?」
「中華街ならソーホーだな。腹半分にして行ってみるか?」
「そうだね」
母親はいわゆる日本人のもったいない精神を持ち合わせていないので、食事を残して席を立つそぶりをした。
その時、店の正面から大柄な男が入ってきて、公孝を見て言った。
「ボナセラ。キミタカ・カムイ。それに、͡コトネ・カムイ。わたしはローマ公国、第13騎士団、逆十字騎士団団長、アレッサンドロ・アベッリ。人呼んで業火のアベッリ。よろしく。そしてさよなら」
それだけ言うと男は懐から魔導書とワンドを出して、男は高速真言で呪文を唱える。
「Brucia il nemico, il fuoco dell'inferno」
するとそのレストランの床や壁を炎が包み、公孝は消火のために呪文を唱えた。
「Ängels tårar, regn och regn」
室内の天井から雨が降りしきり、炎の勢いは減った。
「なるほど、水系魔術が得意なのか。だが、こうすればどうかな? Freccia leggera, perfora il nemico」
男は琴音に向けて手をかざす。
「カァ!」
公孝は男と琴音の間に入り、アベッリの放った魔弾は公孝に向かう。
「公孝!」
そこへ琴音がさらに割って入り、魔弾をこともなげにフォークではたき落とした。
「は?」
アベッリは唖然とした。
公孝もである。
いわゆる魔導士が全力で魔力を魔術のために行使するためには、魔力の心臓である魔導書と、魔術の動脈たるワンドや杖などが必要とされる。
それらなしでは、行使できる魔力量は10分の1に低下するといわれる。
アベッリの今日の襲撃も、公孝が魔術武装をしていないという前提のものだ。
つまり、公孝の現在の魔力は1億3千万オルゴンではなく、1300万オルゴンなのであり、ローマ公国の暗殺部隊、逆十字騎士団団長、アベッリの9000万オルゴンを大きく下回る。
同様に琴音も魔力も8000万オルゴンから800万オルゴンの、King級に低下してなければ、魔術の常識から言ってつじつまが合わないのである。
これにはトリックが一つある。
琴音は右手にフォークを、そして財布にはお金が入っている。
重要なのは、神の肉体である言葉、つまり文字と、神、すなわち紙なのである。
琴音は魔術の素人のはずだが、逆十字騎士団参謀長、ミヒャエル・ベリンガーが琴音をことさら恐れ、捕縛命令を出していたのは、彼女がフェイゲンバウムではなく、本当のアブラハムの神、YHWHと主、イエス・キリストに全幅の信頼を受ける天の戦士だからである。
つまりは、彼女が今、行使しているのは魔術ではなく奇跡力。
魔術はそれの模倣に過ぎず、アベッリと琴音の実力差は魔術の常識ではお互い万全の状態で1000万オルゴンの差で優位。
しかし、奇跡の力は琴音の魔力をその信仰心により倍加させる。
つまり、今の琴音は第6のSatan級魔導士クラスの『聖人』なのだ。
呆然としているアベッリに公孝が仕掛ける。
「Ljus pil, genomträng fienden!」
こんどは公孝から、魔弾が発射される。
アベッリは店の外に向かって飛び、なんとかこれを躱した。
「大丈夫か? カァ」
「大丈夫なもんかい! お店をこんなにめちゃくちゃにして、あの男」
「あいつはローマの̻刺客だ。カァはここにいろ」
公孝はアベッリを追って外に躍り出た。
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