第4話 皇帝暗殺指令 3

 ルシファー以下四人が帰宅すると、ヤハゥエは既に帰宅していた。

 ルシファーはヤハゥエに王宮で女王からなにが彼に語られたのか尋ねるように言った。


「師匠、帰っていたんですね。王宮でシャイン陛下に何を言われたんです?」


「ああ、ルシファー。話によると、イエルシャルムの内部混乱と、レジスタンスの活動激化を危惧したルシフェルの奴めが、イエスシャルムに視察に来るらしい。時期は一か月後。我々はこれからイエスシャルムに乗り込む、レジスタンスとクウラウディア王国のスパイと接触し、皇帝暗殺計画を練る。この機を逃せば次はないと思え。明日にはここを発ち、シャイナス港からイエルシャルムに侵入する。昼食が終わり次第、各自旅の準備をしておけ」


「わかりました、師匠」


「シャイナスに行くってことはパパ、海水浴しようよ、みんなで」


 空気を読まないルナの呑気な提案で、一瞬の緊張がほぐれ、みな微笑んだ。


「ルナ、観光に行くのではないぞ? だが、今回の皇帝暗殺で命を落とす者も居るやもしれん。そうするか。それとクラウディア、お前も帯同せよとの女王陛下の差配だ。どうする?」


 ヤハゥエがクラウディアに話を振ると、クラウディアは頷き即答した。


「わかりました、ヤハゥエ殿。不肖非才のわが身なれど、同行してお力添えを」


「頼んだぞクラウディア、フェイゲンバウム、ルシファー」


 そのヤハゥエの言葉に即答で三人は「はっ!」と威勢よく返答した。


「そうと決まればクラウディアさん、水着を買いに行かないと」


 そう言うルナにクラウディアはきょとんとしてこう返答した。


「ルナ、観光じゃないんですよ? 駄目ですよね? ヤハゥエ」


「いや、水着を買いに行ってこい、クラウディア。最後の良い思い出になるかもしれんのだから」


 ヤハゥエは笑顔でそう言った。


「いいってさ、クラウディアさん。一緒に街に買いに行こう! そうと決まればお昼の支度しなくちゃ!」


 そう言うとルナはキッチンの方に回った。

 ルナ以外の者が食卓に着くと、ヤハゥエは一転して重く話を切り出す。


「さて、お前たちも知っての通り、ハハルビコフ帝国の皇帝は我らが流派、神羅舞心流を知っておる。わたしの二番弟子はディアボロス王国の王、サタン・ディアボロスで、奴はわたしを裏切り、神羅舞心流をルシフェルに売って現在の地位にあるからだ」


「つまりはこちらの手の内をほぼ知られてると?」


 フェイゲンバウムがそう言うと、ヤハゥエは語る。


「そうだ。ハハルビコフ帝国も先代、ミレニア女帝のミレニアム帝国時代は、平和と民を愛する国だった。サタンがわたしに接近したのは、皇帝を継ぐべきだったミカエルを排して、帝位継承権第三位のルシフェルに帝国を牛耳らせて、世界を戦乱と悪徳の世とすべく企んだサタンの目論見があったからだ。ミカエル皇太子は今でもハハルビコフ帝国帝都、パンデモニウムの牢獄にいるらしい。ルシフェルを討ち、サタンを討ち、帝国の正当なる後継者、ミカエル皇太子を救い出しまで、この悪徳の世は終わらん。サタンの欺瞞と狡猾を見抜けなかったは、このヤハゥエ一生の不覚。この身は既に死ぬ覚悟。お前たちまで死地に巻き込んですまない」


「かまいません、師匠。この俺は捨てられたわが身。それを師匠が拾ってこうして今の俺がある。この恩義、果たさずにいてどうしてこのルシファー・ダインの誇り、神羅舞心流の誇りがありましょう。どうぞ師匠の思われる通りにご命令を」


 ルシファーはそう真剣な表情で言った。

 フェイゲンバウムがそれに続く。


「その思いは私も同じ。孤児であった私を育て、鍛えて下さった恩義には必ずこの一命をかけて、フェイゲンバウムが貴方の無念を果たします」


「そう言ってくれると助かる。本当に済まない。フェイゲンバウム、そしてルシファー。全ての種を蒔いたのは、サタンを二番弟子としたわが身の不徳。ミカエル皇太子、並びにミレニア女帝に、今のままでは詫びる言葉さえ、このヤハゥエ・ヤルダバオートにはない。くれぐれも頼むぞ? わたしが死んだらお前たちが、ミカエル皇太子をお助けして、ハハルビコフ帝国を滅ぼし、ミレニアム神聖帝国を復興させるのだ」


「必ずや。師匠」


「私もです。先生」


「わたしも必ずあなたの理想の神聖帝国の樹立に、助力は惜しみません。わたしも、母上も、クリスティナ王国の全てをかけて」


 三人は鋼の決意をそう述べた。

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