第33話 ポリティシャン (政治屋)

 八神と清美がZ班の部署に戻ってきた。

「時の人のご帰還だぜ」

会場から出てきた時の映像を指さして後藤が言う。

「婚約発表すれば良かったのに」

井上が何故かこだわっている。

「手順が重要だと判っているだろう」

その時清美が

「源師団長からです。二宮幹事長が隊長と直接会いたいと」

「その1というわけか」

海老名が言う。

「その2は幹事長との話の後ですね。政治家の言葉を鵜呑みにしないで下さい。奴ら、舌を2枚どころか10枚くらい持っていますから」

石川の言葉には実感が込められている。

「判っている。」

「で、いつ会いに来いと?」

「明日、朝10時」

「ほう、早いな。一応父親として娘が心配か?」

「いや、単に所属派閥に対して気を遣っただけだろう」

「例の継母にも会うのか」

礼子の実母は亡くなって、今は後妻がいる。

お互い嫌っているため、滅多に同席しない。

「そっちの方が気が重い」

八神の正直な気持ちだろう。


 翌日、二宮家を尋ねる八神。

二宮の書斎と思われる部屋に連れられる。

幸い例の継母はいない。

「おはよう。あの会談以来かな?」

多分二宮幹事長は八神の事など覚えていない。

「はい」

「あの後から礼子と付き合っているそうだな」

「はい」

「どこまでの関係だ」

質問の意味は判っていたが、下卑た問に付き合う気は無い。

「礼子さんのお気持ちは判りませんが、結婚を前提にお付き合いをさせて頂きたいと」

「ほう」

二宮は頭の中で皮算用を弾いているに違いない。

軍の上級将校を身内に持つ事は自分の利になると考えているだろう。

八神程度の若造を手玉に取る事など容易いとも。

「良かろう。君がそこまで真剣に考えているのならな」

政治家にとって、娘は自分の地位を強固にする為の道具でしか無いようだ。

娘の意思は関係無いのか、と言いたいところだが表情も変えず

「ありがとうございます」

と、答える。

「礼子を呼んでこい」

執事らしき男に命じる。

礼子が書斎に入ってくる。

あからさまにここに来るのを嫌がっているようだ。

そこに八神を見つけ、表情が一変する。

「八神さん、おはようございます」

「おはようございます、礼子さん」

「今な、八神君がお前を嫁に欲しいと」

結婚を前提にとは話した。

だが、そんな事は言っていないぞ、と思ったが一気にステップアップは出来る。

「礼子さんがお嫌でしたら仕方ありませんが。私は真剣ですよ」

と言うと礼子は

「私で宜しければ」

と、答えてくれた。

「よし、後は婚約発表をいつにするかだな」

二宮の目に、すでに二人は映っていない。

この事を如何に政治家として利用するか、に頭を巡らせているに違いない。

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