第5話 皇帝暗殺指令 5

 そして、暗殺計画当日の12月。

 その日は朝から冷え込み、雲が立ち込めていた。


 ヤハゥエ、ルシファー、フェイゲンバウム、ルナ、クラウディア、ガブリエルの六名は、みなボロい長ローブを身に纏い、さも苦難の民のように群衆にまぎれてイエルシャルム王城前に広がる広場につながる通りに集まっていた。


 パレードを先導するのはルシフェルの配下のアゼザル。

 この男もまたその素早さから、鷹のアゼザルと呼ばれているルシフェル親衛隊の一人だ。


 パレードはアゼザルに指揮される一般兵、次にぺイモン配下、次に変装したサタネルも混ざるベリアル派とレジスタンスの混合部隊、そのあと最後に約百名の親衛隊に守られたルシフェルが通る予定だと、サタネルに彼らはそう報告されていた。

 パレードが始まる最中、ヤハゥエたちは小声で計画の最終確認をする。


「フェイゲンバウムはアゼザルの相手をしろ。奴はかなり俊敏だ。ガブリエルはレジスタンスの指揮を。ルシフェルの親衛隊を抑えてくれ。クラウディアはガブリエルの護衛に。ルナは手はず通り親衛隊の妨害を。ルシファーとわたしでルシフェルの首を取る。あとは臨機応変に。各自の判断で動け。いいな?」


 ルシファー以下五人は小さく頷いた。

 が、この采配に密かにフェイゲンバウムは不満を抱いた。

 自分のほうがルシファーよりも遥かに強いと思ったからだ。


 荘厳な装備に身を纏う公国軍のパレードが始まり、フェイゲンバウムは先ほどの指示どおりパレードの先頭を行くアゼザルを追う。

 続いてぺイモン派の軍勢。

 そしてレジスタンスとベリアル派の偽装公国軍が続き、いよいよルシフェルの親衛隊が現れた。

 ヤハゥエはルシフェルの姿を見とめると、作戦開始の呼び笛を鳴らす。


 そして同時に、ルナは光魔術を唱えた。


「ゴッドシャイン!」


 親衛隊の中央で、まばゆい光が炸裂して彼らを襲う。

 殺傷力はないが、その光を見た親衛隊院は一斉に目がくらんだ。

 同時にヤハゥエとルシフェルは抜刀しながら最後列の豪華な馬車に揺られる優美な鎧に身を纏ったルシフェル目掛けて、親衛隊員をなぎ倒しながら突き進む。


「何事だ! ルキフグス!」


 ルシフェルは親衛隊長ルキフグスに向かって怒鳴った。


「敵襲かと! ルシフェル皇帝陛下!」


 ルキフグスは抜刀して叫ぶ。


 同時にレジスタンス、ベリアル軍は反転して親衛隊に半分の兵を割き、その軍をガブリエルがレジスタんス軍を率い、残りのベリアル軍はサタネルに率いられてぺイモンの軍を後方から襲撃した。

 公国軍は混乱し、一気に十メートルの通りは群衆と公国軍、レジスタンスが入り混じる大混戦となった。

 やがてヤハゥエとルシファーはルシフェル、ルキフグス両名と接敵する。

 それを見止めたルシフェルは馬車から降りたって言った。


「ヤハゥエか、死にぞこないのジジイめが! 今日こそ息の根止めてくれるわ!」


 そう言ってルシフェルは剣も抜かず、両手それぞれ、握りこぶしを作って右手を天に、左手を地に向け、叫ぶ。


「七罪断陣!」


 そう彼が叫ぶや否や、ヤハゥエの周囲に七本の魔剣が天から降り注ぐ。


「二度と同じ手は食わぬ! それが神羅舞心流! 神羅舞心流奥義、神羅夢奏!」


 ヤハゥエの周囲だけ時間が遅くなり、ヤハゥエに天から迫る剣のスピードが遅くなり、それをするするとすり抜けるヤハゥエ。


 同時にルシファーはルキフグスに仕掛ける。


「神羅舞心流奥義、破天叛烈斬」


 途端にルキフグスの足元から水が噴き出し、噴水のように吹き上がる。

 困惑するルキフグスに反撃に間すら与えず、ルシファーは一撃でルキフグスの首を刎ねた。

 そして、振り向きざまに次の一手をルシフェルに対して打って出る。


「破天昇竜翼覇断」


 ルシファーは今度はルシフェルを左下段から左手で剣を振り上げるように斬りかかった。

 斬撃はかすりもしなかったが、ルシフェルの足元から凍り付き始めて彼は身動きが取れなくなった。

 同時にヤハゥエはなぜか土下座の姿勢をしながら言った


 「ルシフェル! 怨ありて、故ありて、我、ついに汝を討つ! ご覚悟を! 神羅十二神将羅刹斬!」


 身動きも取れなくなったルシフェルの周囲に十二本の剣がルシフェルを取り囲むように突きたち、それを変わる変わる持ち替えながら、動けないルシフェルを超高速ですり抜けざまに斬撃するヤハゥエ。

 ルシフェルは反撃もままならず、なます切りにされて血まみれになり倒れた。


「ば、バカな!こ、このわたしがぁ……」


 そう断末魔を残し、皇帝ルシフェルは死んだ。

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