第32話 コンファレンス (公式の会食と隠される会談)

 源師団長と二宮幹事長の会談以降、海外派遣は当然ながら国内に於いてもZ班の出動はほとんど無くなった。

おかげで八神の計画も順調に進んでいた。

礼子が現政権幹事長の娘でも有り、そのルックスから度々メディア記者達の感心が集まるのは当然だろう。

その礼子が男性と会食するという情報はあっという間に広まった。

八神と礼子の会食は公式なものとした。

礼子の親が別の会談で、同席来ないのは幸運だった。

当然礼子の護衛である二人はついてきた。

会食の場は完全に記者シャットアウト、密室だ。

八神が口を開く。

「初めまして、八神優一と言います」

ちょっと待てと言うように木下が手のひらを八神に向ける。

部屋を左回りに一周するとパンパンパンと何かがはじける音がする。

「これで良し。こういった所には盗聴器や隠しカメラが仕掛けてある事が良くある。が、もう大丈夫だ。俺の名は木下。能力は”鉄壁”。今シールドを張った。俺の張ったシールドはどんな物理攻撃も精神攻撃も通さない。指向性マイクを使おうが、赤外線、X線カメラを使おうが、テレパシストだろうが覗く事は出来ん。こっちが相棒の八木」

「八木です。能力は”ラビリンス”。俺たちの後をつける奴は迷宮をさまよう事になる。どうなるかは秘密にしておく」

「そんな能力者がどうして二宮幹事長につかず礼子さんに?」

「俺たちはお嬢の事は好きだが、その親父が嫌いでね。能力を過小に評価させた」

「その二人を私の護衛につける父よ。どのような人間か判るでしょ」

「二宮幹事長の能力者嫌いは有名だからね。好意を持つ能力者は少ないだろうね」

無難な返事をしておく。

「礼子さんが記者の目から逃れられるのは八木さんの能力でしたか」

「前回、あんたに仕掛けたが。…あんたの能力かい」

「優秀なナビゲータがついていますので」

「まあ、そう言う事にしておこう。それよりあんたの護衛はそのお嬢さんかい」

「隊長に護衛は必要ありません。私は秘書官です」

「ほう、秘書官付きとはな」

「彼女を連れてきた理由はすぐ判ると思います」

「あなたが清美さん?先日の方?」

礼子の問いに、ニコッと笑う清美。

その間に、気づかれない程度に木下のシールドに重ねて”場”を張る。

その後清美が能力を使う。

礼子の護衛が家庭教師も兼ねている事に納得する八神。

優秀な幹部が礼子の側近として組織いるから運営も良好なのだろう。

八木が理数系、歴史、心理学というのは納得出来たが、木下が文系、政治経済、芸術と言うのは見た目から想像出来ない。

体躯会系と言われた方が納得出来ただろう。

察してか八神を見てニヤッと笑う木下。

幼い頃から、二人に英才教育を受けてきたのだろう。

優秀な教師が護衛をして来たのだ。

それが礼子の才能開花に繋がったのは間違いない。

礼子に知識と行動力が伴っている事に納得がいった。

2時間の会食はあっという間だった。

だが、清美の能力のおかげで彼らにとっても内容の濃い協議が出来た様だった。

会談は互いの利益になるものとなった。

会食場から出てきた二人に記者が質問を投げかける。

「お二人はお付き合いをしているのですか?」

ゴシップ雑誌記者の質問に答える必要も無かったが、敢えて答える八神。

「はい」

おおっ、と記者達のどよめきが湧く。

「あなたは?」

「軍部に所属しているとしか、答えられません」

「切っ掛けは二宮幹事長と源師団長の会談でしょうか。確かお二人も同席された」

「そうです」

そう言うとそれ以上の質問には答えず、用意された車両に礼子と護衛の二人、そして清美も乗り込む。

当然記者達は追跡しようとするが、見失う。

能力と気づかせないのは八木の妙だろう。

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