第45話 ハピネス (終わることの無い物語)

 八神達とは別の道を選んだ後藤達に海老名が尋ねる。

「後藤、相変わらずお前は桜子さんと世界中を旅しているのか?」

「ああ、一緒にな。井上の弁じゃ無いが八神達にもう、俺は必要ないだろう」

「石川夫婦の手助けはしないのか」

石川夫婦は調査会社を起業し、順調に業績を伸ばしている。

石川の”無効化”は能力者が能力で隠し事を出来無いのだ。

妻の智代の卓越したギフトと相まって、かなりの成果を上げている。

その実績により依頼は少なからずあるようだ。

「お願いしたのですが、桜子さんと一緒にいる時間を選んだのですよ」

調査業務を遂行するに当たり、後藤のギフトは最適と言える。

しかも結果を瞬時に共有出来る。

共同経営を持ちかけたが断られたとの事だ。

「たまには手伝ってやる。これまで同様、委託料はそれなりに頂くがな」

例によってニヤッと笑う。

「八神が俺たちを必要とするなら、いつでも駆けつけるさ」

後藤の言葉に皆頷く。

「ところで井上夫婦はまだ見つからんのか?」

「まだ見つからん。国際能力者連盟の要請で、世界に多数あった旧時代の負の遺産。いわゆる核廃棄物の原子レベルでの組み替えで無害化する事により、企業の予算に相当する報奨金をもらったが、殆ど財団に寄付してくれた。自分には必要ないと言って」

後藤の質問に八神が答える。

「そのおかげで財団が運営出来ている」

海老名が少し微笑むように言う。

「これは明かされてはいないが、跡地には金が大量に残っていたそうだ。電子機器尊重社会の中、金の特性は未だ一番優良だからな、電子機器が無くならない限り需要は多い。価値も高い。これまで迷惑を被ってきた地域の賠償みたいなものと言っていた様だが」

後藤の言葉に桜子が頷く。

桜子はそういった情報を入手するのに長けている。

「再開発するにも金がかかるからな。奴らしいと言えばそうだが、マリーの助言かな」

皆頷く。

「あの2人は、もうこの時代にはいないのかもしれんな」

八神の言葉に皆、共感しているようだ。

一つ判った事は、八神達は井上とマリーの子孫だった。

薄くはなっていたが、それでも八神は他の誰よりも濃く遺伝子が伝わっていた。

八神と井上の思考が似ていたのはそれが理由であったからかもしれない。

例のパンデミックで日本に能力者が異常な程多くなったのは、井上とマリーの遺伝子を持った子孫である可能性が出てきた。

かなり後になり、その事を八神は知った。

そのためか八神は井上とマリーのDNAサンプルと情報は全て消去してしまった。

近況と必要事項を確認し合い、会合は終わる。

井上夫婦を含む全員が揃う事はもう無いのかもしれない。


 それがいつの時代か判らない。

日本の何処なのかも判らない。

「本当に良いのかい」

「ええ、私たちはもう十分に生きた。子供達も皆、独り立ちしたわ。私たちの存在は人類にとって、害にしかならない」

「私たちの存在では無く、僕の存在がだろ」

「いいえ、私はあなたの半分、あなたは私の半分で出来ているのよ」

「ベターハーフかい」

にっこりと笑って頷くマリー。

「一つだけ我が儘言わせて」

「判っているよ」

マリーが長い間封印してきた力を解放する。

それに譲司が同調する。

見る間に若返る2人。

出会った頃の2人の姿がそこにあった。

少し深めに穴を空け、その底に2人は体を横たえ手を繋いだ。

そして井上の能力で2人とも化石化し土で覆い、その上に地球儀を模した巨石を置きさらに土で埋める。

消えゆく意識の中、互いの心が光となって重なり、徐々に暗くなりやがて消える。

未だ発見されていないが将来もし発見されれば、学者の悩みの種になる事は間違いないだろう。

それがメッセージなのか、2人の遊び心か、生きた証しか。

本人達にも判らないのかもしれない。

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異能 キクジヤマト @kuchan2019

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