第25話 コーマ (昏睡と目覚め)

 その日の内に3度、八神をこれまでに無い感覚にさせた理由は驚きの事実だった。

「…待てよ、京都御所。確か大きな事件か事故があったぞ」

「はい。そのため、京都御所は今の時代には跡地とされています」

「思い出した、爆破だ。犯人は見つからなかったが、反天皇思想の者とされた」

「ううっ」

突然頭を抱え、苦しみ出す井上。

「どうした、井上」

「井上さん!」

八神と清美が同時に叫ぶ。

「頭が、…い、痛い」

そう言うと倒れて意識を失う。

そのまま3日間意識は戻らなかった。

目覚めた井上の目に映ったのはマリーだった。

「ああ、琴音さん。夢を見ていました。とても楽しい夢を…」

そして再び目をつむる。

「井上、大丈夫か」

突然、夢の世界から引き戻されたかのように

「あれ、八神。どうしてここに?」

と、尋ねる井上。

だんだんと意識がはっきりしてくる井上。

「そうだ、八神とマリーさんの所に言って色々と話をして…。今何か思い出しかけたのに!」

「お前、マリーさんを見て琴音さんと言っていたぞ」

「琴音さん?…知っている名だ。だけど思い出せない」

「そうか。まあ、切っ掛けは掴めたんだ。近いうち思い出せるさ」

「…」

「琴音。…祖母の名です」

「マリーさん、心配かけてみたいですね。すみませんでした。もう大丈夫です」

「本当に大丈夫か?俺が練習場で確かめてやろうか」

「海老名さんに後藤さん、石川も。…俺を心配してくれたんだ。って、まだ夢見てる?」

「ハハハ、いつもの井上だ。大丈夫みたいだな」

後藤が安心したように言う。

「ところでここは?」

「尋ねたシェアハウスだ。お前を一般病院に連れて行くわけにはいかんだろう。幸い清美さんとマリーさんの部屋の隣が空室だった。そちらに運んで海老名を呼んだ」

「海老名さん、そういえば元軍医だったけ。ありがとうございます」

「お前がまともな礼を言うとは。もう少し様子見が必要だな。後藤、石川。頼む」

「ひょっとして二人して見ていたくれた?」

「まあな。ククク、俺が素直に見ているだけと思うか?」

「一応私は止めたのですよ。一応」

清美の言にはっと、思い

「手鏡無い?それか何か写せるもの」

清美から渡された手鏡を見ると、頬に渦巻き状の線とおでこに波模様が描いてある。

「やられた。でもみんな普通に僕を見てるから気づかなかった」

「まあ、3日もその顔見ていればなれるわよ」

「清美さんまで。え、3日も寝てた?」

「フフフ、このまま目が覚めないのじゃ無いかって、後藤さんが一番心配してらしたのよ」

マリーの言に、信じられないと言った表情をする井上。

「石川なんぞ、涙目だったな」

「それは盛っています」

石川が即、反論する。

「時期副長は僕かなと、微かな期待はしましたけど」

「石川、それはジョークになっていないぞ」

「ジョークではありませんから」

3日で目覚めて良かったと、心底思う井上だった。

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