第37話 ボーイ ミーツ ガール (あふれ出る思いの記憶)

 安井将補の政界入りは周到に準備がされていた様だ。

与党の推薦も有り、圧勝で当選した。

八神の構想はこれで加速してゆくだろう。

これまでとは違った活動の場がZ班メンバーに与えられる事となった。

そんな頃、井上はマリーに呼び出された。

「お忙しい時に時間を作って頂き、ありがとうございます」

例の服装で例の挨拶ポーズをするマリー。

「まだそれほど忙しくありません。マリーさんにお会い出来るなら、たとえ忙しくても時間は作ります」

「あら、嬉しいわ。…今日はお伝えしなければいけない事があります」

「琴音さんの事ですね」

「…やはり記憶が戻っていたのですね」

「僕にもあなたに話さなければならない事がある。と言うより謝らなければならない事が」

「お婆さまの事ですね、では井上さんから話して頂けます?」

「…私は国家の特殊訓練校に在籍しておりました。知力、体力、そして特殊能力をもって皇族の方々をお守りする為の近衛兵になるため。そこで私は琴音さんと出会った。琴音さんは特殊訓練校では無く、巫女となるための修行に来ていたのですが」

「聞いた事があります。京都御所で修行していたらしい事を。詳しくは話しては下さいませんでしたが、途中でそれを辞めたという事も」

「辞めたのでは無く、その資格を僕が奪ってしまった」

「え、どういう事ですか?」

「理由を話す前に、僕と琴音さんの出会いから話さないといけないな。…あの頃、訓練校で僕は行き詰まっていた。他の訓練生は順調に能力が高まる中、僕の特殊能力が全く強くならない。自分自身に失望していた。そのため、訓練をサボって御所内の小さな神社で時間を潰すようになっていた。そんな時に琴音さんと出会った。君も知っていると思うが、琴音さんは心の中を見る力を持っていた。悩む僕に、あなたはものすごい潜在能力を秘めている。ただ優しすぎるから無意識に抑え込んでいるだけ。きっかけさえあればすごい力の解放が出来る。と元気づけてくれた」

「お婆さまには見えていたのよ、あなたのあの能力」

「そうだね、あの一言でなぜだか自信が持てたよ。それから一気に能力が向上した」

「あなたの能力の本質は物質の素粒子レベルでのコントロール」

「僕はそれまで自分の能力は物質の結びつきを変化させる事と思い込んでいた。固体を液体や気体に。物質の構成を素粒子レベルで変化させるなど不可能と思っていたから」

「その後お婆さまとのお付き合いは?」

「あの出会いで自分の能力を正しく認識出来た僕は、琴音さんに御礼が言いたくて彼女の通りそうな道でまた会えるのを待った。そんな日が何日か続いた。やっと会えた時、僕の口から出た言葉は御礼では無く、告白だった。彼女を待つ日々が思いを恋愛感情に変えていた。唐突な告白に琴音さんは笑って、ただ頷いてくれた」

「お婆さまから聞いているわ。あなたに声をかけるずっと前からあなたを見かけ、気になっていたそうよ」

「前から?」

「1人でいるあなたが消えてしまいそうに悲しげで、それなのに優しさに溢れているように見えたそうよ。何度も声をかけようとしたけど、あまりに深い孤独を感じ、声を出す事が出来無かった。でも、あの日のあなたは使命感というか、責任感に押しつぶされそうになっていた。声をかけずにいられなかったって」

「…ああ、琴音さん」

井上の目頭から熱いものが溢れていた。

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