第38話 ショウダウン (消された対決)
しばらくは声を出す事が出来無かった井上だが、マリーの優しさに溢れた目を見、少しずつ言葉にする。
「…告白したあの日から、2人の都合が合う時はいつも一緒にいるようになった。あんなに充実した日々はこれまで経験した事が無かった。世界が喜びで満ちあふれ輝いている。あれを幸せな日々と言うのだろうな。…それをやっかむ奴がいた。琴音さんが巫女になるため、修行している神社にありもしないでたらめな事を伝えた。真実を確かめもせず、琴音さんは巫女になる資格が無いとされてしまった。それを知ったのは琴音さんが実家の神社に、何も言わずに帰った後だった」
「あなたが責任を感じると思ったのね、お婆さまらしいわ。でも本当はもっと、ずっと一緒にいたかったと言っていたわ」
「それは僕も同じだ。だから犯人を捜し出し、琴音さんの無実を晴らそうとした。見つけた犯人は親友だと思っていた奴だった。奴は僕の事など親友と思ってはいなかった。訓練所の劣等生だった僕を心の中では見下し、優越感に浸りたかっただけだった。だが、急に能力が強まる僕に敵意を持つようになり、嫌がらせのため琴音さんを巻き込んだ。許せなかった。そいつを呼び出し、けじめをつけようとした」
「琴音さんの事、嘘を告げ口したのはお前だな。酒井」
「何のことだ?証拠はあるのか?仮にそれが俺だとしても、男と付き合っている女が巫女になる資格など無い。資格を奪ったのはお前自信だろう、色ボケでそこまで頭が回らなかったか?」
「巫女の資格を無くすような付き合い方などしていない!」
「それはお前の判断だ。あの女に資格が無いと判断したのは修行場の講師達だ」
「お前がでたらめな事を伝えたからだ」
「だから俺だという証拠は無い」
「メールの送られた端末は判っている。それをその時間使用していたのはお前だけだ」
「嘘だな、あの端末にたどり着けるはずが無い…お前、カマかけたな」
「それは自白と取って良いようだな。この事を訓練場の管理者に伝えたら、お前は停学だな」
「優秀な俺の経歴を汚す事など、許さん」
3cm大の石が井上めがけ飛んでくる。
当たる直前にそれはバブルガムのように膨らみ、井上が少し体をずらすとそれも弾むように進路をずらす。
「何だ今のは」
「皇族の方々をお守りする力だ」
「それでは説明になっていない。まあいい」
20個程、小石が井上めがけて飛んでくる。
少し遅れ30cm大の石が3個井上めがけて飛んで行く。
その全てが先程のように膨らみ、井上に当たった瞬間今度は液体のようになりはじけ、四散する。
「バカな」
「琴音さんが教えてくれた俺の力だ」
「畜生、畜生、畜生!…これでも喰らえ。おおおおおお!」
酒井の雄叫びと同時に地面が直径5、6M程の塊となり井上めがけ飛んで行く。
しかもその塊にはシールドが張られていた。
「さすがに今度は変化出来まい。死ね、死んでしまえ!」
酒井の憎悪の塊となった物体が井上を直撃する。
酒井の憎悪の塊は先程の石のようには出来無かった。
「くそ、シールドが強力だ。これでは操作出来無い。ダメか」
(諦めたらダメ!)
「!琴音さん?…うおおおおおおお!」
能力をフル解放する井上。
それは殆ど暴走に近かった。
塊に張られたシールドが井上に触れた瞬間、それは消滅して行く。
塊だけで無く、井上の周囲毎消滅して行く。
「ダメだ!これでは御所まで巻き込んでしまう。何とか止めないと。…おおおおおお!」
限界を超え能力を反転しようとする井上。
物質の結びつき変化は原子から素粒子の変換へとなり、重力場が急激に増加する。
物質だけで無く、酒井から向けられた能力エネルギーをも変換しさらに重力場が強まる。
それはマイクロブラックホール並みに増加した。
瞬間、気を失う井上。
「な、何だ。消えた。…お、俺の手も消えている!」
次の瞬間、爆発が起こり、酒井は吹き飛ばされる。
目覚めた酒井は能力を失っていた。
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