第17話 パスト (石川の過去と深まる絆)
八神と田中秘書官がZ班の部署に戻ると、珍しく全メンバーが揃っていた。
「お帰りなさい。隊長、清美さん。僕の情報、”ガセ”じゃ無かったでしょう」
「ええ、実際各国で活発になってきているようね」
「皆、ガセだって言うんですよ」
「からかって、面白がっているんだよ」
「あなた自身の口からあなたの事を話しても、良い頃じゃ無い?」
「…まだちょっと照れくさいです。でも、清美さんが言うなら」
石川は自分の過去から現在に至るまでを話し始める。
「あなた方の”消された闇の10年”は能力者の戦争時における戦略、戦術優位性を全世界に実証しました。その結果、各国で能力者の発掘、開発等無茶苦茶な事をしてきました。しかしどの国でもこの国の100分の1程度でしょう。この国は今や能力者大国だ。そんなこの国でも能力者の立場はそれほど高くありません。むしろ評価は低い。逆に他の国では能力者は特別な存在となっています。その片鱗がある者を幼少の頃から集めて能力を高める施設が多く出来ました。僕もそんな施設にいた」
「じゃあ、結構待遇良かったんじゃない?」
「優遇されるのは施設を優秀な”成績”で出る事が出来た者たちだけです。そんな状況で、施設内では何が起きると思います」
「まあ、トラブルはどんな施設でも起きるわな」
「トラブルなんて、そんな生やさしいものじゃない。殺し合いに近い事が起きるのです」
「幼少の頃に集められるといっていたな。…推して知るべし。か」
「はい。特にレアな能力者は的になりやすい。初めの頃は私も畏敬と尊敬の入り交じった目を向けられました。しかし、成長と共にそれは悪意を持ったものになってくるのです」
「つまりは他の者達の”的”にされるわけか」
「安心して眠る事さえ出来無い。そんな状況が何ヶ月も続きました。だから私は能力が伸びない振りをした。おかげで的は他の者に向けられた。すると今度は教官から責められるのです。レアな能力者は稀少ですから、上層部も注視する。そのため教官も自分の指導力を疑われないよう必死になる。拷問のような”指導”の日々が続く」
「それでもお仲間の子供達の的になるよりは、か」
「はい。私は自分の能力を、そして母国を恨み続けました。そしてこのZ班の存在が情報としてもたらされると、潜入調査が計画された。私は施設から、そして母国から出るチャンスだと思った」
「人選は選考会か」
「はい。能力を使った勝ち抜き戦でした。それまで隠してきた力を存分に使いました。これまで受けてきた”指導”のおかげで目覚めた力も役に立った」
「その能力については言わなくて良い」
八神が間髪を入れず言う。
「やはりここは良い。ここは私を認め、受け入れてくれる」
「まあな。お前も、もう仲間と言うより兄弟みたいなもんだ」
「その言葉が事実と実感出来たから、母国を裏切るのになんの躊躇も無かった」
「それ以上は言わなくて良い。嫌な事をさせたな」
「嫌な事ではありませんよ。皆に僕を知ってもらう事は」
海老名が口を開く。
「お前、この国は能力者大国だが評価が低いといったな。能力者が多い事が一つの要因だ。判るな」
「実際にこの国に来て判りました」
「つまり俺が言いたいのはだな、俺たちもお前と似たような者だと言う事だ」
「なんか、記憶の無い俺が最低みたいな感じになっていない?」
井上の一言が雰囲気を一気に明るくする。
「自覚しているのなら許す」
後藤が例のにやけ顔で言う。
「やっぱそう思っていたんだ。なら俺は皆の過去を石川に話す」
「お前が話すと俺たちが悪人になる。ここは清美さんの出番だ」
後藤の振りに田中秘書官が答える。
「その必要は無いでしょう?家族の様なものだから秘密があってはいけないの?それにいずれ知る事になるでしょう。重要なのはどの国においても能力者が軍等の組織にとって、道具でしか無いと言う現実よ」
「その通りだ」
井上の発言に
「「「お前が言うな」」」
と、声を揃えて言う。
過去の記憶が無い井上のつらさは皆、判っている。
その上での会話なのだと言う事を共有出来る事が石川には嬉しかった。
Z班という”家族”の一員である事を実感出来るのだから。
これまで得る事の出来無かったものがここにはある。
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