第41話 ポリシー ミーティング (政策懇談会)

 2年後、元Z班のメンバーは八神の護衛兼政策秘書として政治家八神の事務所で会合をしていた。

安井の秘書官としての活動を評価され、すでに与党の派閥の長となっていた安井のバックアップも有り、異例の早さで政治家となった八神が構想の成就に向け少しずつ動き出していた。

「反対勢力の方はどうだ?」

海老名の問いに清美が答える。

「彼らは単に有権者の反応を見ているだけ。世論の動向により味方にも敵にもなる、と言った例によって風見鶏的よ」

「諸外国政権の八神の評価は?」

「政治家八神の力量と言うより、元Z班八神を恐れているようです。Z班の活動内容が世界中の軍関係者経由で流れています。まあ、あれを見れば軍の存在が自分たちに負の要因をもたらすだけだと知るでしょうね。戦力差が圧倒的すぎますから」

そう答えたのは新しく政策秘書としてメンバーに加わった山口智代だ。

彼女は元々隣国のスパイとして活動していたがZ班に捕まり、本来極刑になるところをその能力を評価した八神にスカウトされた。

八神の構想に失いかけた自分の存在価値を見出し、例によって別人として参入している。

ずば抜けた調査能力と洞察力、推察能力を兼ね備えた逸材だ。

「以前、安井さんが海外派遣時の活動など、当たり障り無い程度のものを流しましたが、詳細な情報を流したのは引退した源元師団長のようですね。当然容姿等は判別出来ないようしてありましたが。それ故、諸外国軍部はその信憑性に驚愕したでしょう。特に井上さんの”消滅”は衝撃だった様です。事を起こせば自軍、と言うより自分たちが消滅させられると恐れているようです。又、班のメンバーに匹敵するような能力者は諸外国の軍部にも少ない様ですね。むしろ一般人の中に潜って存在を隠している」

「極秘情報では無かったか?源元師団長の方は問題ないのか?」

「元々Z班の海外派遣は政治的なものでしたから。それにその情報が世界中に広まったため、この国と事を起こすのを避ける結論にしか至らないという事実がありますから」

「能力者の人数も圧倒的な差だからな。プラス能力差が明らかにされた。まともな権力者ならその結論に至るか。おとがめ無しも当然の事だな」

「智代さんの情報収集能力に疑う余地は無いですよね」

何故か石川がニコニコしながら言う。

石川のあからさまな態度にあきれる中、智代が顔を赤らめている。

「石川、これからも智代さんに協力してやれ」

海老名のお墨付きをもらった石川は満面の笑みで

「はい!」

と答える。

「それで八神は?」

「その潜っている能力者と秘密裏に接触しているわ」

「秘書官の清美さんが同行しないという事は、表だってしている事では無いのか」

「例の件で下準備と言う事ね。同行は奥様がしている。奥様の組織は彼らにも知れ渡っていますからその方が良い結果を得られると思うわ」

「先延ばしになっていた新婚、でも無いが旅行か」

「党には公休で海外視察と届けてあるわ。本来、海外視察は公務となりますが奥様が同伴しますから」

「反対派に留意したか」

「政治家って、思っていたより大変ね。周囲への気遣いが軍以上に必要」

「秘書官が清美さんだから何とか順調に運んでいるんだ」

マリーの件で、井上なりに気を遣っているようだ。

「智代さんが調査し、提言した見解もかなり役立っている」

「それは石川さんが作ってくれたコネクションのおかげよ」

2人の関係も進展しているようだ。

「仕事はきちんとしている様だからとやかくは言わんが」

海老名が釘を刺す。

顔を赤らめ、下を向く石川と山口だった。

「協力を得られた能力者の能力とレベルが正確にわかると良いのだが」

「その件は大丈夫だろう。桜子がサポートしている。あいつは仕事柄世界中飛び回っているからな。自然とそう言う連中と知り合うらしい。今回の件も桜子が仲介しているからな。彼女は相手の懐に入るのが上手い。何故かあいつには包み隠さず話してしまう。まあ、特技と言って良いな。本人は石のパワーを借りていると言っているが」

桜子とは後藤の妻だ。

少し照れて言葉を切った様に話す。

「その通りよ、これまで接触出来た方達の情報が八神さんからすでに送られているわ」

清美がまとめた資料を見せる。

「いずれは公式にデータベース化され、登録する事が当たり前になる」

海老名の発言は確信に満ちていた。

「構想がこれまでのように順調にいって後、5から6年位か」

後藤が補足するように言う。

「最大の難問、能力者同士の対立はすでに回避されている。礼子さんの組織の活動が世界中に広まった相乗効果と言えるかな」

「最近知ったのだが、実は桜子も組織のメンバーらしい」

「最近って」

「桜子はもうずいぶんと前に俺に話したと言っているが、聞いたような聞いていないような」

「「「もっと一緒にいる時間を作れ!」」」

兄弟のような関係だから言える台詞だ。

結論として、八神の帰国を待ってその成果により今後の進め方を詰める事となったが、八神夫婦の今回の”旅行”は構想を順調に進展させる可能性が高いようだ。

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