第40話 カップリング (繋がり合う者たち)

 数週間後、色々と忙しい八神を除いたZ班のメンバーが清美とマリーの暮らすアパートメントに集まって食事をしていた。

突然想定外のカップル誕生にZ班のメンバーは驚きを隠せない。

「おいおい、一体どうなっているんだ?いつの間にそうなった?それも二組同時なんて」

後藤が例のにやけ顔で言う。

多分後藤は気づいていたに違いない。

「そうですよ。清美さんとマリーさんは恋人同士だったはずでしょ。なのに何で?」

石川が全く理解出来ないと言った体で4人を交互に見ている。

「恋とは、突然落ちるものさ。いずれお前にも判る」

海老名のその言葉にも驚きを隠せない石川。

「その時は案外近いかもよ」

清美が微笑みながら言う。

何かしらの確信に近い情報を持っているのかもしれないが、石川には心当たりが無さそうな表情をしている。

「何か判っているのか?」

海老名が尋ねる。

「能力者同士は惹かれ合うのよ。それに同じ境遇の者同士ならなおさらね」

今度は海老名がニヤッと笑う。

「そういうことか。でもそれは新しい職場だな」

「あら、知っていたの?」

「まあ、事前調査は当然しているという事さ」

「さすがね」

そう言って清美が海老名の頬にキスをする。

その自然なやりとりに、周りの皆がここが職場でなくて良かったと思った。

「何だ?職場ではこんな事しないぞ。それくらいの切り替えは出来る」

雰囲気を察した海老名が言う。

「後藤さんには彼女、いないの?」

石川が後藤に矛先を向ける。

「いるよ。八神に渡した宝石を入手したのがそうだ」

海老名は知っていたようだが、井上と石川には初耳だった。

「あの稀少ダイヤを格安で入手したのが彼女だったの?昔いた組織の人だと思っていた」

「宝石、特にダイヤはある組織が必ず絡んでいる。業界では常識だ。当然裏の組織も絡んでいる」

「知らなかったな。世の中複雑?だな」

「井上、知らないのはお前位のもんだ。石川は知っているようだぞ」

「僕のいた国でも宝石は国家の財源として発掘していましたから。そういえばこんな事を聞いた事があるな。何でも宝石の埋まっているところを百発百中で言い当てる能力者が居ると。確かミセスバイオレットと呼ばれていた」

「俺の女房だ」

「女房?け、結婚していたの?」

石川が驚いて叫ぶ。

「女房はほぼ一年中、稀少な宝石が私を呼んでいると言って世界中飛び回っているからな。まあ、1人もんみたいなもんだ」

「殆ど毎日、欠かさず連絡を取り合っているじゃ無いか」

海老名がバラす。

「一緒にいなくて寂しくないのか」

マリーと繋いだ手に少し力を込め井上が尋ねる。

「組織からの結婚の条件にそれが入っていたからな、それに本業と言うより今では趣味、いや、生きがいみたいなもんだ。辞めさせる事は出来ん。もう慣れた」

「八神が後藤をスカウトした時に組織と一番もめたのは彼女の処遇だ。重要な資金源だからな。だが今は完全に組織から離れている」

海老名が補足する。

「組織、八神に潰されたな」

井上が言う。

石川も頷いている。

「いや、そこまではしなかった」

「…ああ、そういうことか」

「突然組織が無くなれば市場が荒れるだろう。それを考慮したのさ。同時に奴の恐ろしさを強烈に植え付けた。もう手は出せん」

私情に流される事無く、幅広い知識と考察力により適切な判断を下す八神だ。

最善な処理をした事に疑いの余地は無い。

今現在、何の問題も起きていない事が裏付けている。

「後は石川だな。海老名と清美さんの話から察するに少し先になりそうだが、面白い事になりそうだな」

後藤がニヤッと笑いながら石川を見る。

当の石川は訝しげだが若干期待しているのだろう。

目は嬉しそうだが顔は少し引きつった様な複雑な表情をしている。

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