第39話 インヘリット (受け継がれる想い)
「そして目覚めた時、僕は記憶を無くしこの時代に来ていた。多分急激な重力の変化が空間と時間を歪めたんだろう。想像でしか無いが、そうとしか思えない。そして限界を超えた能力を行使した為、記憶を失ったのだと思う。結局、琴音さんの無念は晴らせなかったな」
「…お婆さまを殺害したのは酒井よ。お婆さまの記憶にあった。義手の男がお婆さまを殺害した。あなたを逆恨みして復讐しようとしたようね。何十年探して見つからないからお婆さまに矛先を向けた」
「奴は、酒井は今どこにいる!…俺のせいで琴音さんが!」
「…もうこの世にいない。お婆さまの記憶から私も犯人を捜した。あなたがこの世界に来た時に消滅してしまった場所にいた」
「…そうか。酒井はともかく、大勢の人を巻き込んでしまったようだ。君を巻き込まなかった事がせめてもの救いだな」
「ええ、私は救われた、今のお話で。あの男を消し去ったのがあなたで良かった。巻き込まれた方々には申し訳ないけど。私もお婆さまの仇を討つつもりだったから」
「君の手を汚さずにすんだか。これも琴音さんの導きか」
「…本当は話さないでおこうと思っていたけど。…あなたはあの時に爆発に巻き込まれ、死んだ事になっているわ。でも、お婆さまは信じなかった。何年もあなたを待っていたわ。何年経ってもあなたが迎えに来ないからお婆さまは…」
「そして君へと繋がる訳か」
突然井上を抱きしめるマリー。
「お婆さまの心はここに残っている。感じるでしょ」
「…伝わってくるよ。この心が和む暖かい感じ。琴音さん」
「お婆さまが最後に私に残した。いえ、移した思い」
2人は自然と互いの唇を重ねる。
悠久とも思えるこれまでの時間が今、2人の思いを重ね合わせる。
この一瞬が永遠となって欲しいと願う井上だった。
「君を離したくない。側にいて欲しい。…ごめん、マリーさん。君は琴音さんじゃ無い。清美さんという恋人もいたね」
「お婆さまが思いを私に移したと言ったでしょう。それはお婆さまの思いではもう無くなっているわ。私の心に溶け込んで一つになっている。もう私の思いでもあるのよ」
「君は同性愛者では無いのかい?」
「少し違うわ。恋愛感情が性別で左右される事が無いだけ。それと多くの不純な男性を受け入れる事が出来無いだけ。清美もそう。彼女自身気づいていないみたいだけど、彼女は海老名さんに惹かれ始めているわ」
「海老名さんに?…でも、判る気がする。彼の経験した苦悩は僕の想像以上だっただろうから」
「海老名さんの経験した苦悩に比べれば、清美のは偏見に過ぎない。私を好きになったのも自分の心をごまかすためだわ。それを彼女自身が一番判っているから」
「海老名さんは本当にピュアな心を持っているんだ。ピュアすぎて暴走したが、今はもうコントロール出来ているしね。Z班の活動も本心はしたくないんだ。八神の構想に賛同したからZ班に参加した。争いを無くすために戦っているんだ。自分の心を含めたいろいろなものと葛藤しながらも」
「あなたたち、本当に心まで通じ合っているのね。少しジェラシー感じちゃう」
「君とはそれ以上になりたい」
そう言ってマリーにキスをし、熱く抱きしめる井上だった。
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