第30話 イボルブ トゥワード (二つの組織と二人の進展)
ウエイターが注文を取りに来た。
八神はコーヒー、礼子はレモンティーを注文する。
「今日は時間を頂き、ありがとうございます」
「なかなかお誘いが無いから、社交辞令だったのかしらと思っていたわ」
「すみません、任務が立て込んで遅くなりました」
「ふふ、冗談よ。お誘い、嬉しかった」
礼子のはにかんだような笑顔に一瞬見とれる八神。
話を切り出す切っ掛けが掴めない。
察したかのように礼子が
「今日はどのようなご用件で?」
「はい。失礼ながらあなたの事を部下に調べさせました」
一瞬警戒するが
「お互い、立場が立場ですから致し方ありません。私も調べさせて頂きました」
正直に話した方が良いと判断し、礼子が答える。
政府関係者だろうが、八神を調べることは出来無いとの確信も有り言う。
「本当に軍人を調べるとは大胆な事を。気になる点はありましたか」
「はい。あなたについて、何も判らないと言う点が」
八神の予想通り、礼子は頭も度胸も持ち合わせているようだ。
「私は判りましたよ。あなたの組織の事とか」
表情には出さないが、少し動揺する礼子。
「誤解しないで頂きたい。私はあなたの味方になれます。いや、逆だな。あなた方に私の味方になって欲しい」
予想外の言葉に八神の意図を掴みかねる礼子。
「言葉で説明するのはやはり面倒だな。清美さん、頼む」
一瞬”場”を張る八神。
その一瞬で礼子の頭に八神の情報が入る。
当然、今回の件に必要な事だけだが。
「失礼しました。あなたなら許して頂けるかと」
「構いませんわ。御礼を言いたい位です。私たちが望んでいたものです。その構想もお仲間も全て」
高揚感を隠しきれない礼子。
澄んだ目が一段と輝いている。
「それで、その。…今後もお付き合いをして頂きたいのですが。個人的にも」
「はい」
頬を赤らめながら返事をする礼子。
「もう一度失礼をさせて頂きます。情報を漏らさないためと理解頂きたい」
「当然の処置ですわ」
お互い、これ以上の無いパートナーだと感じていた。
立場上も、個人的にも。
漏れても構わない程度に八神の情報を一部書き換え、一部消し礼子に残す清美。
周りから不自然に見えないよう、普通のカップルのように会話を続ける二人。
気づかないうちに数時間経っていた。
「そろそろお食事、誘って頂けません?」
「ええ、予約した店があります。和食がお好みでしたね」
「楽しみだわ。でも、この服装で構わないかしら」
「私は身の程をわきまえているつもりです。あなたにはご満足頂けないかもしれませんが、若者に人気のある店です」
「高級料亭に通うのは父であって、私ではありませんよ」
「すみません。どうも不慣れで、気の利いた言葉が思い浮かばず」
照れたように頭を掻く八神が、見た目通りの好青年で本当に嬉しそうにクスッと笑う礼子だった。
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