第27話 ウエイクアップ (戻りつつある記憶)
目覚めて数日後、井上は例の練習場に海老名と共に来ていた。
「はじめは軽くお願いします」
「了解。リハビリだからな」
そう言うと、小型ハンドガンを具現化し井上に向けて引き金を引く。
反応する事無く、井上を弾丸がかすめる。
「おいおい、大丈夫か」
「大丈夫。続けて」
直接井上に弾丸が当たらず、かすめるように連続で撃つ。
「俺を狙って撃って」
「良いのか?…ではいくぞ」
連射で井上を狙って打ち込む。
はじめの数発が井上に当たる。
反応は起こらない。
しかし容赦なく打ち込む海老名。
ぼうっと井上が発光したような気がした。
すぐに消えたが次弾から井上に当たる直前に消滅する。
「実戦の時のように、本物も混ぜ込んで四方から攻撃してくれ」
「ほう、気づいていたか。よし、いくぞ」
容赦の無い攻撃が続く。
弾丸は全て井上に当たる直前に消滅する。
「よし、この感覚だな。判った」
海老名の攻撃がやむ。
「今のは反応をコントロールしたのか?」
「おかげさまでコツというか、感覚が掴めました。これまでの実戦経験が役に立ったな」
普通に立ち上がる井上に、これまで感じた事の無い凄みを見る海老名。
「何があった。いや、何を思い出した。井上」
「思い出したわけではありませんよ、多少コントロール出来るようになっただけですよ。そうだ、石川の無効化と後藤さんの通信も確認しないとな。後、八神の”場”も」
「その前にまず、傷の手当てだ」
以前の井上とは違う何かを確信する海老名だった。
海老名との練習場での訓練時受けた傷は海老名が直してくれた。
元軍医だけあって処置が早い。
且つ、能力で傷の縫合や修復までするのだ。
普通に処置をするよりも治りが早い。
その後、後藤、石川、八神とも連携し実戦を想定した訓練をした。
「うむ、これまでの行き当たりばったり、なるようになれといった感じでは無く、確かにコントロールしているようだな」
「ああ、念力は意志の強さとマリーさんが教えてくれた。今までは”反応”をコントロール出来ないと思い込んでいた。でも、出来るのだな」
「面白いデータも出ているぞ。原子分解された物質がほぼ窒素と酸素だけになっている。火気厳禁では無さそうだ」
後藤がいつになく真面目な顔で言う。
「本当にコントロール出来ているようだな」
八神の問いに
「いや、まだまだ。もっと練習しないとな」
「でも僕の”無効化”には影響されない。頭で使う能力と心で使う念力?まだ良く判りません」
「念力ってのはなんか古くさいな。超能力って言ってくれ」
井上の言葉に後藤が言う。
「お前自身古くさい人間らしいじゃ無いか。どっちでも良いだろ」
「古くさい人間は無いでしょうに。いくら過去から来たらしい、と言っても」
「それについても俺は興味を持っている。時間を行き来する能力者はこれまで発見されていない。一体どうやって過去からこの時代に?」
何かを探るように問う八神。
「俺にも判らん。今はこの力を完全にコントロール出来るようすることしか頭にない」
「ひょっとしたら、テレパスで覗けるようになったかもな。俺はやらないが」
後藤の言葉に
「マリーさんになら覗く事が出来るかも」
石川が言う。
「いや、井上はテレパシー攻撃が一番嫌みたいだからな、まだ絶対に安全とは言えない。そんな事に一般人のマリーさんを巻き込むわけには行かない」
八神に続き井上が
「俺も嫌だ。絶対させない」
ただマリーを気遣っての発言では無いと言う事は皆感じていた。
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