第19話 ラバーズ (謎のありげな不思議さん)
本部に3人が着くと海老名と後藤がいた。
「あれ?なんで2人ともいる?珍しく自由な時間、もらったのに」
井上の質問に海老名が答える。
「お前こそ。清美さんと恋人さんも一緒?」
「そう、俺はお二人を案内してきたんだ」
「フフ、案内はいらなかったけどね。改めて紹介するわ。彼女が私の恋人、マリーよ」
「初めまして、皆さん。マリーと言います」
そう言って井上にしたのと同じように挨拶をする。
「…お二人ともお顔、いじらなくてもとてもハンサムなのに。なんなら私が元に戻して差し上げましょうか?」
「それは遠慮しておくよ。実は訳ありでね」
背後から、来たばかりの八神が言う。
「八神までも?皆やる事、無いのかよ」
井上が言うと
「「「お前が言うな!」」」
と、お決まりの台詞だ。
「先程のマリーさんの言、何?」
海老名が清美達に問う。
「彼女の能力の一つ。対象のDNA情報を読み、解析出来る。それを元に治療したり欠損部分が大きく無ければ復元したり出来るわ。整形した顔を元に戻すなんて簡単な事」
何故か清美が自慢げに答える。
「お二人をここに来て頂いたのはそれが理由だ」
「八神は知っていたのか」
海老名の問いに清美が答える。
「マリーが八神隊長のお力になりたいと言うから。私としては関わって欲しくなかったのだけれど」
「申し訳ない。マリーさん本人に確認したい事があったのでね」
「井上さんの事ね」
マリーが確認をする。
「そうです」
「ちょっと待って。俺の事なのに俺は呼ばれていないぞ」
「お前の行動予想はつく。俺が遅れたのは拾得物保管倉庫に寄ったからだ」
「俺って、そんなに単純?」
「いや、お前以上に複雑な奴はいない。だが、お前の行動は俺にも読める」
八神の代わりに後藤が答える。
「なんかリアクションに困る返答だな」
「フフフ、清美から聞いていた通りの方々ね」
愉快そうにマリーが言う。
右手の指を軽く曲げ、口の前に持ってきて微笑むその仕草も井上の何かに触れるのか、黙ってマリーを見つめている。
ハッと我に戻り周囲に軽く視線を巡らし、その事をごまかすように
「そういえば石川は?」
「石川は下で準備をしている。ご婦人2人をあんな所にそのままお連れするわけにもいかんからな」
下とは練習場の事だが、ほとんど特訓場と言った方が的を射ている。
一般部隊の柔剣道場や射撃練習場の様なものの能力者版といったところか。
「一応、応接室らしきものはここにもあるけど」
「井上。お前、わざとボケかましているだろう」
「流れからいって、嫌な感じしかしない」
「心配するな。清美さんとマリーさんの為だ。あそこなら”場”を張っても不審に思われないからな」
「もっと嫌な感じになってきた」
「その事でしたらもう、必要ありません。井上さんの記憶喪失はフィジカルの問題ではありません。心の修復は私にも出来無い」
それまでのマリーとは打って変わって悲しげな、そして寂しそうな表情をしている。
「やはりそうですか。わずかでも可能性があるかと思い見て頂こうと思ったのですが」
「隊長、準備完了です。ティーパーティーも出来ますよ」
タイミング良く?石川がやってくる。
「あら、あなたもお顔をいじっているのね。元のお顔の方が良くてよ」
「?何の事ですか?」
どうやら”顔をいじっていない”のは、八神と井上、それと田中秘書官だけのようだ。
理由がある3人には当然だが、八神と清美も素顔なのは井上には新鮮だった。
察したように清美が
「石川さん、彼女が私の恋人、マリーよ」
そう言ってからマリーの能力を先程と一語一句違えず説明する。
「私を整形しても、彼女がすぐに戻してしまうから無駄なのよ」
「当然よ。清美の雰囲気に合った顔はその顔だけだもの。それに素のあなたの全てを私は愛しているの」
ごちそうさまと言いたいところだが、井上の様子がいつもとは違う事に皆、気づいていた。
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