第24話 ディファレント アビリティーズ (現存する異種能力)

 マリーが”触れた”前後の記憶にずれは無かった。

これまでテレパスにより覗かれた経験は訓練時と、レアな能力者は清美の一度しか無いがそのいずれともマリーの”触れた”感覚は違っていた。

「田中秘書官が以前、井上を我々の能力とは違う特殊な能力者では、と言っていたのはこういうことか」

「はい。私の指導をし、能力を高めてくれたマリーの力は私の知る限り、別のものだと感じていました」

「それについてはマリーさんに直接伺いたい。違うものなのですか?」

「言葉で表すのは難しいです。違うと言えば違うでしょう、同じと言えば同じと言えますから。でも、これでは説明になっておりませんわね。…頭でご使用になられるか、心で使用するか、とでも言いましょうか。そう、以前は能力とは言わず、念力とか超能力と表現していましたわね。歴史書など、過去の出来事を調べるのがお好きなあなたならご存じでしょう」

「念力、超能力という言葉は知っていますが、感覚的にしか判りません」

「今で言う能力は隕石衝突事件後、ウイルスが脳に影響を与えたものです。それ以前にも同じ様な力は、比較にならないほど弱いかもしれませんが存在していました」

「知っています」

「念力は思いの強さ、心の強さで作用していたと考えられていました」

「そうか、同じであって違うと表現したのはそういうことか」

「…井上さんの”反応”は閉ざしてしまった心の”叫び”の様なもの、と私は思っています。先程井上さん自身が語った心の奥の苦しみが関係していると」

「あなたにもそれに近いものがある。だから判ると?」

「…」

「その事をあなたは話そうと」

「もう、良いじゃ無いか。マリーさんにとって、つらい事をさせるなんて」

「お前は自分の事が知りたくないのか!」

「もう良い、もう良いんだ。俺は今の、このままが良いんだ」

「すまん。俺は知りたいのだ」

沈黙が続く。

長く感じられるが、実際にはそれほど経過していないのかもしれない。

マリーが語り始める。

「私は犯罪被害者の家族です。被害者は私の祖母。祖母は念力の持ち主でした。その力で占いの様な事をしていた。一般人はもちろん、能力者であっても占いに頼る人もおります。祖母の念力は対象者の心の声を聞く事。私もその力を受け継いでいます」

「ああ、先程の」

「はい。…そして祖母は占った方の関係者から逆恨みされ、命を奪われました。訪ねる予定になっていました私が見つけ、救急に連絡しました。…私がもう少し早く祖母のところに行っていれば防げたかもしれなかった。私にはその”力”があったのに!…その時に祖母に持ってきて欲しいと言われ、渡した写真立ての下側に隠してあった写真がこれです」

そう言って1枚の写真を皆に見せる。

そこにはマリーとよく似た祖母であろう女学生と、井上と同じ顔をした学生が写っていた。

裏には『愛する井上譲司さんと。京都御所にて』と書かれてあった。

「始め、その人が犯人かと思いましたが、祖母の心に触れた時違うと判りました。…死を覚悟した祖母が、最後に一緒にいたかった最愛の男性だと」

「それで井上を過去から来たと?」

「それだけではありません。祖母は井上譲司さんと別れたわけでは無かった。突然井上さんが消えた。それも祖母が帰郷した数日の間に。…祖母が教えてくれました。力を持った者は、同じく力を持ったものと出会い惹かれ合う、と」

「この井上譲司も”念力”を持っていたという事か」

「どのような力かは判りません。まだ娘だった祖母は、愛する男性の心の奥までは”触れなかった”から」

「それだけではこの井上譲司さんと井上が同一人物とは言えない」

「身体的特徴が合っているのです。それも指紋という。この写真には井上さんの指紋も残っていた。それと比較させて頂きました」

「現在の井上の指紋は清美さん経由か」

「幸い、井上さんはデータベースに情報が無いからと指紋も変えられていない。それ故比較が出来ました」

これ以上無い証拠がある。

皆、信じざるを得なかった。

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