第26話 リベレイション (解放された心は停止した時を動かす)

 病室では無いから騒ぐのは構わないのだろうが、それでもかなりの賑やかさだ。

「清美、もう大丈夫のようだから私たちは部屋に戻りましょう」

マリーに促され、部屋を出る清美。

あんな男性達にもっと早く出会っていたら、男性に恋していたかもと少しだけ思った。

「清美。私と出会ってくれて、ありがとう。私に愛をくれてありがとう」

そう言ってマリーが抱きつく。

ああ、やはり私にはマリーしかいない、と強く抱きしめ返す。

「運命という言葉を、今実感している。あなたと出会わなければ私の時間はあの時から止まったまま動き出さなかった。今日という日は来なかった。私は呪縛から解き放たれたわ」

「お婆さまの事ね」

「ええ、清美には話しておかないとね。あの時の事」

「つらくない?」

「大丈夫、どこから話しましょうか。そうね、私が力に目覚めたのは初潮の後すぐ。頭の中に周囲の人の声が聞こえだした。それはつらい日々だったわ。特に男達の心の声はおぞましいものもあった。そんな目で私を見ていたのとぞっとしたわ。ママに話しても判ってもらえない。だから不思議な力を持つお婆さまに話した。お婆さまには判っていたようでした。そして力のコントロールの仕方を教えてくれた。聞きたい時に、聞きたい声だけの聞き方を学んだわ」

「判る。私も最初はそうだった。でも私は両親が能力者を嫌っていたから自然と聞きたくない声は聞こえなくなったけど」

「だからあなたは自分が思っている以上に力のある能力者って言ったでしょ。普通、まだ幼い内に自力でコントロールなんて、出来無いものよ」

「私はまだ能力を出し切れていないって事?」

「そう、そのうち判るわ。続き、話してもいい?」

「あ、ごめん。話して」

「その頃の私は男性に抱いた嫌悪感は消せなかった。そんな私にお婆さまは言ってくれた。人を好きになるという事は、その人の内面に共感するからで、性別なんて関係無いって。あなたが共感するのが男性かもしれないし、女性かもしれない。でも、あなたの心が求める人と一緒に暮らせばいいって。おばさまは私の事を理解してくれる唯一の身近な人だった。だから私はお婆さまの家を良く尋ねたわ。力の使い方も教わった。同時に隠し方も」

「隠し方?そんな事出来るの?」

「お婆さまは私に”触れられたくない”事には”触れさせ”無かった。そのやり方も教えてくれた。…今思えば、お婆さまは事件を予感していたのかもしれない。私を巻き込ませないためにいつもより遅い時間に来てって言ったのかも。実はね、井上さんが私の事をお婆さまと勘違いした時、彼の思いが私に流れてきた。お婆さまが私を巻き込ませたくないからって思えたのは、彼がお婆さまに対してそうだって判ったから」

「井上さんの記憶が戻ったの?」

「それは判らない。ただ私をと言うより、お婆さまを守りたいって気持ちだけ流れてきた」

「そう、なの?」

「…あなたがあの方達のお仲間にならなかったら、お仲間に井上さんが居なかったら、その事を知る事は一生無かった。ああ、お婆さまが導いてくれたのだわ」

「うん、きっとそう」

「私の時間は動き出したわ。多分彼の時間も」

その言葉が意味する事を清美は気づいた。

しかし彼らにはもう、伝える必要が無いと言う事も。

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