第36話 ターン オブ イベンツ (明かされる秘事)

 式が終わり、八神も礼子もいつまでも浮かれてはいない。

新婚旅行には行かず早くも行動を開始する2人。

新居も軍敷地内にある将校用に設けられた居住地区にした。

新居への引っ越しが終わった3日後には計画の成就に向け動き出す。

組織の存在を公表するための下準備に入る。

礼子の護衛役の木下と八木も新居の隣に護衛室ならぬ護衛家に詰めていた。

護衛家には名目上八神の護衛とされたZ班のメンバーも詰める事が多い。

お互いの情報共有を密にする場になっていた。

そんなある日、八神は源師団長に呼ばれて私邸を訪問していた。

私邸と言っても同じ基地内にある為、執務室も兼ねていた。

面談の控え室で待っていると、安井少補が入ってきた。

立ち上がり、敬礼をする八神。

「八神君、源師団長がお待ちだ」

共に歩きながら安井少補が言う。

「結婚、おめでとう。君の構想もかなり進展しそうだね」

警戒しながら答える八神。

「人生設計の事でしたら、予定では結婚はもう少し先の事でしたが」

ニヤッと笑う安井少補。

「安井少補と八神大佐、入室します」

「入れ」

執務室に入ると、入り口近くで二人を迎入れ、握手をする源師団長。

「優一よ、順調に進んでいるか?問題は無いか?」

安井少補の手前、言葉を選ぶ八神。

「引っ越しの荷物はほぼ片付きました。部屋数も、広さも問題ありません」

「そうでは無く、例の件だ。礼子さんの組織も取り込めたのだろう。そろそろ動き始めても良いのでは無いか?何、安井少補の事なら心配いらん。お前と志を同じくする同士だ」

思いがけない言葉に驚きを隠せない八神。

「八神大佐、君の構想は親父から聞いていた」

「親父?」

「そうだ。私も源師団長を親父と呼ぶ、言わば君の兄だ」

「兄?」

「私も君と同じ様な境遇でね、親父にこの命をもらったようなものだよ」

「優一。お前の構想は、私たち能力者の悲願でもある。だが、大きな問題があった。一つは軍という組織を利用する事。もう一つはお前がまだ若すぎるという事だ。お前自身判っていた事だろうが…。そこでわしは悟に頼んで嫌な役を引き受けてもらった」

悟とは安井少補の名である。

「君にはもう判っていると思うが、軍という組織は階級が全てだ。しかしそれ故若くして出世するお前を敵対視するものは少なくない。そんな連中を掌握するためにはそこそこの地位にある私がお前の敵として目される事が良いとの親父の提案を引き受けた。理由は言わなくともお前なら判るな」

言われてみれば思い当たる節はある。

安井少補なら八神大佐など、潰そうと思えば潰せる地位も部下の信頼もあった。

八神の計画の邪魔をするような事を仕掛けては来るが、結果的にそれが好転する事が多かった。

軍の機密であるZ班隊長、八神が公式の場に出られたのも2人の尽力があったのだろう。

「私は軍属から離れ、政界に戦場を移す。お前を秘書として。それとZ班のメンバーを護衛兼事務所職員として。軍部の者たちにはお前達が私に屈したと思うよう見せかけてな。時間は少しかかるかもしれんが、例の法案を成立させるために」

続けて安井少補が言う。

「6年。いや、8年我慢してくれ。政界トップへの道は私が作る。その後私はお前に後を継がせよう」

「あなたはそれで良いのですか?」

「お前の意思は親父の意思、親父の意思は私の意思でもある。待っていたのだよ、私も親父も。お前が行動を起こす事を」

八神は胸が熱くなる思いだった。

ピースは全て揃った。

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