第29話 ランデヴー (待っていた連絡)

 八神と礼子の会食から2週間が経っていた。

「お嬢、依頼のあった八神優一という男。ただ者では無いようだ」

サブリーダーの木下が言う。

礼子の教育係の一人で、幼い頃から傍らにいた事も有り皆のいる前ではリーダーと呼ぶが、二人の時はお嬢と呼ぶ。

礼子のボディーガードも兼ねている。

「何か判った?」

「お父上の伝手で軍関係者に確認したが、素性が綺麗すぎる。部隊長というのは確からしいがどの部隊かを明確に知るものがいない。どうも気になる」

「キーおじがそう言うならそうなのでしょうね」

礼子も二人の時はキーおじと木下を呼ぶ。

「私が直接会って探りを入れたいけど、先方からの連絡待ちなのよね」

「お嬢が誘って翌日に連絡しないとは、そういう立場にいるか同性愛者かただのアホだが、お嬢の話とこれまで得た情報からして同性愛者でもアホでも無さそうだな」

「ええ、かなり気になる相手だわ」

「…お嬢、色恋は今はダメだ」

「そ、そんなんじゃ無いわ。そういう人が我々の敵となるか、味方となり得るかを気にしてるの!」

「判っているならそれでいい」

絶妙のタイミングで礼子の携帯端末に八神から連絡が入る。

『礼子です』

『あ、八神です。先日は楽しい時間をありがとうございます。連絡が遅くなり申し訳ありません』

『お仕事柄、お忙しいのは仕方ありませんわ』

『早々用件をお伝え致します。次の土曜日、14時からお時間は取れますか』

『12日ですね、大丈夫です』

『では、○○駅、東口でお待ちしております』

『○○駅、東口ですね。判りました』

『では』

それだけ言うと通信は切れた。

「お嬢と会えるって言うのに、軍人ってのはあんなものかね?」

「ただの坊やとは違うって事」

「こっそり付けましょうか?」

「大丈夫、気づかれ変に警戒されるのもやりにくいわ」

「仮にも部隊長様だからな、我々程度の能力者が近くにいたんじゃ気づかれるわな」

「そういうこと」

そう言いながらどのような服装で行こうかを考え始める礼子だった。


 12日、○○駅東口。

13時45分に八神はついた。

が、礼子が先に来て待っていた。

「すみません。お待たせしないよう早めに来たつもりでしたが」

「お約束の15分前です。問題ありませんわ。ところで、今日はどこに連れて行って下さるのかしら」

「とりあえず静かなところで話がしたいと思っています。部下から聞いた良いところがあります」

そう言って礼子をエスコートする八神。

薄いブルーのシャツにカジュアルジャケット、スリム過ぎないパンツ、紺色のスニーカーがよく似合っていた。

軍人とは誰も思わないだろう。

ブルー系チエックのシャツワンピースに同系色のロングカーディガン、ベルトの色に合わせたブーツ。

礼子の雰囲気によく似合っていた。

周りにはお似合いのカップルに見えるのだろう。

二人のルックスも有り、すれ違いざま振り返る者たちが何人もいた。

八神が後藤から教えられた店は、小さめの音量でいろんなジャンルの音楽が流れ、夜は照明を暗くしアルコールを楽しめるようだが、昼間は明るめの照明にソフトドリンクのみを提供する落ち着いた雰囲気の店だった。

客層も幅広く、若者から年老いた者までいた。

近くには客のいないテーブルを選び礼子を先に座らせる。

八神も礼子と向かい合って座る。

礼子も初めて来たようで、店の雰囲気を楽しむように見渡している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る