第13話 アディショナル スタッフ (仕組まれた増員)

 井上が職務質問を受けたひと月後、隊長の八神が告げる。

「Z班が増員される事になった」

本来増員は喜ぶべき事だが、八神の表情はそうでは無い。

「上からの指示か」

海老名が尋ねる。

「ああ」

その答え方からも、八神の人選では無い事が窺える。

「何か問題でも?」

井上が確認する。

「隊員としての資質も能力も問題は無い」

「素性の問題かい?」

後藤が察して言う。

「…人事は俺に任されているはずだが、トップダウンでのものだ。それで少し調べようとしたが情報を得られなかった。それも井上の場合とは少し違う」

「またまた裏がありそうな話だな。先日の八神の情報がほんの一部だが特務警察に漏れた件もある。上層部に不穏な動きがある事は確かのようだ。だが、察するに今回は少し違うようだな。それで八神はどう推察した?」

実務上、副隊長と言って良い海老名が尋ねる。

「大国の介入」

「要はスパイか。ま、俺たちも似たようなもんだがな。どんな能力なんだ?」

再び海老名が尋ねる。

「能力の無効化だ」

「チームの新戦力には打って付けじゃ無いか」

「俺の構想にハマりすぎている。そこがまず気に入らん」

「隊長が欲しいと思っていた人材なんだろ?なら良いんじゃ無い」

「だから了承した」

「実際会って、行動を共にして、出動時の働きを見て。…違和感があれば処理すれば良いだろう」

「ちょっと、面白くなりそうだな」

「全く、どういう神経しているのやら。…とりあえず仲良くやってくれ。今の会話はなかったことにして」

「判ってるって。それで、何て名前だい?」

「石川。後は本人に聞け。それと訓練所を出たばかりの新人だ。そこら辺も頼む」

「任された」

と、井上が言うと

「「「お前が言うな!」」」

他の3人が口を揃えて言う。

少し間を置いて

「よし、井上。今からお前をこの隊の副長とする」

「え?海老名さんが副長じゃ無かったの」

「いや、俺は副長など任されていない。それに案外向いているんじゃ無いか?お前と八神は思考も似ている気がする」

「初めて言われた。絶対違うと思う」

「いや、俺も前からそう思っていた」

後藤が頷きながら言う。

「ひょっとして、これっていじめ?」

「違う。お前は気がついていないかもしれんが、現場で八神から指示が出る前にお前は絶妙の位置につく」

「それは後藤さんが送ってくれる情報があるから」

「俺は情報を送るだけで、指示は伝えていない。それでもその時その時の状況で、任務遂行に最適な位置にいる。それも俺たちにとって最良な位置に」

「今までこんなに褒められた事無い。やっぱりいじめだ」

スパーンと八神が井上の頭を痛くないように叩く。

そして何か照れたように井上から顔をそらす。

「なんか漫才みたいだな。どっちがボケでどっちがツッコミかは言わないが」

海老名が楽しそうに言う。

「まあ、言わなくても判るけどね」

後藤も楽しそうに言う。

「やっぱりいじめだ」

「「自分でも判っているじゃない」」

海老名と後藤が声を揃える。

「初顔合わせが石川の初出動になる。その時は俺が付く」

「当然そうなるわな」

「副隊長となった俺の側に付けようか」

井上の悪ふざけはスルーしても良いものだったが

「いくらトップダウン人事で気に入らないと言っても、来てすぐ消しちまったら隊長の職歴を汚す事になる。八神にはもっと上に行って貰う。俺たちの為に」

海老名が真面目な顔で言う。

「そうだな」

後藤も同意見らしい。

さすがに井上も頷くしか無い。

「まあ、配属されるまでまだ二ヶ月ほどある。可能な限り調査する」

「無茶はするな。上層部が絡んでいるとなると、お前の立場もある。動き出すのはまだ早い」

海老名が意味深な事を言う。

「?何?何か計画でも」

「お前は副隊長としてする事が山積みだ。これから俺たちがみっちり教育してやる」

井上の言葉を遮るように海老名が言う。

「部下が上司を教育って」

「お前は軍規すら知らんだろう。組織の構成とか他にも覚える事は多いぞ」

「やっぱり副長は海老名さんで」

そんな台詞は無視されて海老名と後藤の指導が早々始まる。

あっという間に二ヶ月は過ぎた。

井上にも多少副長としての自覚は出てきたようだった。

ニューフェースとの初出動も5日後に決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る