第14話 プロモーション (裏のある昇進)

 石川も部隊に慣れ、隊員達ともうち解けていた。

作戦行動の展開も必勝パターンが定着し、安定してきていた。

八神は石川のトップダウン人事の件と共に、Z班の国外派遣が多くなった事についてそれとなく動いていた。

八神の懸念はどうやら的中していたようだ。

井上の存在が他国に漏れている。

問題はどこから漏れたか、あるいは漏らしたかだがそれは掴めなかった。

軍、そして特務警察も隊員を指示無くテレパスで読む事は禁止されている。

もし破れば処分される。

その事を見張る特殊な部署もある。

機密保持のため、当然の事だ。

そのため地道に調査するしか無く、時間も労力も要する。

いくら優秀であっても八神1人で調べるのは限界がある。

石川からのルートをまず疑ったが、それは無さそうだ。

隊長としてその事は八神を安心させた。

しかしそうでは無いとすると、問題は大きい。

国家としては井上の存在は隠しておきたかったはずだ。

万が一有事の際、彼が切り札となるはずだからだ。

それを鑑み、それでもその存在が知られた原因を考えていた。

スパイ衛星から得た情報では無いだろう。

存在が判った後でならピンポイントで井上を追う事も出来るだろうが、その前では不可能だ。

それまでの作戦行動は、スパイ衛星が上空にいない時間帯に行っている。

事後に消滅の痕跡を見つけたとしても、土地の再開発に見えるよう処理してきた。

能力者のスキャンも無い。

井上をスキャンすればその能力者はダメージを受ける。

深く潜ろうとすればするほどダメージも大きい。

最も、テレパシーに依る介入は先の話にも出たが厳罰対象となるため、専門の監視部が絶えず監視、そしてブロックしている。

国家の利益、又は取引の材料として、敢えて井上の存在を漏らしたか。

無いとは言えないが、それで得る対価としての利益はあるのか。

政治家には井上の存在は知られていないはずだ。

その可能性も低いだろう。

考えたくは無いが、軍上層部が漏らした可能性も懸念される。

軍内部に八神を、そしてZ班を快く思っていない者がいる事は事実だ。

しかし軍人が軍の最高機密情報を他国に漏らす事は国家反逆罪にもなりかねない大事だ。

それほどのリスクを冒すとも考えにくい。

せいぜい八神に嫌がらせをする位だろう。

一番の問題は、井上の存在が切り札とならなくなった場合だ。

井上と同等か、それ以上の能力者が存在する可能性を示唆する事になるからだ。

八神にはその可能性がそれほど高いとも思えない。

(情報が足りない、もっと探る必要があるな。今の俺でどこまで探れるか、それがネックというわけか)

八神は国家ガバナンスに介入出来るだけの地位にまだいない自分を悔いた。

いずれ井上の存在が明るみに出る事も想定していたが、予想以上に早く井上の存在が漏れた。

構想を立て直す必要が出てきた。

(井上の力の確認とZ班の分析の為の海外派遣だろうが、まだ結論は出せていないはずだ。もっと状況の悪い現場に送られるだろう。どこまでメンバーの能力を抑えた状態で対処出来るか、だな)

井上に対抗出来る能力者がいるなら、そのうち対峙するだろうと漠然と思っていた。

もし対抗出来る能力者がいるのなら、だが。


 そんな折、Z班に再びトップダウン人事が出た。

名目は八神の将校進級に当たり、秘書官を付けるというものだった。

八神の将校進級自体、異例の事であるため辞退は出来無い。

無論辞退する気も無い。

Z班の評価は正当にされているようだ。

副官では無く秘書官とされている事は八神としても有り難い。

その秘書官がZ班本部に来た。

「Z班八神大佐の秘書官として着任致しました田中であります」

「ヒュー。ここに女性が配属されるとは」

後藤がまじまじとその秘書官を見つめながらに言う。

「綺麗なお姉さんは大歓迎!よろしく」

井上が言うと

「階級は中尉。皆さんとは同級ですが一言、言わせて頂きます」

「許可する」

八神が答える。

「私は実戦には同行致しません。が、隊長には秘書官として意見を、そして部隊の皆さんには指示を出す事が出来ます。それには従って頂きます。よろしいですね」

「要は俺たちのお守り役って訳か」

「別に坊や達の面倒を見る気はないわ。でも、八神隊長がされようとしている事のお役には立てると思う」

一瞬にして場の空気が緊張する。

「遅くなりました。例の件、判りましたよ。あれ、この人、どなた?」

石川の出勤が緊張を解いた。

「八神大佐の秘書官、田中です」

そう答える田中は、上官の顔に戻っていた。

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