第12話 インベスティゲイション (進まぬ捜査)
張り込んで接触した少年は軍関係者のようだった。
「丸山さん、どうでした」
「嘘はついていなかった。それに能力者でも無いようだ」
「そうですか。今回は空振りだな」
「山口さん、私は軍関係者というのが引っかかります」
丹羽の言葉に浅野が
「君の”感”はテレパスより当たるからな。ちょっと調べてみるか」
「からかわないで下さいよ。丸山さんには敵わないのですから」
「いや、私も君の”感”は無視出来ない」
丸山の真剣な顔に少し照れる丹羽。
「そういえば、浅野さんは軍の関係者に知り合いがいましたね」
「ああ、そっちから突っついてみようかと」
「無駄かもしれませんが、お願いします」
「了解」
実のところ、四人とも消滅事件は軍関与の可能性が高いと思っていた。
思わぬ所で繋がったと言う思いだった。
しかし少年の言葉には嘘が無かった。
少しでも気になる事が有り、それに繋がる何かがあれば調べずにはいられない。
刑事の”性”と言うべきか。
捜査は思いのほか難航した。
少年に繋がる事象には至らない。
研究所のガードが異常なほど強く、進展を阻んでいた。
ただ浅野が軍関係で得た情報があった。
「今回の事に繋がるかは判らんが、少年というキーワードから一つ情報があった」
「何ですか?」
山口と丹羽が浅野の目を直視する。
「軍に青年、と言うより少年将校がいる」
「少年将校?」
「ああ、いわゆる超のつく秀才だな。16歳で軍の上級職試験をTOP合格し、18歳で部隊長になったらしい。そして人事権も与えられている。しかも特殊部隊らしい」
「例の少年との関係は?」
「その件に関しては全くと言って良いほど情報が入ってこない」
「少年の施設も軍の関連組織でしたね。何か繋がりは無いのでしょうか」
「少年が能力者ならそうかもしれんが、丸山の調査ではそうでは無いらしい。軍の上級将校の親戚関係で、ろくでもない小僧が預けられているという噂もある。今のところなんとも言えん」
「そうですか。ちなみにその少年?将校、画像はありますか?それと名は?」
「画像は無い。多分最初にお前達が見かけたのは彼だろう。名は伊神とか八神とかそんな名だったと思う」
Z班のメンバーが招集では無く久しぶりに全員集まっている。
「井上、お前刑事に職質されたってな」
「例の倉庫に行った時、ちょっと」
「その刑事達、色々と嗅ぎ廻っているらしい」
「正直に話したつもりだけど、かえってまずかったかな」
「お前に関しての情報が漏れる事は無いだろう。だが、俺の事まで調べているようだ。最も最初に尾行されたのは俺だがな。油断していたわけでは無いが、行動の指示が出ていたからな」
若すぎる将校を妬む他の将校は多い。
立場を利用し、色々と仕掛けて来る事も当然ある。
「裏があるみたいだけど、ちょっとまずかったかな」
「大丈夫だろう。後藤も海老名も存在していない事になっている。このチームに辿りつく事は無いだろう」
「まあ、みんなが一緒にいるところを見つかっても、コンパで通るだろう」
後藤が興味なさげに言う。
「バレたらバレたで俺が始末するさ」
楽しみが一つ出来たかのように喜々とする海老名。
「成約は守れよ。もし破ったら」
八神が面のように無表情で言う。
「ジョーク、ジョーク。一般人には手を出さないよ」
「なんか、俺のせいで悪いね」
「まあ、お前の唯一の楽しみだ。するなとは言わんが普通の出入り口はもう使わん方が良いかな」
「管理人の叔父さんとも仲良くなれたし、一番行き易い出入り口だったんだけどしょうが無いね」
Z班は八神が軍での地位を確固たる物にするため、最強のチームとなる少数精鋭のメンバーを選抜した部隊だ。
不協和音を排除する目的も有り、年齢はさほど離れていない。
最も井上の年齢は不明だが、見た目は高校生だ。
実際にそんな年齢なのだろう。
彼の行動や思考、言動からも八神にはそう思えた。
年齢が若く、近いからこそチームとしての絆は強いのかもしれない。
そこでは皆、素直な自分になれた。
素の自分をさらけ出し合い、認め合っているからこそ生まれる一体感と言うものがある。
それが見事にはまったのがZ班だった。
「で、八神隊長はどうするんだい?何かアクションを?」
「先ほども言ったが、この班に辿りつく事は出来無いだろう。ほっておくさ。上はここぞとばかり口を出そうとしているがね。口は出させても、言いなりにはならない。それ以上の事もさせない」
「おお、こわ。端正なルックスだけに凄みがあるね」
海老名が茶化すように言う。
それを受け後藤が
「お前だって、なかなかのもんだぞ。医者時代、ナースにもてたろう」
「あの頃は真面目だったからね、残念ながらそんな余裕無かったよ。スキップして16で医大に入ったから、うぶだったしね。そういう後藤はどうなんだ?」
「後藤ちゃんもなかなか。20年も経てば渋い叔父さんになれる良いルックスじゃん」
井上の台詞に
「らしくない台詞だな。しかし美少年のお前に言われても、なんかな」
皆、笑い声を上げる。
会話が脱線するのは、若者の特権だ。
実際、特殊部隊員としての職務は殺伐としているが、仮にアイドルグループとしてメディアに出れば超人気グループになれただろう。
整形したと言っても、下地が良くなければこれほど美形にはなれないだろう。
見た目、17歳から23歳位の若者だ。
ある意味目立つ存在なのは間違いない。
しかしそれが逆に特殊部隊としての側の、隠れ蓑にもなっている事実は否めない。
実際その後、それ以上捜査が彼等に及ぶ事は無かった。
山口、丹羽、丸山、浅野達も大きなヤマを任され、それどころでは無くなったと言う事情もあった。
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